Horizon Scanning 2025-#29「地球の岩石層が貯留できる二酸化炭素の量は2200年頃に限界に達すると試算」、「トイレでのスマホ操作と痔の関係」 等

2025年9月5日

Horizon Scanningでは、これから議論になることが予想される科学技術のトピックに関して、(1)海外SMCからの情報、(2)学術出版社や研究機関からの情報をお送りします。

掲載日: 2025年9月4日 | 掲載誌: Nature

地球の岩石層が貯留できる二酸化炭素の量は2200年頃に限界に達すると試算

地球の岩石層に二酸化炭素を貯留できる実用的な上限は約1,460ギガトンと推定され、この容量は現在の温暖化抑制シナリオのもとでは2200年頃に使い果たされる可能性があるという。地層貯留は大気中のCO₂を数百年から数千年にわたり隔離できる手段として注目されてきたが、この研究で今の所の試算が示された。今回の推定では、環境的に敏感な地域や人口集中地からの距離、政府支援の有無などの制約を考慮した結果、従来より慎重な上限が算出された。この容量の利用によって最大0.7℃の気温上昇を相殺できるという。候補地の約7割は陸上に存在し、ロシア、米国、中国、ブラジル、オーストラリアなど化石燃料大国が高い貯留能力を持つとのこと。著者らは、大規模導入に伴う技術的・制度的課題を考慮していない点を限界とし、各国は必要な貯留量を明示しつつ、排出削減策と併せて戦略を検討すべきだと指摘している。

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掲載日: 2025年9月4日 | 掲載誌: PLOS One

トイレでのスマホ操作と痔の関係

PLOS Oneに掲載された論文で、米国の研究チームが125名の成人を対象に調査を実施したところ、トイレにスマートフォンを持ち込む人は、トイレでの滞在時間が著しく長く、痔を患う確率が46%高いことがわかりました。この習慣は想像以上に広まっている可能性があり、調査対象者の3分の2がトイレでのスクロールを認めています。

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掲載日: 2025年9月3日 | 掲載誌: JAMA Internal Medicine

抗ヒスタミン点鼻薬がCOVID-19予防に有効か

JAMA Internal Medicineに掲載された論文で、抗ヒスタミン点鼻薬Azelastineの定期的な使用がCOVID-19感染リスクを低減する可能性があることがわかった。研究チームは2023~2024年に450人を対象とした研究を実施。227名の参加者は56日間、1日3回Azelastineスプレーを使用し、残りはプラセボスプレーを投与された。研究期間中、参加者全員に定期的にCOVID-19検査を実施した結果、Azelastineグループでは5名が陽性となったのに対し、プラセボグループでは15名が陽性となった。研究チームは「結果は有望だが、より大規模な研究で検証が必要」と述べている。

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掲載日: 2025年8月25日 | 掲載誌: npj antimicrobials and resistance

一般的な鎮痛薬が抗生物質耐性と関連

イププロフェンやパラセタモールは、熱が出た時に多くの人が手に取る一般的な解熱鎮痛剤である。しかし、新たな研究により、これらが世界で最も深刻な健康上の脅威の一つである「抗生物質耐性」を静かに促進している可能性が示唆された。この研究で、この分野では初めて、イププロフェンとパラセタモールが個別に使用された場合でも抗生物質耐性を促進し、併用した場合にはその効果が増幅されることが分かったからだ。研究では、非抗生物質薬、広域抗生物質シプロフロキサシン、そして腸や尿路感染症の原因となる一般的な細菌である大腸菌(E. coli)との相互作用が調査された。その結果、イププロフェンとパラセタモールが細菌の突然変異を著しく増加させ、大腸菌が抗生物質に対して高度な耐性を獲得することが判明した。

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掲載日: 2025年8月28日 | 掲載誌: Nature Communications

腸内細菌の移植が肥満等の改善に役立つことを長期的な研究により解明

4年間の臨床試験により、腸内フローラ移植(FMT)が肥満青年に与える長期効果が初めて示された。健康ドナー由来の腸内細菌をカプセルで投与した群では体重減少は明確でなかったが、腹囲が平均10cm、体脂肪率が4.8%低下し、代謝症候群スコアや炎症マーカーも有意に改善した。メタゲノム解析では、FMTによって導入された細菌やバクテリオファージが長期間定着しており、腸内環境が持続的に変化したことが確認された。この成果は、FMTが肥満や代謝異常の治療戦略になり得ることを示す重要な知見である。

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掲載日: 2025年8月27日 | 掲載誌: Nature

衛星を用いた研究により、詳細な季節のリズムが明らかに

衛星データを用いた研究により、地球規模で植物の生長リズムを示す地表季節現象(LSP)の詳細地図が作成された。従来観測が困難であった乾燥帯や熱帯を含め、植物の季節性の時空間的な特徴が高解像度で明らかとなった。その結果、同じ気候環境下でも地域によって生長や開花の時期にずれが生じる「季節非同期性」が確認され、特に熱帯山岳地帯や地中海性気候域で顕著であった。この非同期性は生態系の機能だけでなく、種の進化や農業の収穫時期にも影響すると考えられる。本研究は、生態系の理解や農業計画の高度化に役立つ可能性がある。

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掲載日: 2025年8月29日 | 掲載誌: Nature Human Behaviour

代替医療が自閉症の症状改善に効果があるという質の高い証拠はない

Nature Human Behaviourに掲載されたレビュー論文によると、補完・代替・統合医療が自閉症の症状に有効であるという質の高い証拠は無かったとのこと。レビュー論文では200件以上の試験データを分析し、メラトニン、鍼治療、音楽療法など19種類の代替療法の効果を検討。メラトニンや音楽療法などいくつかの療法に有望(promising)な結果が示されたものの、そのエビデンスの質は非常に低いものだったという。研究チームは医師、自閉症の人々、その家族がこの結果を使用・解釈できるよう、 対話式(インタラクティブな)プラットフォームも開発したとのこと。

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掲載日: 2025年8月29日 | 掲載誌: Journal of Medieval History

イエスが「トリノの聖骸布」に包まれていなかった可能性を示唆

Journal of Medieval Historyに掲載された論文によると、イエスが有名な「トリノの聖骸布」には包まれていなかったという説が有力だという。研究チームは、14世紀のノルマン人神学者ニコル・オレーム(Nicole Oresme)が、司教になる以前、聖骸布を「明らかな」かつ「明白な」偽物であり、『聖職者』による欺瞞の結果だと論じていることを発見。ルーヴァンカトリック大学のSarzeaud博士は、今回発見された記述は現時点で聖骸布を否定する「公式」かつ高く評価できる最初の記述であると述べている。先行研究では、すでに聖骸布の過去の放射性炭素年代測定では、この亜麻布が13世紀末から14世紀にかけて製造されたものであることも判明していた。また、この夏に学術誌Archaeometryに掲載された論文では、3D解析を使用して、この布はイエスの遺体ではなく彫像を包んでいたと結論づけている。

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掲載日: 2025年9月1日 | 掲載誌: The BMJ

医療・研究・出版界に対し、世界の軍需産業を監視するよう強く要請

The BMJに掲載された一連のシリーズ論文・社説で、複数の研究チームが軍需産業の監視強化を訴えている。Liverpool John Moores大学Mark Bellis氏らの研究チームは、タバコ、アルコール、化石燃料産業と同様に、軍需産業も健康の商業的決定要因として捉えるべきだと主張している。軍需産業は慣行としてマーケティング、ロビー活動、シンクタンクや大学への資金提供、政府との緊密な関係構築を行っており、業界はこれらを使用して公共政策や規制環境を自社に有利に形成すると同時に、紛争・負傷・死の永続化に自社が関与する責任を回避していると研究チームは指摘。その動向はより厳しく監視されるべきだと述べている。
Jocalyn Clark氏とKamran Abbasi氏は社説で、近年世界の軍事支出が既に年間2.7兆ドルを超えるまでに拡大し、冷戦期以来の「戦争か福祉か」の議論を再燃させていると指摘。著者らは、この動向が保健・福祉支出や対外援助資金を犠牲にし、国内外の保健・人道的利益を損なう形であってはならないと述べている。最後に、Mohammed Abba-Aji氏(ワシントン大学)とNason Maani 氏(エディンバラ大学)の研究チームは、軍需産業と公衆衛生の利益間の拡大する力の不均衡に対処・対抗するため、医療従事者が果たす役割の需要性を強調している。医療従事者はこれまで、政策環境操作(manipulation of policy environments)を協力して暴くことで、強力な産業への挑戦に成功してきた。また医学雑誌にも武器取引を含む健康を害する産業の不正行為を暴露する歴史があると付け加え、雑誌編集者、医師、反武器取引活動家による抗議が、2007年に出版社Reed-Elsevier(現RELX)の防衛部門からの撤退につながった経緯を説明。しかし、軍需産業の慣行や動向は未だ十分に研究されておらず、挑戦もされていないとのこと。

論文リンク1
論文リンク2
論文リンク3
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