【Horizon Scanning #38】「超加工食品に乗っ取られた食生活で、慢性疾患が増加」「ヒトは無意識のうちに、リズムに同期してまばたきをする」

2025年11月22日

*Horizon Scanningでは、これから議論になることが予想される科学技術のトピックに関して、(1)海外SMCからの情報、(2)学術出版社や研究機関からの情報をお送りしていきます。

ヴィーガン食は二酸化炭素排出量を半分に減らすが、栄養的には不十分

本研究は、地中海食、ペスコ・ベジタリアン、オボ・ラクト・ベジタリアン、ヴィーガンの4種類の食パターン(1日2000kcalモデル)を比較し、栄養適合性と環境負荷を評価したものである。いずれの食パターンも多くの栄養素で推奨量を満たしたが、共通してビタミンDとヨウ素が不足し、ヴィーガンではビタミンB₁₂の不足も確認された。一方、環境負荷では植物中心の食が肉を含む地中海食より優れており、とくにヴィーガン食は温室効果ガス排出量を46%削減し、土地利用を33%減、水使用を6.6%減と大幅な低減を示した。以上により、植物中心の食パターンは栄養学的に適切で環境にも持続可能である一方、特定栄養素の補完が重要であることが示された。

【論文リンク】https://doi.org/10.3389/fnut.2025.1681512
【掲載誌】Frontiers in Nutrition
【掲載日】2025年11月11日


オーストラリア初の先住民条約、ビクトリア州で成立

オーストラリアでは、先住民であるアボリジニとの初の条約が、ビクトリア州で正式に成立した。先住民リーダーと州政府の間で約10年にわたる協議・交渉を経て実現したもので、実際に本格運用されるのは2026年半ばになる見込みだ。条約の下では、州の先住民代表機関に権限が大幅に拡大され、ビクトリア州のアボリジニに影響する政策や法律の策定時には議会へ助言する「声(Voice)」となる。先住民代表はビクトリア州のアボリジニの投票で選ばれ、代表機関は政府から独立し、州議会議事堂内に専用スペースを持つことになる。

Professor Kelly Menzel, Director of the Aboriginal and Torres Strait Islander Initiative at the Burnet Institute:
今回の画期的な合意は、事実の共有・共同意思決定・構造改革を制度的に確立し、アボリジニの主権と真の自決権を前進させます。これは終着点ではなく始まりです。条約は、私たち一人ひとりに行動と責任を促し、象徴的ではなく構造的で、生活の中に根ざし、ファースト・ピープルズが主導する真の和解に向けた深いコミットメントを求めています。和解を政策ではなく、日々の実践として生きる環境を築くこと。それが、条約が後押しする共通の目的です。

Dr Lynne Kelly AM, the La Trobe University Humanities & Social Sciences School:
条約はアボリジニの人々だけではなく、すべてのビクトリア州民に利益をもたらします。アボリジニ文化へ敬意を払うことは、先住民文化で育ってこなかった私たちにとっても、協働を通して多くを学ぶ機会となります。
先住民文化は、膨大な情報を文字に頼らず記憶し、継承するため、人間の脳の仕組みに合わせた高度な記憶技法を活用してきました。オーストラリア先住民は「ソングライン(Songlines)」という非常に洗練されたメモリーパレス(覚えたい情報を自分の頭の中でストーリーやイメージを交えて配置し、後からその場所を順に辿ることで記憶を思い出す記憶術)を用いて、植物・動物・季節・天文学・地質・水場の位置・石材の最適採掘地・倫理・責任・精神文化といった、膨大な知識を物語とキャラクターを通して記録してきました。これらは、歌・踊り・アートと統合され、記憶として最適化されます。こうした記憶技法は、文字文化中心の社会では脇に置かれてきましたが、数千年にわたり、極めて正確な知識伝承を可能にしてきました。先住民専門家と西洋科学者の協働は、すでに多くの学問分野で大きな成果を生んでいます。私の研究でも、先住民族の記憶技法を実践することが、教育や生涯学習に大きな力を与えると示されています。

【関連リンク】https://firstpeoplesvic.org/


超加工食品に乗っ取られた食生活で、慢性疾患が増加

国際研究チームによる、これまでの論文から、世界中で安価な超加工食品が私たちの食事としてき換えられており、このことが慢性疾患の発生を増大させていることが示された。これまでの一連の研究から検証したところ、従来の食品を超加工食品に置き換えることで食生活の質が悪化しているとわかり、肥満、糖尿病、心臓病、うつ病などが、超加工食品と関連していた。著者らは、こうした食品はしばしば政治的影響力の強いグローバル企業によって販売されており、そのような企業の影響力に対処するための食品表示の強化、マーケティング規制、課税などの政策変更が緊急に必要だと主張している。

【論文リンク】https://www.scimex.org/newsfeed/news-briefing-ultra-processed-foods-are-taking-over-our-diets
【掲載誌】The Lancet
【掲載日】2025年11月19日


ヒトは無意識のうちに、リズムに同期してまばたきをする

中国の研究者らは、ヒトが、聴いている音楽のリズムに合わせて、無意識にまばたきすることを発見したと報告した。研究チームは、100人の参加者に均一なテンポのクラシック音楽を聴かせながら、まばたきを監視した。その結果、目が音楽と同期してまばたきを始めるだけでなく、脳波も音楽と一致することがわかった。このことを検証するために、音楽を逆再生して同じ実験を行なったところ、やはり参加者は音楽に合わせてまばたきを続けたという。この同期が乱れたのは、音楽を聴きながら無関係な作業を指示された時だけだった。研究者らは、今回の発見は、瞬きを利用した測定が、脳のリズム処理を観察する非侵襲的な手法になりうると述べている。

【論文リンク】https://doi.org/10.1371/journal.pbio.3003456
【掲載誌】PLOS Biology
【掲載日】2025年11月19日


ダンス鑑賞時、未経験者と熟練者で脳反応に違い

日本発の研究により、ダンス動画の鑑賞時に、未経験者と熟練者の脳反応が異なると報告された。研究者らは、経験者7人と熟練者7人に、ヒップホップからバレエ・ジャズに至る様々なジャンルのダンス動画を数時間鑑賞させ、その間の脳活動をスキャンした。次に、大量のダンス動画で訓練した人工知能モデル(model)を使用して、どのダンスの特徴が様々な脳活動タイプと一致するかを調べた。その結果、この訓練モデルは、動き、音楽、感情(movement, music, and emotions)などの特徴を組み合わせた複数の特徴を用いることで、脳内でのダンスの処理方法を予測できることがわかった。これらの特徴をそれぞれ単独で用いた場合は予測精度が低かったという。また、初心者はダンスに対する反応がまちまちだが、熟練ダンサーの脳パターンはダンスのスタイルで説明することができることも明らかになった。

【論文リンク】https://www.nature.com/articles/s41467-025-65039-w
【掲載誌】Nature Communications
【掲載日】2025年11月19日


ストレスの多い母親の赤ん坊は、歯の生える時期が早まる

国際的な研究チームは、妊娠後期にコルチゾールなどのストレスホルモンレベルが高かった母親の子どもでは、乳歯(milk teeth, baby teeth)が生える時期が早まる傾向にあると報告した。研究チームは、2017年から2022年の間に妊娠した、米国在住で経済的・社会的に恵まれない背景を持つ142人の母親を対象に、唾液サンプルを採取し、コルチゾール、エストラジオール、プロゲステロン、テストステロン、トリヨードチロニン、チロキシンなどのホルモン量を調べた。出産後、母子は診療所を訪れ、子どもは生後1、2、4、6、12、18、24ヶ月の時点で乳歯の評価を受けた。その結果、ストレスホルモンであるコルチゾールのレベルが高い女性の子どもは、生後6ヶ月時点で通常よりも多くの歯が生えていたことがわかった。

【論文リンク】https://www.frontiersin.org/journals/oral-health/articles/10.3389/froh.2025.1663817/full
【掲載誌】Frontiers in Oral Health
【掲載日】2025年11月19日


メルボルン大学発の、COP30気候公約が排出削減より炭素除去を重視した件に対する提言

11月13日、開催中のCOP30気候サミットで発表された各国気候計画分析は、「各国は、森林破壊と森林劣化を停止・逆転させるために不可欠な排出削減の核心的な取り組みを怠り、代わりに大規模な植林など、非現実的な炭素除去計画を推進している」と警告した。この件に関し、メルボルン大学は各国の専門家と共同で発表した「The Land Gap Report 2025」において、「真の障害は、経済発展を森林保護に対抗させる国際的なシステム(a global system that pits economic development against preservation)にある」と述べた。このレポートでは、冒頭の対立を解決し、重要な気候変動対策と生物多様性の目標を経済目標と整合させることができる一連の改革(その多くはすでに進行中のもの)について概説している。

【提言リンク】https://landgap.org/2025/report


座る時間と立つ時間の比率に、コスパの良い最適バランスあり

30分座った後に15分立つことを繰り返す単純な習慣が、座り仕事環境の従業員にとって、腰痛改善、集中力向上、ストレス軽減、作業効率の促進につながるとの研究報告がなされた。

【論文リンク】https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0003687025002066?via%3Dihub
【掲載誌】Applied Ergonomics
【掲載日】2025年10月21日

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