Horizon Scanning 2025 #33「ヒトの皮膚細胞から卵子を生成する実証実験」「自閉症のポリジーン・発達プロファイルは診断年齢によって異なる」

2025年10月7日

ヒトの皮膚細胞から卵子を生成する実証実験

本研究は、ヒト皮膚細胞から受精可能な卵子を作製できることを示した概念実証であり、不妊治療における新たな可能性を提示している。研究チームは、皮膚の体細胞核をドナー卵子に移植し、余分な染色体を除去する「mitomeiosis」と呼ばれる方法を導入した。その結果、82個の機能的卵子が得られ、精子と受精させたところ約9%が胚盤胞まで発生したとのこと。ただし、多くは受精後に発生が停止し、得られた胚には染色体異常も認められた。したがって臨床応用には安全性と有効性の検証が不可欠であるが、皮膚細胞を利用した卵子生成の実現可能性が初めて示された点で重要な一歩となるという。

【論文リンク】https://www.nature.com/articles/s41467-025-63454-7
【掲載誌】Nature Communications
【掲載日】2025年10月1日


医療専門家が警告:米国の医療制度に危機が迫る

【概要】米国の医療専門家らは、同国の医療制度に危機が迫っており、ワクチンで予防可能な疾病の流行も含まれる可能性があると警告している。彼らは、トランプ政権下での医療科学の政治化(公衆衛生インフラと資金の削減、医療アクセスの低下、ワクチンに関する誤情報・偽情報の政府公式政策化)が、米国の医療制度が耐えられないような嵐を招いていると指摘。深刻な影響が懸念される政策の例として、世界保健機関(WHO)からの脱退、疾病対策センター(CDC)のデータ報告プロセスの弱体化、CDC職員の約4分の1に相当する人員削減が挙げられる。しかしさらに懸念されるのは、一般市民のワクチンへの信頼が史上最低水準にあることだと彼らは指摘する。米国の公衆衛生システムの解体を止めなければ、一般市民にとっての災難を回避できないと結論づけている。

【論文リンク】https://www.scimex.org/newsfeed/experts-warn-disaster-looms-following-politicised-us-health-changes
【掲載誌】Annals of Internal Medicine
【掲載日】9月30日


子どもは2回目の感染後に長期COVIDを発症する可能性が高い

国際的な研究チームによると、子どもの長期COVIDは稀だが、2度目のCOVID-19感染後にこの状態を発症するリスクが高かった可能性がある。研究チームは、オミクロン株が最も流行した2022年から2023年にかけての米国の医療記録を使用し、21歳未満の小児・若年層におけるCOVID-19後の持続的健康問題とその発生頻度を調査。研究チームによれば、初回感染後には100万人あたり約904人の小児が長期COVIDを発症していたが、再感染後には100万人あたり約1884人の小児が長期COVIDを発症したという。研究チームは、長期COVIDの症状は患者によって異なり、心臓の炎症(心筋炎)、血栓、腎障害、呼吸器問題、疲労感や脳の霧(ブレインフォグ)などが若年層の人が長期的に直面する問題として挙げている。

【論文リンク】https://www.scimex.org/newsfeed/kids-may-be-more-likely-to-develop-long-covid-after-a-second-infection
【掲載誌】The Lancet Infectious Diseases
【掲載日】10月1日


サウジアラビア北部で1万年以上前の人間の活動の痕跡を発見

マックス・プランク研究所らのグループは、サウジアラビア北部ネフド砂漠で、約1万2,800〜1万1,400年前の実物大ロックアート(ラクダ、アイベックス、オーロックス、ガゼル、馬など)130点および石器532点が出土したと発表した。堆積物解析からは1万6,000〜1万3,000年前に季節湖が繰り返し形成され、水資源が人類活動を支えたことが示唆されている。北アラビアでは2万5,000〜1万年前の人間活動の証拠が乏しかったが、本研究はその空白を埋め、当時の極めて乾燥した環境下でも人類が適応し繁栄していた可能性を示した。石器の形状は同時期の中東文化とのつながりを示唆する一方、石器と岩絵の制作者を直接結びつける証拠は未確定で、解釈には慎重さが求められる。更新世末〜完新世移行期の北アラビアにおける人類の水資源利用、移動・交流、象徴表現の存在を裏づけ、変動する乾燥気候への高度な適応を示す重要資料と考えられる。論文は10月1日、Nature Communicationsに掲載される。

【論文リンク(論文掲載後有効)DOI: 10.1038/s41467-025-63417-y
【掲載誌】Nature Communications
【掲載日】2025年10月1日


研究撤回:リンゴ酢は結局のところ減量に効果がないかもしれない

リンゴ酢と減量に関する広く知られた研究が、出版元であるBMJグループの発表によって撤回された。この撤回された研究では、毎日少量のリンゴ酢を摂取することで、太り気味または肥満の人の体重やBMIが減少する可能性があるとされていた。この小規模な臨床試験は、発表当時に国際的な注目を集め、現在でもメディア報道で引用され続けている。今回の撤回は、この研究に対して寄せられた批判を受けて行われたものであり、研究の信頼性を評価するために統計専門家に委ねられた。その結果、統計学者たちは同じ結果を再現できず、複数の解析上の誤りが発見された。BMJは、データセットおよび報告内容にも不正確な点があったと指摘している。著者らは、これらの誤りは意図的なものではなく悪意のないミスであったと述べ、研究の撤回に同意している。

【論文リンク】https://nutrition.bmj.com/content/early/2025/09/23/bmjnph-2023-000823ret
【掲載誌】BMJ Nutrition, Prevention & Health
【公表日】2025年9月23日


自閉症のポリジーン・発達プロファイルは診断年齢によって異なる

Natureに掲載された研究で、自閉症の診断年齢は、自閉症患者間の生物学的・発達的差異を部分的に反映している可能性があることが明らかになった。従来、自閉症の診断年齢に社会的・人口学的要因が関連することは示されていたが、遺伝的要因の役割は十分に研究されてこなかった。近年、人生の後半で自閉症の診断を受ける人が増えており、「自閉症」という言葉が包括する神経発達条件上の差異を理解することの重要性が高まっている。そこで研究チームは、4つの出生群から得た行動に関するデータと、2つの大規模研究から得た遺伝データを使用して、自閉症診断年齢の変動要因を調べた。その結果、2つの異なる社会情緒的・行動上の経過が診断時の年齢と関連しており、共通の遺伝的バリアント(common genetic variants)が診断年齢の変動の約11%を説明していることがわかった。

【DOI】10.1038/s41586-025-09542-6
【掲載誌】Nature
【掲載日】2025年10月2日


国際医療従事者によると、ガザ地区の民間人の戦傷は、これまでの現代の紛争よりも広範囲かつ深刻

英国主導の研究によると、ガザ地区に派遣された複数の国際医療従事者が目撃した負傷と病状に関する詳細なデータは、進行中のイスラエル軍侵攻下において、これまでの現代紛争で報告された被害を上回る損害を示唆している。米国、カナダ、英国、欧州を中心に22のNGOを代表する計78人の医師と看護師が、ガザ滞在中に扱った負傷と病状に関する調査に回答。全体で23,726件の外傷関連負傷と6,960件の武器関連負傷が報告された。医療従事者は「異常に深刻な(unusually severe)」外傷性損傷を記述しており、複雑な爆風損傷、銃器関連損傷、重度の火傷などが含まれる。戦場経験のある回答者の多くは、ガザでの負傷の深刻さが過去に遭遇した紛争を上回ると述べた。著者らは結論として、持続的な戦争下で機能する監視システムの緊急的な必要性を強調し、これに基づいて外科的・医学的・心理的・リハビリテーション的介入を個別化すべきだと指摘している。

【論文リンク】https://www.bmj.com/content/390/bmj-2025-087524
【掲載誌】The BMJ


一人当たりの食品廃棄量が最も多いのは富裕国だが、より貧しい国々も追いつきつつある

Cell Reports Sustainabilityに掲載された米国の研究者らの論説によると、世界的に、1人当たり年間約132キロの食品が廃棄されており、この数値は増加傾向にあるという。世界の食品廃棄量は2004年から2014年の間に約4分の1増加し、最も廃棄量の多い国々は富裕国だが、都市化と経済拡大により、より貧しい国々も急速に追いつきつつある。著者らは、この傾向が富裕国で見られる持続不可能な消費パターンを固定化するリスクがあり、食料安全保障・公衆衛生・環境に深刻な影響を及ぼすと警告する。食品廃棄を抑制するには、スーパーや飲食店への食料寄付促進策や、消費者の賢い購買・適切な保存方法の教育など、新たな政策と構造的取り組みが必要だと主張している。

【論文リンク】https://www.cell.com/cell-reports-sustainability/fulltext/S2949-7906(25)00192-2
【掲載誌】Cell Reports Sustainability


オーストラリアで低下する子供のワクチン接種率を逆転させるには協調した対策が必要

自己負担費用、予約枠の不足、医療提供者とのワクチン接種相談機会の欠如、信頼の喪失が、オーストラリアの保護者や養育者の一部が子供を期日通りに予防接種させることを妨げている。オーストラリアの専門家によるこの研究は、小児ワクチン接種率向上を支援する実践的戦略を、エビデンスベースで提示している。結論として研究チームは、①サービスのアクセスと利用の改善、②医療提供者の教育と啓発活動のサポート、③保護者の自信と予防接種への関与をサポートする、④医療提供者の予防接種データへのアクセス促進を挙げている。

【論文リンク】https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S132602002500055X?via%3Dihub
【掲載誌】Australian and New Zealand Journal of Public Health

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