Horizon Scanning #34「通常のプラスチックと同等の強度を持つ生分解性の竹プラスチック」、「オンライン画像の歪なジェンダー・年齢表象」

2025年10月10日

通常のプラスチックと同等の強度を持つ生分解性の竹プラスチック

中国の東北林業大学の研究者らは、竹由来のセルロースから強固で生分解可能なプラスチックを作る手法について報告した。従来の竹複合プラスチックは完全に分解されず、機械的特性にも難点があったが、本研究では無毒のアルコール溶媒で竹セルロースを分子レベルまで溶解後に再構成することで、強固な分子ネットワークを形成させた。その結果、引張強度110MPa、破断エネルギー80 kJ m⁻³と、石油系プラスチックや既存のバイオプラスチックを上回る性能が示された。また、機械的・熱的な安定性や成形性も既存プラスチックなどと同等以上で、産業利用に適していることが示された。さらに、土壌中で50日以内に分解でき、クローズドループリサイクル(再び同等製品に作りかえるサイクル)においても、90%の強度を保持した。研究グループは、環境負荷を低減しつつ高性能を維持する持続可能な代替プラスチックとしての活用を目指している。論文は10月8日、Nature Communications に掲載される。

【論文リンク】DOI:10.1038/s41467-025-63904-2
【掲載誌】Nature Communications
【掲載日】2025年10月8日


オンライン画像の歪なジェンダー・年齢表象

オンライン上にある約140万枚の画像を分析した結果、職業や社会的役割において、女性は男性よりも若く描かれる傾向があることが『Nature』誌に報告された。このような年齢と性別に関する固定観念は、AIを含む主流アルゴリズムによってさらに強化される可能性がある。研究では、GoogleやWikipediaなど5つの主要プラットフォームの画像を分析したところ、医師や銀行員といった高収入・高地位とされる職業においても、現実の労働人口に差がないにもかかわらず、女性が若く表現されていた。また、ChatGPTに54職種の履歴書4万件を生成させた実験では、女性の名を持つ候補者が平均1.6歳若く想定され、年上の男性候補の方が高く評価された。これらの結果は、AIがインターネット上の偏見を学習し、再生産していることを示し、性別や年齢に基づく不平等を助長する危険性を示唆している。

【論文リンク】https://www.nature.com/articles/s41586-025-09581-z
【掲載誌】Nature
【掲載日】2025年10月9日


エネルギー節約の鍵は、所得や知識ではなく道徳にある?

家庭におけるエネルギー節約行動を左右するのは、所得や知識ではなく、人々の態度や道徳的意識であることが、世界最大規模の分析で示された。論文は『Cell Reports Sustainability』誌に発表された。研究チームは、42か国の43万人超を対象とする100本の既存研究の結果を統合し、26の心理・社会的要因を検討した。その結果、節電に前向きな態度を持つ人ほど実際に行動しており、「自分の行動が環境に影響する」と信じたり、「正しいことをしたい」と感じる人が節電を実践しやすいことがわかったという。また、他人から節電を期待されていると感じる人や、すでにリサイクルなどの環境に配慮した生活をしている人も、積極的に省エネ行動をとる傾向があった。一方で、エネルギー使用の環境影響を理解していても行動への効果は弱く、所得や教育水準がほとんど関連しないことも明らかになったという。研究者らは、こうした心理的要因を活かすことで、より効果的な脱炭素政策設計が可能になるとしている。

【論文リンク】http://dx.doi.org/10.1016/j.crsus.2025.100493
【掲載誌】Cell Reports Sustainability
【掲載日】2025年10月11日


新技術により、海洋で回収した炭素を生分解性プラスチックに変換

海水から二酸化炭素(CO₂)を回収し、生分解性プラスチックの原料に変換するシステムが報告された。地球最大の炭素吸収源である海洋は、人間活動に由来するCO₂の約25%を吸収するが、それが海洋の酸性化を引き起こす要因にもなっている。本研究では、この海中の炭素資源を持続的に活用する新たな方法が提示された。研究チームは、海水からCO₂を70%超の効率で回収し、低エネルギー(約3kWh/kg CO₂)で連続536時間稼働できる二段階システムを開発した。回収コストは1トン当たり約230ドルで、既存技術と競合できる水準とのこと。このシステムでは、まず、電極触媒によりCO₂をギ酸に変換し、さらに遺伝子改変した海洋微生物( Vibrio natriegens)を用いてコハク酸に変換した。このコハク酸が、生分解性プラスチック「ポリ(ブチレンコハク酸)」の原料となる。このシステムは、触媒や微生物を改良することで燃料・医薬品・食品分野における多様な化学製品の生産にも応用可能とされ、産業発展が期待される。

【論文リンク】https://www.nature.com/articles/s41929-025-01416-4
【掲載誌】Nature Catalysis
【掲載日】2025年10月7日


アルツハイマー病治療薬が自閉スペクトラム症の子どもに効果を示す可能性

米国の研究者らによる小規模な調査で、アルツハイマー病の治療薬メマンチンが、自閉スペクトラム症(ASD)の若者にみられる社会的障害を改善するのに有効である可能性が示された。研究チームは8歳から17歳のASD患者42人を対象に、半数にメマンチンを、残りの半数にプラセボ(偽薬)を12週間投与した。その結果、メマンチンを服用したグループでは、社会的な場面でのコミュニケーション、相互作用、他者との関わりの能力が有意に向上したことが確認された。特に、この効果は、脳の「吻側前部帯状回(pregenual anterior cingulate cortex)」と呼ばれる領域でグルタミン酸(興奮性の神経伝達物質)の濃度がとくに高い子どもたちにおいて顕著であったという。ただし、併載された論説では、「これまでのメマンチンに関する類似の試験では同様の有望な結果は得られていない」と指摘しており、この薬をASDの有効な治療薬とみなす前に、より大規模な検証を行う必要があると述べている。

【論文リンク】https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2839518
【掲載誌】JAMA Network Open
【掲載日】2025年10月1日


ADHDと自己診断した人は、オンライン上でより多くの承認を求め、自己肯定感が低い傾向

国際的な研究によると、自ら注意欠如・多動症(ADHD)と自己診断した人は、臨床医に診断された人に比べてオンライン上で他者に承認を求める傾向が強く、より否定的な自己イメージや内面化されたスティグマ(社会的偏見)を多く発信するという。研究チームは、Redditの「r/ADHD」フォーラムに投稿された45万2,026件の投稿を言語処理モデルで分析し、自己診断群と臨床診断群の間で、プラットフォーム上での自己表現や承認の求め方にどのような違いがあるかを調べた。研究者らは、このようなADHDに関するオンラインフォーラムで得た承認は、肯定的な自己認識を強める一方で、否定的なスティグマの内面化を促す可能性もあると指摘している。

【論文リンク】https://doi.org/10.1371/journal.pone.0331856
【掲載誌】PLOS One
【掲載日】2025年10月1日


企業のプレスリリースの約4分の1は、AIによって作成されている可能性がある

国際的な分析によると、米国の主要な広報プラットフォームで公開されているプレスリリースのうち、約4分の1は人工知能(AI)によって作成されている可能性が高いという。特に、科学技術分野のプレスリリースではAI生成の割合が高い傾向が見られた。研究チームはAI検出プログラムを用いて、企業や国連などの組織によるプレスリリース、求人情報、消費者からの苦情文書について、AIの利用率を推定した。その結果、ChatGPTの公開後9か月の間に、これらの文書におけるAI使用率は1.5%から15%へと上昇したことがわかった。研究者らは、AI生成コンテンツが人間によって大幅に編集された場合には検出が難しくなることから、実際のAI使用率はこの推定値よりさらに高い可能性があるとも指摘している。

【論文リンク】https://doi.org/10.1016/j.patter.2025.101366
【掲載誌】Patterns
【掲載日】2025年10月2日


壁や床に吸着した消臭スプレー成分等の「無視できない貯蔵量」が明らかに

室内において、消臭スプレーなどに含まれる揮発性有機化合物(VOC)が壁や床などの表面に吸着されて蓄積し、「大きな表面貯蔵庫」として作用することが明らかにされた。研究では、住宅モデル内にVOC混合液を注入し、様々な建材表面(塗装壁、コンクリート、木材など)がVOCを吸着し、その後ゆっくりと放出する様子を質量分析計で追跡した。得られた結果のモデル解析から、これら表面の吸着能と容量は従来予測されていたよりも大幅に大きく、屋内の空気中でのVOC残留時間が長い可能性が示された。この研究の意義は、室内換気だけではVOCの除去が不十分な可能性がある点と、掃除・拭き取りなど物理的除去の重要性が示唆された点にある。さらに、「サードハンドスモーク(third-hand smoke:喫煙後に残留する化学物質)」などの長期的曝露現象を説明するメカニズムを裏付ける証拠にもなると考えられる。

【論文リンク】https://doi.org/10.1073/pnas.2503399122
【掲載誌】PNAS
【掲載日】2025年9月22日


学級閉鎖に伴う学力低下、家庭の経済力、教師の指導力との関連

インフルエンザ流行による学級閉鎖が小中学生の学力に与える影響を、日本の首都圏にある自治体の行政データを用いて解析した結果が報告された。特に、家庭の社会経済的背景による影響に焦点を当てたものとなっている。解析の結果、学級閉鎖は、経済力の乏しい家庭の児童や生徒に、数学の成績低下を引き起こすことが示された。影響の大きさは、教科、学年、性別、学級閉鎖の時期、事前の学力によって異なり、経済力の乏しい家庭の男子生徒や、もともと学力の低い生徒で非常に顕著だった。これらの負の影響は授業時間の減少だけでなく、学習意欲や行動の変化によっても説明されうるという。また、質の高い教師の存在が、経済力の乏しい家庭の生徒に与える悪影響を緩和することも確認された。この研究結果から、学習機会の平等を担保する公的支援の重要性が示唆される。

【論文リンク】https://doi.org/10.1016/j.jjie.2025.101387
【掲載誌】Journal of The Japanese and International Economies
【掲載日】2025年9月3日


難聴の割合が最も高い国々では補聴器の使用率が最も低い

難聴の申告率が最も高い国々では、補聴器の使用率が最も低いことが報告された。一般に、男性は女性よりも聴覚障害の申告例が多い傾向にあるが、男女の差は年齢とともに縮小していることもわかったという。研究チームは、ブラジル、中国、コスタリカ、メキシコ、韓国、米国、欧州を含む28カ国において2001年から2021年にかけて実施された8つの長期研究から、自己申告による難聴と補聴器使用状況について分析した。その結果、中国の高齢者においては、難聴の申告率が最も高い(65%)にもかかわらず、補聴器使用率がわずか1%だったのに対し、南アフリカでは難聴申告率が17%に留まることが明らかになった。

【論文リンク】https://gh.bmj.com/content/10/10/e017655
【掲載誌】BMJ Global Health
【掲載日】2025年10月2日


壊滅的な山火事が世界的に急増、過去10年で最も深刻な43%が発生

世界的に壊滅的な山火事災害が急増しており、過去10年間だけで、世界で最も深刻な山火事の43%が発生していることがわかった。研究チームは、死者10名以上を出した山火事、または各国の「富に対する経済的損害」で上位200位以内にランクインした山火事を対象に、44年間の災害データを分析した。その結果、1980年以降、経済的被害をもたらす災害は4倍以上に増え、死者10名以上の致命的な災害は3倍に増加していることが明らかになった。近年になるほど増加が顕著であり、こうした災害は極端化する気候条件と一致していた。研究チームは、火災リスクの高い世界への適応が急務であるとし、消火活動への投資が大幅に増加しているにもかかわらず状況が悪化していると指摘している。

【論文リンク】https://www.science.org/doi/10.1126/science.adr5127
【掲載誌】Science
【掲載日】2025年10月2日

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