低・中所得国(LMICs)における、がん臨床試験の格差
ブラジルのEinstein Hospital Israelitaらの研究グループは、2001〜2020年の間に、低・中所得国(LMICs)で登録されたがんの臨床試験が1万6,977件にのぼり、国や地域によって試験数の増加の度合いに大きな差があるとの調査結果を発表した。中国や韓国では、経済成長に伴って試験数が増加し、東欧諸国やトルコでも同様の傾向がみられた。また、インド、タイ、ベトナムでは、経済成長があっても試験の伸びが不安定で、ブラジルやメキシコなど南米諸国では、経済停滞下でも試験数が増加していた。さらに、エジプトでは経済成長との間に相関が見られ、南アフリカでは見られないこともわかった。著者らは、経済成長が臨床試験の発展を促す一因ではあるものの、唯一の決定要因にはならないと結論づけ、今回の分析がLMICsにおける臨床研究の指標となるかもしれない、と指摘している。
【論文リンク】DOI: 10.1002/cncr.70067
【掲載誌】Cancer
【掲載日】2025年10月20日
他者の共感性を高く評価する人ほど、社会的つながりを求める
【概要】スタンフォード大学などの研究グループは、「他者の共感性」を高く評価する個人ほど、社会的なネットワークをうまく形成し、主観的幸福感が高まっていることを明らかにした。2022〜2024年に実施された約5,000名の大学生を対象とする縦断的調査では、他者のことを共感的と認識する学生は有意に多くの親密な友人関係をもち、心理的ウェルビーイング(精神的な健康と幸福感のこと)が高い傾向であるとわかった。また、自他の共感性認知を比較し、自身を共感的とみなす割合が、他者評価より平均24ポイント高かった。さらに、「他者も自己同様に共感的である」と知らせる情報提示(ワークショップ・ポスター掲示など)を行うことで、参加者が他者への信頼度を高め、対人交流行動(会話の開始・自己開示など)が有意に増加するとわかった。スマートフォンによる社会的行動促進メッセージも同様の効果を示したが、効果は時間経過とともに減衰したという。以下に、本報告に対するドイツの専門家コメントを紹介する。
Prof. Dr. Grit Hein(ユリウス・マクシミリアン大学ヴュルツブルク):
— 方法論的評価
本研究は大規模サンプルに基づいており、複数時点での縦断的調査により因果的解釈も可能です。ただし、介入効果は一部短期的で、4〜6か月後には共感認知の変化が消失し、幸福感の上昇も2週間後には確認されませんでした。また、今回の結果がアメリカの名門大学生以外でも当てはまるかは不明です。
— 結果の解釈と限界
本研究では、自己と他者の共感性認知の差が、他者の共感を過小評価している可能性も、自己の共感を過大評価している可能性もあり、どちらかを区別することはできません。今後は、他の集団や文脈での再現性を検証する必要があります。
Prof. Dr. Marcus Roth(デュースブルク=エッセン大学):
— 主要な結果について
最初の研究では、他者の共感性に関する知覚から、時間経過に伴って幸福度がどの程度変化するのか予測することができました。ただし、効果量(β値)は0.1未満であり、比較的小さいと評価できます。第2の研究では、学生は自分自身を他者よりも共感的だと評価しました。この“共感認識ギャップ”は、社会的リスクを取る傾向の低下や孤独感の増大を予測していましたが、効果量(β=0.03~0.04)は極めて小さく、サンプルサイズの大きさにより統計的には有意だとしても、実質的な意味は限定的だと考えられます。第3の研究では、著者らの介入によって共感認識ギャップ、社会的リスク行動、ネットワーク規模に中程度の効果が認められましたが、介入効果は短期的であり、長期的には消失していました。
【論文リンク】https://www.nature.com/articles/s41562-025-02307-1
【掲載誌】Nature Human Behaviour
【掲載日】2025年10月16日
新型コロナのmRNAワクチン、妊娠中接種の安全性に新たな裏付け
国際的な研究により、新型コロナのmRNAワクチンが先天異常を引き起こす可能性は極めて低いことが分かった。50万人以上の新生児のデータを分析した結果、妊娠初期(3か月まで)のワクチン接種と75の主要な先天異常のリスク増加に関連性は見られなかった。研究者らは、この結果は既存研究と一致しており、妊娠中のmRNAワクチン接種が安全であることをさらに裏付けるものだとしている。
【論文リンク】https://doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2025.38039
【掲載誌】JAMA Network Open
【掲載日】2025年10月1日
スクリーンタイムが長いほど、学力低下が顕著に(カナダ)
カナダ・オンタリオ州の児童3,322人(3年生)、および2,084人(6年生)を対象に、幼児期の画面視聴時間と学力の関係を縦断的に分析した結果が報告された。幼少期にスクリーンを見る時間が1時間増えるごとに、3年生の国語・算数、6年生の算数において「より高い学力水準」に到達する確率が約9〜10%低下したことが示された。特にテレビ・デジタルメディアとの関連が強く、女児ではビデオゲーム使用が国語・算数の学力低下と関連していた。一方、6年生ではその関連がやや弱まっていた。著者らは、学力向上のためには、幼少期の画面視聴時間を制限する介入が重要だと結論付けている。
【論文リンク】https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2839927
【掲載誌】JAMA Network Open
【掲載日】2025年10月10日
都市部での食肉消費に伴う温室効果ガスの排出量は、家庭用化石燃料使用に匹敵(米)
アメリカの3,531都市を対象にした分析によると、都市部では年間1,100万トン以上の肉が消費されており、ニューヨーク、ロサンゼルス、シカゴの3都市だけで年間320万トンが消費されているという。これに伴う温室効果ガスの総排出量は3億2,900万トンに達し、これは米国内の家庭用化石燃料使用による排出量に匹敵する。研究チームは、牛肉・豚肉・鶏肉の消費を高解像度モデルで追跡し、各都市の「カーボン・フットプリント(炭素の足跡)」を算出。肉の供給網が数千キロに及び、数百の郡にまたがる複雑な構造を持つことを明らかにした。著者らは、食料廃棄の削減や牛肉から鶏肉への転換、「ミートレス・マンデー」などの施策により、排出量を最大51%削減できると提案している。
【論文リンク】https://www.nature.com/articles/s41558-025-02450-7
【掲載誌】Nature Climate Change
【掲載日】2025年10月21日
ナポレオン軍由来のDNAから、ロシアを撤退し軍隊壊滅に追い込んだ病原体を特定
1812年のロシア遠征で壊滅したナポレオン軍の死因について、最新のDNA解析による新たな証拠が示された。本研究によれば、寒さや飢餓を除くと、これまで主因と考えられてきた病原体のDNAは検出されず、代わりに腸チフスを引き起こすサルモネラ菌(Salmonella enterica)と、回帰熱の原因であるボレリア菌(Borrelia recurrentis)が検出されたという。研究チームはリトアニア・ヴィリニュスの集団墓地から兵士13名の歯のDNAを抽出・解析し、古代DNAの断片から病原体を特定した。本成果は、古代DNA解析が感染症史の再構築に有効であることを示すものである。
【論文リンク】http://dx.doi.org/10.1016/j.cub.2025.09.047
【掲載誌】Current Biology
【掲載日】2025年10月25日
肺がん患者の最大5人に1人が非喫煙者
オーストラリアの研究者らは、世界で肺がんを発症する人の15~20%は非喫煙者だと報告した。研究チームは、非喫煙者(生涯で100本未満の喫煙歴しかない人々)における肺がんについての92件の先行研究報告を分析。その結果、非喫煙者で肺がんリスクが最も高い人々は、主に受動喫煙・放射性物質・大気汚染・アスベストへの曝露者、あるいは肺がんの一親等親族がいる人々だとわかった。研究チームは、肺がん患者の非喫煙者はがん関連遺伝子の突然変異の割合が高く、治療効果にも影響している可能性があるとしている。
【論文リンク】doi: 10.1001/jama.2025.17695
【掲載誌】JAMA
【掲載日】2025年10月20日
コルヒチン投与は、Long COVIDに効果なし
国際的な研究によると、コルヒチン(強力な抗炎症作用をもち、痛風などに用いられる)はlong COVID(新型コロナ後遺症)に対する有効な治療法ではなく、他の治療法の探索が必要であるという。346名の成人を対象とした臨床試験では、コルヒチン投与群とプラセボ投与群の間で、機能的能力、呼吸機能、精神状態、疲労などの全身症状、炎症マーカーに差が認められなかった。
【論文リンク】doi:10.1001/jamainternmed.2025.5408
【掲載誌】JAMA Internal Medicine
【掲載日】2025年10月21日