【Horizon Scanning Vol. 2026-1】「モロッコで発見されたヒト族化石、現生人類の出現を解明する鍵に」、「木星の衛星、生命が海底にいる可能性は低そう」

2026年1月19日

*Horizon Scanningでは、これから議論になることが予想される科学技術のトピックに関して、(1)海外SMCからの情報、(2)学術出版社や研究機関からの情報をお送りしていきます。
*報道解禁日にお気をつけ下さい。解禁日前の報道、情報公開はできません。下記の報道解禁日時は全て日本時間で記載してあります。

【惑星科学】【エウロパ】木星の衛星、生命が海底にいる可能性は低そう

数理モデル研究により、木星の衛星エウロパの海底では、現在、ほとんど、あるいは全く、断層活動が起きていない可能性があることが示された。地球では、海底のテクトニクスにより、水と岩石の相互作用を通じて生命活動に必要な化学エネルギーを供給するが、現在のエウロパでは、潮汐応力、全球的収縮、マントル対流、蛇紋岩化などは、いずれもテクトニクスを駆動しないと予測された。このため、海底での水–岩石反応は表層の限られた深さにとどまり、海底に生命が存在する可能性は低いと予想される。研究者らは、今後の探査では、活発な海底活動に依存しない生命維持環境の可能性に注目すべき、としている。

【論文リンク】https://www.nature.com/articles/s41467-025-67151-3
【掲載誌】Nature Communications
【報道解禁(日本時間)】2025年1月7日(水)1:00


【人類進化学】モロッコで発見されたヒト族化石、現生人類の出現を解明する鍵に

マックス・プランク研究所らの研究チームは、モロッコのカサブランカ近郊で発見された約77万3,000年前のヒト族(ホミニン)の化石を解析し、この化石がホモ・サピエンス系統の近縁祖先である可能性が高いことを明らかにした。下顎骨や歯、椎骨からなる化石は、ホモ・エレクトスなどに見られる原始的形質と、初期ホモ・サピエンスやネアンデルタール人に共通する派生形質をあわせ持っていた。年代については、地磁気逆転期の記録を利用して推定され、同時代のホモ・アンテセッサーと一致していた。ただし、ホミニンとホモ・アンテセッサーの形態学的差異は、前期更新世後期におけるヨーロッパと北アフリカの地域分化を示唆するものだった。研究者は、本研究が、現生人類の起源がユーラシアではなくアフリカにあることを支持する重要な古人類学的証拠を提供する、と述べている。

【論文リンク】https://nlcontent.springernature.com/redirect/TIDP4635633XFBABD077803C4148BA800E06064B9A1FYI4/29B9DC50-405B-4EA7-88BC-D45470D43596
【掲載誌】Nature
【報道解禁(日本時間)】2025年1月8日 1:00


【生命科学】【睡眠】クラゲもイソギンチャクもヒトと同じように眠り、その間にDNA損傷を修復

クラゲやイソギンチャクの睡眠パターンが、ヒトの睡眠と多くの共通点をもつことが報告された。本研究は、睡眠が「覚醒時に生じるDNA損傷から細胞を守る」ために、動物進化の早い段階でもたらされた可能性を支持している。研究チームは、クラゲとイソギンチャクを対象に観察を行い、両者が1日の約3分の1を睡眠状態で過ごすことを明らかにした。クラゲは主に夜に眠り、イソギンチャクは昼間に眠るなど、種による違いも明らかにされた。さらに、覚醒や睡眠の剥奪は神経細胞のDNA損傷を増加させ、睡眠はDNA損傷の修復を促すことが示された。これらの結果は、睡眠が、原始的な動物においてもDNA保護機構として重要なことを示唆している。

【論文リンク】https://www.nature.com/articles/s41467-025-67400-5
【掲載誌】Nature Communications
【報道解禁(日本時間)】2025年1月7日(水)1:00


【アルツハイマー】【専門家コメント】ノルウェーにおける、血中タウとアルツハイマー病有病率についての解析:専門家の反応

認知症の主因であるアルツハイマー病における神経病理学的変化(ADNC)の陽性率は不明であった。キングスカレッジ・ロンドンらの研究グループは、57歳以上のノルウェー人1万1,486人の血漿サンプルを用いて、血液バイオマーカーとされる「スレオニン217のリン酸化タウ(p-tau217)」を測定した。その結果、p-tau217の陽性率は加齢とともに増加し、90歳以上では65.2%に達した。70歳以上では、前臨床期・前駆期・認知症期アルツハイマー病において、それぞれ約1割がp-tau217陽性だった。高齢者における陽性率が、従来推定より高いことが示唆された。以下、イギリスの専門家のコメントを紹介する。

Prof Louise Serpell, Emerita Professor of Biochemistry, University of Sussex:

本研究は、アルツハイマー病マーカーであるTau p217を用いており、これは診断分野における比較的新しい進歩です。これにより、ノルウェーのコホートを対象とした解析が可能となり、興味深い点と同時に意外な結果も示されています。

近年、神経変性疾患研究では、特異的診断、疾患の重なり、混合型認知症に関する重要な問題が指摘されています。本研究では、認知症と診断された人の中にTau p217が陰性の人が一定数、存在することが示されており、これは診断の特異性や、このマーカーがどこまで適用可能なのかという重要な疑問を提起しています。本研究では、男女間でTau p217マーカーに有意な差が認められなかったことも示されており、女性の方がアルツハイマー病リスクが高いという一般的な考え方に疑問を投げかけています。これも、今後の研究で解明されるべき重要な点です。

重要な点として、HUNT研究(翻訳者注:ノルウェーで行われている大規模な人口ベースの長期健康調査研究)では、70歳以上の参加者に対して軽度認知障害(MCI)または認知症を診断するための認知機能評価が行われていますが、アルツハイマー病かどうかは明確ではありません。認知症という言葉は曖昧で、アルツハイマー病患者だと言い切れないからです。HUNT研究で使用されたモントリオール認知評価(MoCA)は、一般的な認知機能障害を検出する検査です。

アルツハイマー病は、脳内におけるアミロイドβの沈着(老人斑)と、タウタンパク質による神経原線維変化によって定義されます。ただし、これまでは死後脳の解析によってのみ確定されてきました。早期診断は、アルツハイマー病という限定した神経変性疾患に対して戦略的治療を行うため、ますます重要になっています。

David Thomas, Head of Policy and Public Affairs at Alzheimer’s Research UK:

このような質の高い研究は、アルツハイマー病の血液検査を臨床現場でどのように活用できるかを理解する上で極めて重要です。これらの検査は、早期かつ正確な認知症診断を支援する大きな可能性をもっています。PET検査や脳脊髄液検査といった既存の検査とくらべ、侵襲性が低く、比較的安価で、幅広い分野への発展が期待できます。

しかし、アルツハイマー病に関連するタンパク質が検出されたからといって、それ自体が診断になるわけではありません。こうしたタンパク質をもっていても、生涯にわたって症状を示さない人もいます。したがって、結果の解釈には慎重さが必要です。また、血液検査は高齢者では感度が低下する可能性もあり、今後の研究で、より幅広い年齢層での検証が求められます。

これらの検査をNHSで活用するためには、さらなるエビデンスの蓄積が必要です。私が属するAlzheimer’s Research UKは、READ-OUT研究やADAPT研究など、血液検査に関する研究を他のパートナーとともに支援しています。また、新たな臨床イノベーションを導入できるよう、政府に対して認知症診断を担うNHSサービスへの投資を求めています。

Prof Tara Spires-Jones, Director of the Centre for Discovery Brain Sciences at the University of Edinburgh, Division Lead in the UK Dementia Research Institute, and Past President of the British Neuroscience Association:

本研究は、高齢化に伴いアルツハイマー病の有病率が上昇していることを示すデータを補強する、興味深く重要な研究です。しかし、プレスリリースの見出し『高齢者における認知症は、これまで考えられていたよりも多い』という表現は誇張されています。本研究は、ノルウェーの1万1,000人以上を対象に、年齢層ごとにアルツハイマー病関連バイオマーカーの変化と認知症症状の頻度を調べたものです。その結果、85歳以上の約60%にアルツハイマー病関連のバイオマーカー変化がみられました。これは、2023年に発表された世界的レビューによる55~59%という値と同程度です。本研究では、85~89歳の約25%が認知症と診断されました。一方、2025年のアルツハイマー協会のデータでは、85歳以上の30%超がアルツハイマー病だとされています。したがって、今回の結果は驚くものではありません。

本研究の強みは、集団ベース研究として、ノルウェー人口をよく代表している点、そして信頼性の高い臨床評価と精度の高い血液バイオマーカーを用いている点です。一方で、ノルウェーは比較的遺伝的に均質な集団であり、多様な民族背景を持つ人々が少ない点に限界があります。アルツハイマー病の有病率は、民族によって異なることが知られています。

【論文リンク】https://www.nature.com/articles/s41586-025-09841-y
【掲載誌】Nature
【報道解禁(日本時間)】解禁済み

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