【Horizon Scanning】「オーストラリアで16歳未満のSNS禁止措置が施行:専門家コメント」「大規模ゲノム解析でわかった、5つの精神疾患群に共通する遺伝的要因」

2025年12月9日

*Horizon Scanningでは、これから議論になることが予想される科学技術のトピックに関して、(1)海外SMCからの情報、(2)学術出版社や研究機関からの情報をお送りしていきます。

大規模ゲノム解析でわかった、5つの精神疾患群に共通する遺伝的要因

うつ病、不安症、統合失調症などの14の精神疾患を対象とした100万人規模の大規模解析により、5つの遺伝的要因を共有する5つの疾患群を特定した、との報告がなされた。5つの疾患群とは、脅迫性行動、統合失調症と双極性障害、神経発達障害、うつ病や不安である。5つの遺伝的要因は、ゲノム上の数百の遺伝子領域にまたがり、認知や感情に関わる神経回路と関連するものだったという。研究者らは、共通の遺伝的要因が脳の発達初期に影響している可能性を指摘し、症状ベースの従来の診断を補完し、遺伝的背景に基づく理解や治療開発に寄与する結果だとしている。ただし、今回の解析は欧州系集団に偏っており、今後のより多様な集団を対象にした検証が求められる。

【論文リンク】https://www.nature.com/articles/s41586-025-09820-3
【掲載誌】Nature
【掲載日】2025年12月11日(木)


オーストラリアで16歳未満のSNS禁止措置が施行:専門家コメント

オーストラリアでは、12月10日(水)よりソーシャルメディア禁止措置が発効される。同日から、Facebook、Instagram、TikTok、X、YouTubeなどのSNS各社は、16歳未満のオーストラリア人にアカウントを持たせることができなくなる。政府は、この禁止措置の目的について、若者が画面に長時間釘づけになるような状況や、健康と幸福に有害なコンテンツから子どもたちを守ることにある、と説明している。以下、オーストラリアの専門家によるコメント。

Susan Sawyer(The University of Melbourne/Royal Children's Hospital/Murdoch Childrens Research Institute)
子どもには「ガードレール」が必要であり、ソーシャルメディアも例外ではない。テック企業は本来なら子どもを守るべきところを、エンゲージメント最大化を目的としたアルゴリズム駆動型プラットフォームによって、子どもを危険な状況に晒してきた。特に10〜14歳の思春期前期は、脳が「社会性に敏感で、感情的に反応しやすい」状態へと再配線される一方、デジタル空間を安全に乗りこなすための成熟度や経験は十分ではない。残念ながら一度スマホを持てば、どれほど良い親であってもビッグテックが生み出すドーパミン駆動アルゴリズムには太刀打ちできない。テック企業は、有害コンテンツが若者のフィードにあふれる現状に対し責任を果たしてこなかった。今回の「Social Media Minimum Age Act」は若者の抑うつや不安の万能薬にはならないが、私たちの研究により、この措置が特により若い思春期の子どもたちにとって有益であることが明らかになっている。
これまでの議論は、現在13〜15歳になっている子どもをスマホから引き離す難しさに集中していた。しかし今回の措置の恩恵は、スマホを持つ前の世代にある。この政策が、現在スマホを持っていない8〜11歳の子を持つ親たちの間で、スマホを持つ適切な年齢についての議論を巻き起こせれば、社会規範が変わっていくだろう。今スマホを持っていない子が、より長くスマホなしで過ごすことは、メンタルヘルスだけでなく幅広い健康面で大きな利益をもたらす可能性がある。

Dr Melody Taba(The University of Sydney)
これまで、このソーシャルメディア禁止措置が若者の健康情報へのアクセスにどう影響するかは十分に議論されてこなかった。若者は近年、ソーシャルメディアを主要な健康情報源として利用するようになっている。その理由は、便利で分かりやすくアクセスしやすい形式で届けられる点にある。若者はSNSで積極的に健康情報を検索することもあれば、フィードを眺めている途中で偶然目にすることもある。確かにSNSには誤情報も多いが、多くの医療機関や医療専門家が、若者向けにわかりやすい信頼できる健康情報を発信する場としても活用している。私たちの研究では、若者はSNSの「普段なら関心を向けないようなテーマについても学べる」点を特に評価していた。また医療団体にとっても、SNSは低コストで広範囲に情報を届けられるため、従来の広報経路にくらべて若者にリーチしやすい利点がある。禁止措置によって、健康コミュニケーターはこの重要なチャネルを失い、新しいアプローチを模索する必要が出てくるだろう。同時に、若者自身のデジタルヘルスリテラシーを強化し、SNS使用時に健康情報を正しく判断できるようにする投資が必要であることも改めて示している。

Dr Amelie Burgess(University of Adelaide)
この禁止措置は、若者を有害なデジタル体験、過度に攻撃的なマーケティング、サイバーブリング、メンタルヘルスへの悪影響から守りたいという明確な意図から生まれている。研究は、子どもがマーケティングを見抜く力が弱いことや、広告メッセージを解釈する認知能力が発達途上であることから、高いリスクに晒されやすいことを裏付けている。一方で、今日の若者は完全なデジタル世代であり、幼少期からデジタル技術やSNSを通じて他者と関わる経験を積んできた。アクセスを禁止することは一定の保護を与える可能性がある一方で、「仲間との関係形成」「自己アイデンティティの確立」「支え合いのコミュニティへの参加」といった重要な機会を奪う可能性もある。
また、SNS企業が若者の安全を確保する責任を果たす必要性もある。現在のモデルは脆弱な利用者個人に責任の一部を負わせる構造だが、最も包括的なアプローチは、政府、オンラインプラットフォーム、学校教育、コミュニティが責任を共有し、さらに若者自身の参画を必須とするものだ。


宇宙産業が「減らす・再使用する・再生利用する」ことを学ぶ時が到来

より多くの企業によって、多くの宇宙船や衛星が宇宙へと打ち上げられる状況下で、宇宙産業も地球上で用いられている廃棄物削減戦略を考慮し始める必要がある、との研究報告がなされた。研究者たちは、宇宙へ打ち上げられる多くの材料が使い捨てであり、打ち上げのたびに潜在的に有害な化学物質がより多く環境中に放出されていると述べている。その上で、宇宙船や衛星の耐久性と修理可能性を高め、宇宙ステーションを利用してそれらに燃料補給や保守を行い、パラシュートのような軟着陸システムに投資することで、帰還する宇宙船の部品が再使用可能な状態で戻ってくる可能性を最大化し、「減らす・再使用する・再生利用する」という理念を採用できるとしている。

【論文リンク】https://doi.org/10.1016/j.checir.2025.100001
【掲載誌】Chem Circularity
【掲載日】2025年11月28日


生物保全で重要なのは、特定種の繁殖ではなく生態系の構築や回復

国際的な研究者たちは、保全プログラムは象徴となる生物種(カリスマ種)よりも、その生物がいる生態系に重点を置くべきだとの研究報告がなされた。研究チームは、中国における三つの事例を挙げ、単純化された保全の優先順位が負の結果を招いたと指摘している。具体的には、外見がよく似た種を混合してしまったサンショウウオの繁殖計画、適した生息地が限られた状況で野外へ放されたトキとシカの繁殖計画において、過密化や近親交配が生じた例が挙げられる。研究チームは、バランスの取れた生態系の構築や生息地の回復に重点を置けば、意図しない結果を減らしつつ、より良い影響を得られる可能性があると述べている。

【論文リンク】https://doi.org/10.1371/journal.pbio.3003494
【掲載誌】PLOS Biology
【掲載日】2025年12月1日


フランス:新型コロナワクチン、接種後4年経過しても死亡リスク上がらず

フランスの2,800万人を対象とした全国調査により、2021年にファイザーまたはモデルナの新型コロナワクチンを接種した人は、未接種の人と比較して、その後の4年間で全死因死亡リスクが増加することはなかった、との報告がなされた。ワクチン接種者は重症化による死亡リスクが75%低く、全死因死亡リスクも25%低いという結果だったという。この傾向は、年齢、経済状況、健康状態などの要因を考慮しても不変だったが、考慮していない他の要因が存在する可能性もあるという。研究者らは、新型コロナワクチン接種後の長期的な死亡リスクを調査した初の研究であり、ファイザーおよびモデルナ製ワクチンの長期的な安全性が示唆されたと結論づけている。

【論文リンク】https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2842305
【掲載誌】JAMA Network Open
【掲載日】2025年12月5日


建設工事跡の遺跡調査で、古代ローマのセメント製法が明らかに

国際的な研究により、ポンペイで最近発掘された現場は、建設工事の最中に西暦79年の火山活動で放棄されたように思われる、との報告がなされた。研究チームは、この現場で建設用具や原材料などの稀な発見があったことで、当時のローマ人がどのようにセメントを作っていたかをより詳しく調査できたとしている。現場では石灰岩や火山灰などの材料が見つかり、これが「hot mixing」と呼ばれる技術(乾燥した加熱石灰岩を水、火山岩、火山灰と混ぜ、化学反応による熱を利用する手法)を使用していたという説を裏付けた。また、配合比率を一定に保つため、あるいは壁を水平かつ垂直にするために使われたと思われる重りや測定道具も発見された。

【論文リンク(報道解禁後公開)】https://www.nature.com/articles/s41467-025-66634-7
【掲載誌】Nature Communications
【掲載日】2025年12月10日


不安や不眠で血中のキラーT細胞が減少

サウジアラビアの女子学生を対象とした小規模な研究により、不眠症や不安を抱えていると、病原体や感染細胞などを破壊する血液中のキラーT細胞(killer cells)の数が減少するため、病気にかかりやすくなる可能性がある、との研究報告がなされた。60人の学生に不眠症や不安の症状に関するアンケートを実施したところ、53%が不眠症の症状を、75%が様々な程度の不安を訴えた。次に被験者の血中に存在するキラーT細胞の数を調べたところ、不安や不眠がキラーT細胞数の減少と関連していることがわかり、研究者らは、そのために免疫機能が低下した可能性があるとしている。

【論文リンク】https://www.frontiersin.org/journals/immunology/articles/10.3389/fimmu.2025.1698155/full
【掲載誌】Frontiers in Immunology
【掲載日】2025年12月10日


インフルエンサーによる健康アドバイスのリスクをどう管理する?

SNSのインフルエンサーが健康に関するコンテンツをシェアすることは珍しくないが、国際的な研究者らは、不正確または偏った(inaccurate or biased)アドバイスによる害を軽減するために、プラットフォームと政府が協力する必要があると報告した。研究チームは、ヘルス・コミュニケーションにおける人気SNSアカウントの影響力増大を分析し、インフルエンサーが誤情報を拡散してしまうリスク要因として、「医学的専門知の欠如」「産業界からの影響」「自分の製品を売りたいという欲求」「個人的見解によるバイアス」の4点を挙げた。リスク軽減のためには、効果的な規制、インフルエンサーの説明責任、ターゲットを絞った教育、質の高い情報へのアクセスなどの戦略が必要だとしている。一方で、医療専門家がオンライン上の誤情報を正したり、スティグマ(偏見)のある病状を持つ患者同士がコミュニティを作ったりするなど、一部のインフルエンサーが健康情報の共有において肯定的な役割を果たしていることも認めている。

【論文リンク】https://www.bmj.com/content/391/bmj-2025-086061
【掲載誌】JAMA Network Open
【報道解禁(日本時間)】2025年12月4日

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