2011315
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岡芳明・早大教授[3/17版]

大地震後の東電福島第一原子力発電所の状況(推定)

[English(PDF)]

Ver.1.1 (Updated: 110317)

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大地震後の東電福島第一原子力発電所の状況(推定)

※日本時間3月17日午前1時までの情報による

岡 芳明 教授(早稲田大学共同原子力専攻

米国原子力学会理事、日本原子力学会会長などを歴任。 東京大学名誉教授。

専門分野:原子炉設計工学、原子炉物理学 等

 

経緯の整理

1. 地震により原子炉は自動停止。発電所外からの送電が停止(外部電源喪失)。非常用ディーぜル発電機(DG)が作動。非常用原子炉冷却系も作動した。

2. その約1時間後に襲った大津波により冷却用海水取入れ系統(ポンプなど)が損傷して、最終的な放熱先である海水へ放熱方法が失われた(究極ヒートシンク喪失)。設計基準を超える過酷事故と呼ぶ事故が生じた。DGは運転に伴う発熱の除熱ができないので停止した。非常用冷却系も除熱先がないので長くは運転できなかった。最終的な放熱先がないので燃料の放射能から出る停止後の発熱(崩壊熱)により原子炉の水の温度と圧力が上がり、原子炉容器の水位が下がり始めた。

3. 過酷事故の対応(手順は1990年代に用意した)を開始。

4. 原子炉から蒸気を格納容器に放出し、格納容器の圧力低減のため(格納機能を保つため)格納容器内の気体を原子炉建屋に放出した。(原子炉の構造などはたとえば電気事業連合会のHPを参照のこと)

5. 原子炉容器を減圧し、移動式の電源とポンプで海水をくみ上げて原子炉と圧力容器に注水し、水位の低下防止と除熱を図った。

6. ポンプの能力に比べて原子炉の圧力が高いなどの理由で、水がうまく入らずに1次的に原子炉の燃料棒が露出し温度が上がって、燃料被覆管のジルコニウムの酸化(発熱反応)による水の還元で水素が発生した。原子炉と格納容器の減圧に伴って水素は格納容器を経て原子炉建屋の上部にたまった。12日と14日に1号機と3号機で水素が爆発的に燃焼し、それぞれの原子炉建屋上部が破壊された。原子炉容器とその格納容器は厚さ2mのコンクリートの内部にありこれで損傷はしなかった。(原子炉が爆発したのではない。原子炉は停止している。)。2号機については15日に格納容器内で水素が爆発的に燃焼しその格納機能が損なわれた可能性がある。

7. 水素は水の放射線分解でも発生する。水素再結合器が機能していないと、原子炉建屋上部に蓄積する。地震時に停止中だった4号機の使用済み燃料プールでこれが生じている可能性がある。建屋上部で水素爆発が生じても使用済み燃料プールは深い(7m)のでその底にある使用済み燃料が損傷を受けることはない。水位が下がると放射線遮蔽機能が低下するので注水が必要。たとえば消防車で注水可能。

8. 発電所サイト外では放射線のレベルの上昇がみられるが放射線障害が問題になるレベルよりはるかに低い。サイト外で観測されている放射性物質(放射能)の大部分は希ガスと思われる。希ガスは化学反応性がないので大気中に拡散して濃度が下がるので被ばく上は問題ない。一部は揮発性の放射性物質でこれが衣服などに付着したと思われる。揮発性の放射性物質は原子炉燃料が水で覆われていれば水に溶けるので、環境にはほとんど出てこない。環境に出たものは1次的に燃料が水で覆われなかったときのものが主と思われる。水に溶けたものも、水が高温になると放出されやすくなる。

 今後観測される放射性ヨウ素の量によっては、サイト近傍の野菜や果物、牛乳の摂取制限が必要になる。ヨウ素は子供の甲状腺に蓄積しやすいので、汚染された牛乳は廃棄の必要がある。このレベルにはならないように思われる(SMC注:3/19夕方に福島県・茨城県で基準を超えた値が検出された)。1986年の旧ソ連の原子炉事故では炉心の爆発と炉心構成物の黒鉛の大規模火災で、ヨウ素を含む多量の炉心物質が環境に放出された。(東電の原子炉は形式が違うので黒鉛は使われていない)牧草が汚染され、それを食べた乳牛からの牛乳の摂取制限がなされなかったためにそれを飲んだ子供の甲状腺にヨウ素が蓄積して、多くの子供が甲状腺の手術を受けた。これまでの水素爆発は溶融炉心の大規模の飛散ではないので、ヨウ素が大量に環境に放出されてはいない。ヨウ素は水に溶けるので水で原子炉燃料を覆うことが重要。

9. 放射線や放射能はごく微量でも計測できる。平常値の何10倍、何百倍といった報道がされやすいが、現在報道されている値は健康障害のあるレベルよりはるかに(何桁も)低い。許容値も健康障害の観測されるレベルではなく50倍程度の余裕がある。なお発電所作業員の許容値は公衆のそれとは違う。作業員(従事者という)はリスクを承知で仕事についているので公衆より許容値は高い。その放射線障害は労働災害の範疇。なるべく防ぐべきことは言うまでもない。鉛板のチョッキ・前掛けや呼吸マスクで作業することで低減できる。

10. これまで1号機、3号機、2号機と順に生じた3回の爆発はいずれも水素の爆発的燃焼によると思われる。最初の2回は水平方向に煙が上がったが。3回目の2号機の格納容器内の爆発で煙が高く上がった。これは、格納容器の周りのコンクリートによって上方に爆発物が放出されたためと思われる。もし3回目の爆発が溶融炉心と水の反応による水蒸気爆発なら、多量の放射性物質が周辺にでたはずで、放射線レベルがもっと上がるはずである。水素爆発のプルームの高さは200-300mと高くないようなので、成層圏まで達して運ばれる放射性物質の量は多くないのではないか。

11. 風の向きや強さを考慮して放射線物質の大気拡散を計算できるプログラムがあるので、それでかなり予測できるはず。

12. 降雨で大気の放射性物質が地上に来るので、なるべく雨に濡れないこと、(雨に)ぬれた(食べ)ものは洗って食べることが必要とおもわれる。放射線の計測値点は多くあるので、降雨による影響はよく観測できる。20-30年前まで大気中核実験が行われた時はいつも、観測値が上がっていた。

(カッコ内SMC注記)

まとめと今後の対応

原子炉安全確保の原理の、止める、冷やす、閉じ込める、のうち、止めるは地震と同時に自動停止で達成され維持されている。冷やすは海水注入で行われている。原子炉燃料を水で覆いつづけることが重要。それとともに最終的な除熱先確立に向けた対応がなされると思われる。外部からの電力が回復しているかどうかよくわからないが回復したら、健全な設備の再稼働により安定化・鎮静化する方策がある。「閉じ込める」も水で原子炉燃料がおおわれていれば、最低限は確保できている。

大規模な火災は放射性物質の飛散防止のために防がないといけないが、可燃物は原子炉建屋にはほとんどないのでその可能性は低いとおもわれる。発生した水素の爆発の防止がこれに次ぐ。

避難は過酷事故時の安全確保対策として事前に設定されていたもので、立地地域では年1回防災訓練も行われている。

避難や自宅待機(30km)の範囲外では、(例えば東京から)避難したりする必要はない。

事故の対応は事業者や政府・自治体とも正しくおこなわれている。今後もその指示に従うのが良い。

 

情報は例えばNHKのHPでえるとよい。

 

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専門家によるこの記事へのコメント

  1. リンク先ブログで、本記事を参照させて頂きました。ところで、本文2の「DGは運転に伴う発熱の除熱ができないので停止した」は、他の多くの報道ではDGの設備が津波で浸水して機能停止したという事になっています。最新の情報ではどちらが正しいのでしょうか。

  2. ななし

    浪江町ですでに150μSv/hです。
    これは、この街で一年間暮らすと致死量になります。
    楽観視しすぎです。

  3. YAMASAKI

    気になって仕方がないので、もう少しいろいろ教えてください。

    1)圧力容器(?)内に海水を注入し続けているのに、いつまでたっても燃料棒が半分ほど露出したままなのはなぜでしょう?注入した海水はどこに消えているのでしょうか?

    2)燃料が溶融したら水に当たって水蒸気爆発で爆散するまで何もかも溶かしながら地下に落ちていく(チャイナシンドローム?)というのは嘘ですか?格納容器内で止まるという先生がいましたが、なぜそこで止まるのか教えてください。

    3)燃料プールの水が干上がったまま燃料を放置すると何が起こるのでしょうか?チャイナシンドローム(?)になりますか?

  4. 桃太郎

    岡教授の推定は、素人にも概略の理解に役立ちますね
    これからも、発言、論議を継続し、啓蒙をお願いします

    僕は1931年生まれの戦中派、戦後派の一人であります
    広島、長崎の原爆は、報告書などにより周知しています

    しかし、原子力発電所の原子炉制御については無知です
    昭和36年2月、河合武著「不思議な国の原子力」再読です
    その後の原発建設など、注意怠慢かな、自戒しています

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