ビデオ通話の不具合により社会的弱者がより不都合を被る可能性
ビデオ通話の通信不良が、重要な対人判断に深刻な悪影響を及ぼすとの研究報告がなされた。画面のフリーズや音声の遅延といった一般的なグリッチが、対面に近い感覚を破壊し、相手への信頼や評価を低下させるという。模擬的なオンライン面接では、グリッチが発生すると候補者が採用・推薦される可能性が下がり、オンライン診療においては医療者への信頼が77%から61%に低下した。実際のオンライン裁判でも、問題のない通話で仮釈放が認められた割合が60%であったのに対し、通信不良がある場合は48%に下がっていた。著者らは、このような通信障害は映像や音声の不気味さを生み、対人判断を歪めると主張。さらに、インターネット環境が不十分な弱者層ほど影響を受けやすく、オンライン化が不平等を拡大する可能性もあると指摘している。
【論文リンク】https://www.nature.com/articles/s41586-025-09823-0
【掲載誌】Nature
【掲載日】2025年12月4日
現代人はSNS利用を「依存」と過剰に評価しがち:SNS依存と誤認識すると悪影響が大
過度なソーシャルメディア利用は「本当の依存」ではなく習慣によって生じている場合が多く、ニュースメディアが頻繁な利用を誤って「依存」と表現し、それが利用者自身の過大評価につながっている可能性を指摘する研究報告がなされた。研究チームはまず、380人のインスタグラム利用者を対象に、自分がどれほどインスタグラムに依存していると感じているかを調査し、さらに依存症状の有無を評価した。その結果、18%の人が自分は依存していると考えていた一方で、実際に依存のリスクを示す症状を持つ人は2%にとどまった。
次の調査では、米国成人のインスタグラム利用者824人を対象に、頻繁な利用を「依存」と呼ぶことの否定的な影響を調べた。参加者に自身のソーシャルメディア利用を依存として捉えるよう促すと、インスタグラム利用は「自分で制御できている」という感覚が低下し、過度な利用についての責任や非難を、自分自身とプラットフォームの双方に大きく向ける傾向が強まった。研究者らは、ニュースメディアやその他の機関が頻繁なソーシャルメディア利用を安易に依存と呼ぶことが、利用者が自分の依存度を過剰に評価する原因になり、さらに自身の利用状況に対する認知に悪影響を与える可能性があると指摘している。
【論文リンク】https://www.nature.com/articles/s41598-025-27053-2
【掲載誌】Scientific Reports
【掲載日】2025年11月27日
病気のアリ幼虫、巣の存続のために自らの排除を促す化学信号を発する
オーストリア科学技術研究所(ISTA)らの研究チームは、アリの社会には、病気になった幼虫期の働きアリ(さなぎ)が、自らを犠牲にして巣全体を守るしくみがあることを明らかにした。研究チームは、Lasius neglectus というアリに真菌感染を起こし、単独および集団下での行動を観察した。その結果、病気になったさなぎは体の匂いを変化させる化学シグナルを放出し、これが成虫の働きアリの攻撃・排除行動を誘導するとわかった。
興味深いことに、このシグナルは成虫アリが近くにいる場合にのみ発せられ、単なる感染の副産物ではなく、積極的な自己犠牲のサインと考えられたという。また、この匂いは健康なさなぎに対しても同様に攻撃・排除行動を誘導することが確認された。この行動は、個体の免疫反応が体内で感染細胞を排除する仕組みに似ており、コロニー全体が一つの超個体として機能していることを示唆している。
【論文リンク】https://doi.org/10.1038/s41467-025-66175-z
【掲載誌】Nature Communications
【掲載日】2025年12月3日
小惑星べヌーの砂に、生命を構成する糖が存在
東北大学らの研究グループは、NASAの小惑星探査計画「OSIRIS-REx」によって炭素質小惑星べヌーから持ち帰った砂を分析し、RNA(リボ核酸)を構成するリボースと、生命代謝の主要なエネルギー源であるグルコースを含む6種類の糖を検出したと報告した。本成果は、地球外に「生命を構成する糖」が存在し、地球に降り注いでいたことの決定的な証拠になると考えられる。また、宇宙におけるグルコースの存在を示した初の証拠となり、宇宙にはこれまで考えられていた以上に「生命活動を支える分子」が存在すると明らかになった。
【論文リンク】https://doi.org/10.1038/s41561-025-01838-6
【掲載誌】Nature Geoscience
【掲載日】2025年12月2日
医療用大麻のメリット、科学的根拠が不十分
「がんの疼痛」「不眠」「多くの慢性疾患」などに使われる医療用大麻やカンナビノイドについての報告がなされた(日本では法改正により、2023年12月以降、医療用麻薬が使用可能になった)。著者らは、これまでに有効性を支持する信頼度の高い臨床試験は少なく、多くの主張には科学的根拠が不足していると主張する。例えば、がん化学療法による悪心や嘔吐、HIV感染症(エイズ)に関連する体重減少など、一部の適応に対しては比較的小さな効果は認められるものの、それ以外の用途、特に慢性痛や睡眠障害への適用は「証拠不十分」とされるという。
一方で、重大なリスクも報告されている。高濃度のTHC(テトラヒドロカンナビノール:大麻草の主要成分の一つ)を含む製品では、精神症状(幻覚や不安症状など)、認知機能の低下、依存症、心血管イベント(心筋梗塞や脳卒中)などの有害事象の増加が示されている。長期間・重度の使用では、これらのリスクが特に顕著になる。結論として著者らは、「大麻あるいはカンナビノイドを医療目的で用いることは、多くの適応において科学的根拠が不十分であり、メリットがリスクを上回るとは言えない」と警告する。その上で、医療従事者には、使用の是非を判断する際に厳密なエビデンス、薬物間相互作用、既存疾患、リスク・ベネフィットを慎重に評価し、患者と十分に情報共有すべきだと提言している。
【論文リンク】https://doi.org/10.1001/jama.2025.19433
【掲載誌】JAMA
【掲載日】2025年11月27日
学術論文の著者データから見える、研究者の構造的格差
公衆衛生系の大学における学術論文の著者データを解析し、性別および民族に関する不均衡の実態について調査した結果が報告された。著者の職位・性別・民族背景を体系的に調べたところ、全体として偏りが存在し、とくに上級職や主要著者ポジションにおいて女性や民族的マイノリティが著しく少ないことが示された。
こうした構造的格差は、研究コミュニティにおける視点の多様性を損ない、公平性や学術的信頼性を脅かす可能性がある。著者らは、不均衡の要因の可視化と、それに基づく制度改革が不可欠であるとし、組織レベルでの公平・多様性・包摂(EDI)の推進が、持続的で健全な研究環境の構築に重要だと結論づけている。
【論文リンク】https://doi.org/10.1098/rspb.2025.0313
【掲載誌】Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences
【掲載日】2025年11月26日
専門家コメント(台湾SMC):H5N5型トリインフルエンザがパンデミックに至る可能性は低い
11月21日、米国では世界で初めてトリ由来のH5N5型インフルエンザウイルスによるヒトの死亡例が確認された。発生地のワシントン州保健局によると、死亡者は複数の慢性疾患を持つ高齢者で、自宅で家禽を飼育し野鳥との接触歴があった。現時点で同型ウイルスがヒトからヒトへ感染する証拠はない。昨年6月にはメキシコで世界初のトリ由来H5N2型ウイルスによるヒト感染死亡例が発生し、2009年にはブタ由来のH1N1型の世界的流行も起きた。台湾科技メディアセンターは専門家を招き、今回のH5N5型ウイルスがパンデミックを起こす可能性や、ヒトからヒトへの感染リスクの評価方法について説明を求めた。
趙黛瑜(教授、國立中興大學微生物暨公衛所)は、ヒトの季節性インフルエンザや新型インフルエンザウイルスはすべて渡り鳥が運ぶと考えられると説明する。今回のH5N5型による死亡事例は偶発的なケースであり、パンデミック発生の可能性は高くない。この事例は、ウイルスが渡り鳥から鶏へ、さらにヒトへ伝播した結果と考えられる。世界においてトリインフルエンザウイルスがヒトに感染した事例が最も多いのは、1997年に香港で流行したH5N1型と、中国のみで発生したH7N9型であり、その他の亜型はヒトからヒトへの感染事例がないとされている。トリインフルエンザウイルスは肉食性や雑食性の野生動物、さらには海洋哺乳類へと拡散を続けており、パンデミックを防ぐために行動を起こす必要があると指摘している。
張伯俊(特任教授、國立中興大學獸醫學院微生物暨公共衛生研究所)は、現在のところH5N5型は米国で1例のみ死亡事例が確認されているに過ぎず、ヒトからヒトへの感染現象は発生しておらず、パンデミックを引き起こす能力を示す兆候も一切ないと述べる。H5N5型は昨年出現したH5N2型と同様にトリ由来ウイルスであり、ヒト-ヒト間で効果的に伝播できず、大規模な流行を引き起こすのは難しい。2009年に大流行したH1N1型ウイルスは、ブタ由来ウイルスがトリおよびヒトのウイルスと遺伝子を交換して出現したもので、ブタとヒトを感染させる宿主間移動能力を持っていた。加えて、当時、世界には同型に対応したワクチン接種が行われておらず、大流行に至った。季節性ヒトインフルエンザウイルスが鳥類に感染しても、直ちにヒト型のトリ由来ウイルスに変異するわけではなく、長期かつ多段階の変異が必要であり、一朝一夕に成し得ないと指摘している。
【論文リンク】https://smctw.tw/19340/
【掲載誌】SMC Taiwan
【掲載日】2025年11月27日
妊婦の摂食障害は、出生後の子どもの喘息・喘鳴リスク上昇と関連
論文によると、妊娠中の母親の摂食障害(eating disorders in mums-to-be)は、障害の種類(type of disorder)、併存するうつ病・不安(depression/anxiety)の有無、または胎児への曝露時期(the timing of their child’s exposure)に関わらず、出生後の子どもの呼気性喘鳴および喘息のリスク上昇と関連していると報告された。従来の研究では、母親の摂食障害の影響についてのエビデンスの一貫性が欠けていた。
そこで今回、研究チームはEU Child Cohort Network (EUCCN) から得られた13万1,495組の母子ペアのデータを分析し、妊娠前の母親の摂食障害と、子どもの就学前における呼気性喘鳴(preschool wheezing)および学齢期喘息(school age asthma)との潜在的な関連性を検討した。その結果、冒頭のような知見が得られたという。
【論文リンク】https://thorax.bmj.com/lookup/doi/10.1136/thorax-2025-223718
【掲載誌】Thorax
【掲載日】2025年12月3日
白血病のエイズ患者、CCR5変異をヘテロでもつドナーの造血幹細胞でエイズが寛解
白血病治療のために造血幹細胞移植を受けた60歳の男性が、数年にわたりHIV-1の寛解状態を維持しているという症例についての報告がなされた。国際的な研究者らは、この事例がHIV除去を達成するための幹細胞ドナー候補層を拡大する可能性があると指摘している。この男性は、幹細胞移植後に長期HIV寛解が確認された7例目の症例である。
これまでの6例では、HIVがヒトの白血球に感染するために必要とするタンパク質(CCR5)の遺伝子変異をホモ(2コピー)で持つドナーの造血幹細胞が移植されていた。ところが今回は、ドナーがCCR5変異をヘテロ(1コピー)でしか持たなかったにもかかわらず、移植された患者は3年後に抗HIV薬を中止でき、その後さらに3年間HIV陰性の状態を維持している。同時に発表された別の2本の論文では、国際的な研究者チームがHIV治療の最近の進展の背景にあるメカニズムを調査している。
【論文リンク】https://www.scimex.org/newsfeed/another-cancer-patient-achieves-hiv-remission-after-stem-cell-transplant
【掲載誌】Nature
【掲載日】2025年12月2日
妊娠中のビタミンD不足が生まれた子の虫歯リスクを上げる可能性
中国の研究者らは、妊娠中の母親のビタミンDレベルが低い場合、その子どもが歯の虫歯(歯科齲蝕)を発症する確率が高まると報告した。研究チームは4,100人以上の妊婦のビタミンDレベルを調査し、生まれてきた子どもの出生後早期における虫歯の数を調べた。その結果、特に妊娠中期から後期にかけてビタミンDレベルが低かった母親では、子どもが虫歯治療を必要とする可能性が高いことがわかった。
この研究では、ビタミンD不足が直接、子どもの将来の虫歯と関連するとは結論づけられない。それでも研究者たちは、妊婦健診時にビタミンDを補給する習慣が、子どもにとっても有益である可能性があるとしている。
【論文リンク】https://www.scimex.org/newsfeed/vitamin-d-ental-higher-vitamin-d-during-pregnancy-might-reduce-chances-of-bub-having-cavities
【掲載誌】JAMA Network Open
【掲載日】2025年12月3日