Horizon Scanning 2025-#27「宇宙太陽光発電による脱炭素社会への貢献可能性」、「利他的行動を駆動するのは「恥」よりも「罪悪感」」等

2025年8月21日

Horizon Scanningでは、これから議論になることが予想される科学技術のトピックに関して、(1)海外SMCからの情報、(2)学術出版社や研究機関からの情報をお届けします。

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【エネルギー】【宇宙】 宇宙太陽光発電による脱炭素社会への貢献可能性

『Joule』誌に掲載された研究によると、宇宙空間に設置する太陽光パネルにより、2050年までに欧州の風力・地上型太陽光依存を最大80%削減できる可能性がある。全体コストも7〜15%低下が予測される。NASA提案の2方式(平面型・ヘリオスタット型)はそれぞれ短期・長期的な優位性を持つが、無線送電や自動組立など技術課題は依然として大きい。段階的開発により将来的に脱炭素の柱技術となると期待されている。

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掲載誌:Joule

掲載日:2025年8月22日

【認知科学】【心理学】 利他的行動を駆動するのは「恥」よりも「罪悪感」

国際共同研究により、20カ国での調査から「罪悪感」が人々を向社会的行動へと駆り立てる主要な感情であることが明らかになった。研究では「独裁者ゲーム」を用い、金銭分配行動を通じて動機を分析。その結果、恥よりも罪悪感が利他的行動を促進し、ときには自己犠牲を伴っても他者に利益を与える傾向が確認された。 また、選択の影響を理解している場合、人は「知らないまま幸せでいる」よりも他者に利益を与える選択をしやすいことが分かった。日本も含め、調査国全体でこの傾向は共通していたとのこと。

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    掲載誌:Nature Human Behaviour

    掲載日:2025年8月11日

【感染症】 SMC-UK 専門家コメント:中国におけるチクングニアウイルスの流行

Dr César López-Camacho, Group Leader and Jenner Investigator, at the Jenner Institute, University of Oxford

—中国におけるチクングニアの流行はどの程度深刻か?これは異例の事態か?
はい、これは重大な流行です。広東省だけで7,000件を超える感染が確認されており、中国で記録された中で最大のチクングニア流行です。これまでは輸入症例が数件あったのみで、持続的な地域内感染はありませんでした。今後数週間でさらに感染報告が増える可能性があります。チクングニアが中国本土で定着したことがない点が注目されます。つまり、大多数の人々が免疫を持っておらず、ウイルスが急速に広がりやすい環境だったと考えられます。一般に、蚊媒介ウイルスはこのような「ウイルスに対して無防備(ナイーブ)な集団」で流行が起きやすくなります。

—主な症状や危険性は?リスクの高い人は?
突然の高熱、激しい関節痛・筋肉痛、倦怠感、発疹、頭痛が特徴です。多くの人は2週間ほどで回復しますが、特に高齢者では長期にわたる関節痛が残ることもあります(関節炎のような症状)。致死率は低いですが、非常に不快で生活に支障をきたす場合があります。最もリスクが高いのは高齢者、新生児、基礎疾患を持つ人々です。

—感染経路は?
感染したネッタイシマカ(Aedes aegypti)やヒトスジシマカ(Aedes albopictus)による蚊の刺咬です。これらの蚊は昼間に活動し、暖かく湿った環境を好みます。チクングニアは人から人へは直接感染せず、発症初期に蚊が感染者を吸血することでウイルスが拡散します。

—パンデミックになる可能性は?
パンデミックになる可能性は非常に低いです。人から人へ感染しないためです。ただし、免疫がない集団で蚊が多く存在する地域では大規模流行が起きる可能性があるため、中国での状況はまさにその典型です。また、この流行株の遺伝子配列解析が重要です。過去の流行では、ウイルスの変異により新たな蚊種への適応が起きた例があります。ワクチンの有効性が維持されているかを確認するためにも、血清サンプルを用いた研究が求められます。

—中国渡航者へのリスクは?
中国南部(特に広東省)に渡航する方は注意が必要です。CDCはレベル2の渡航注意情報を発出しており、虫除け、長袖着用、エアコンまたは網戸のある宿泊施設の利用を推奨しています。帰国後に発熱や関節痛がある場合は医療機関を受診し、渡航歴を伝えてください。

—ワクチンはあるのか?推奨されるか?
はい、現在2種類の承認済みワクチンがあります:
IXCHIQ(Valneva社):英国・EUなどで承認された1回接種型ワクチン
Vimkunya(Bavarian Nordic社):12歳以上に承認され、強い免疫応答を確認
ハイリスク地域への渡航者は接種を検討すべきです。旅行クリニックで接種の適応と在庫を確認してください。

【医療】【社会学】 患者にとって白衣は依然として専門性と信頼の象徴だが、女性医師は誤認されやすい

医師の職場での服装と患者認識に関する国際レビュー研究によると、患者は多くの診療場面で医師に白衣着用を好む一方、女性医師は同じ服装でも看護師や医療助手と誤認されやすい傾向が示された。 2015年から2024年の32件の論文レビューに基づき、救急医療では白衣や手術着、プライマリケアではカジュアル+白衣が好まれることが確認された。また一部診療科ではスーツやアクセサリーが専門性認識を高める効果も見られた。研究者らは、服装規定を患者の期待に合わせつつ、特に女性医師への公平な認識を促進する必要があると指摘している。

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    掲載誌:The Lancet Gastroenterology & Hepatology

    掲載日:2025年8月13日

【消化器】【AI】 大腸内視鏡検査における医師の「目利き」能力がAI導入で低下する可能性

ポーランドの観察研究によると、AIツール導入後、非AI環境での腺腫発見率が低下する現象が確認された。1,400件超の検査分析では、導入前28.4%→導入後22.4%へと低下。一方でAI使用時は25.3%に上昇しており、依存が技能劣化を引き起こす可能性がある。研究者は、AI支援の恩恵を活かしつつも非AI診療を定期的に行うなど、技能維持策が必要と提言している。

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    掲載誌:The Lancet Gastroenterology & Hepatology

    掲載日:2025年8月13日

【生態学】 オーストラリアの野生鳥類における性反転の高頻度観測

オーストラリア・クイーンズランドに生息する5種の野鳥において、遺伝子型とは異なる性表現型(性反転個体)が3~6%の割合で存在することが確認された。従来の形態や遺伝子依存の性判定では見逃されていた可能性があり、集団の性比や繁殖ダイナミクス研究に大きな影響を与える可能性がある。研究者は、性決定の柔軟性が鳥類で広く存在する進化的現象であると指摘している。

【動物保全】【技術】 ドローンを用いた新技術でクジラへの非侵襲的モニタリングが可能に

米国研究チームは、ドローンを用いた「タップ&ゴー」方式により、マッコウクジラへの吸引タグ装着を効率化する技術を開発した。カリブ海での試験では平均75秒で装着に成功し、従来必要だった船の接近を不要とした。この技術は非侵襲的かつ低コストな手法として、海洋生態系研究や保全活動に広く応用可能と期待される。

【社会学】【家族】 コロナ禍で子を持つ親は浮気傾向が強かった可能性(米国調査)

COVID-19パンデミック中、子を持つ親は非親に比べ浮気願望・行動が顕著に高まった。米国の異性愛者1,070人を対象とした調査では、不倫経験が親20.7%・非親13.9%、浮気願望が高まったと答えた割合は親24.2%・非親8.3%であった。研究者は、育児ストレスとパンデミック要因が重なり親の不倫リスクを高めたと指摘し、関係支援策の必要性を強調している。

【メンタルヘルス】【虐待】【社会】 幼少期の言葉による虐待は、成人期のメンタルヘルスへの影響が身体的虐待と同程度

大規模な世代間研究により、幼少期の言葉による虐待が成人期のメンタルヘルスに及ぼす長期的影響は、身体的虐待と同程度に有害である可能性が示された。研究者らは、1950年代頃以降に生まれた2万人以上の英国成人を対象とする7件の研究を調査した。幼少期に虐待を受けなかったと回答した人では、精神的幸福度が低いと感じる割合は16%だった。一方、虐待を受けた人では、この割合が身体的虐待のみで22.5%、言葉による虐待のみで24%、両方を受けた場合で29%に上昇した。また、この研究では、言葉による虐待の発生率は大幅に増加している一方、身体的虐待の発生率は半減していることが明らかになった。研究チームは、さらなる社会的認知がなければ、子どもへの身体的懲罰を減らすための対策が、結果的に別の形態の有害な虐待に置き換わる危険があると警告している。

【障害】【孤独】 障害のある成人は、他の人々よりも孤独を経験する割合が高い(米国)

米国の研究者によると、障害のある成人における深刻な孤独感は非常に高い水準にあるという。研究チームは、2019〜2020年および2023〜2024年に収集された全国調査データを分析した。その結果、障害のある人々は、一般人口よりも高い割合で持続的な孤独感を報告しており、この傾向はすべての種類の障害で見られた。例えば、全国規模で代表性のある成人調査では、全体の8%が「疎外されている、または孤立している」という感覚を持続的に感じ、10%が「常に孤独を感じる」と回答した。一方、障害のある人の調査回答では、ほぼ3分の1がこれらの感覚を持続的に経験していると報告した。研究者らは、社会的孤立が身体的・精神的健康に及ぼす影響の重大さを指摘し、今後の政策的対応の必要性を強調している。

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    掲載誌:Annals of Internal Medicine

    掲載日:2025年8月5日

【睡眠】【腸内細菌】 眠れないのは腸内細菌のせいかもしれない

中国の研究によると、腸内の特定の種類の細菌が不眠症と関連しており、これらの細菌が不眠症の原因となっている可能性もあるという。研究者らは「メンデルランダム化」という手法を用いてこの因果関係を調べた。これは、単なる関連ではなく一方が他方を引き起こすかどうかを、遺伝情報を使って検証する方法である。その結果、不眠症のリスクを高める可能性のある腸内細菌14種類と、不眠症を防ぐ可能性のある8種類の腸内細菌が特定された。また、この関連は逆方向にも働くことが確認されており、不眠症が腸内細菌叢を変化させる可能性もあるという。著者らは、この知見がプロバイオティクス、便移植など、腸内細菌を標的とした不眠症治療法の開発につながる可能性があるとしている。

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    掲載誌:General Psychiatry

    掲載日:2025年8月5日

【気候変動】【熱中症】【健康】 扇風機だけでは猛暑をしのげない:鍵は水分補給

オーストラリアの研究によると、非常に高温の中で扇風機を使用しても、水分補給をしていなければ体を冷やす効果はなく、むしろ心臓に負担をかける可能性があるという。過去の研究では、気温が約39~40℃を超えると扇風機は健康に悪影響を及ぼすとされており、今回の研究ではその条件下で水分状態が影響するかどうかを調べるため、20人の被験者を3時間にわたって暑熱環境にさらした。被験者は十分に水分を摂っている場合と脱水状態の場合に分けられた。その結果、扇風機によって涼しさを感じたのは水分が十分にある場合のみで、脱水状態の被験者では心臓への負担が大きくなった。全体として、脱水状態の被験者は心拍数と深部体温が有意に高かったことから、猛暑時における水分補給の重要性が強調されている。

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    掲載誌:JAMA Network Open

    掲載日:2025年8月5日

【COVID-19】【心血管】 COVID-19感染は特に女性の血管を老化させる

オーストラリアおよび国際的な研究によると、COVID-19 感染は、特に女性において、血管の老化を約 5 年早める可能性があることが明らかになった。血管は加齢とともに徐々に硬くなりますが、オーストラリアを含む16カ国、2,000人以上を対象にしたこの研究では血管の硬さを評価し、COVID-19感染歴を調査した。その結果、軽度の症状の人も含め、以前にCOVID-19に感染したことがある人は、感染したことがない人よりも動脈が硬くなっていることがわかった。この影響は、男性よりも女性、および息切れや疲労などの長期にわたるCOVIDの症状が続いた人においてより顕著だった。研究チームは、感染の長期的影響を把握するための継続的なモニタリングの必要性を指摘している。

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    掲載誌:European Heart Journal

    掲載日:2025年8月5日

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