【Horizon Scanning Vol. 2026-2】「英:海外で手術後の合併症治療で、患者1人あたり最大2万ポンドのNHS費用負担が発生 」、「新型コロナワクチンへの不信、全体として時間とともに軽減するものの、特定集団では持続」

2026年1月19日

【がん研究】【医療】なぜ多発性骨髄腫は女性より男性に多い? 要因となる複数の因子を特定

多発性骨髄腫(MM)は米国では2番目に多い血液がんで、男性の発症率は女性の約2倍に上る。アラバマ大学バーミングハム校オニール総合がんセンターらの研究チームは、IMAGE研究(血液がんの発症要因を、分子・遺伝・臨床・疫学の観点から統合的に解析する研究プロジェクト)に参加した新規診断のMM患者850人のデータを解析した。その結果、男性は診断時に進行期(ISSステージIII)である割合が高く、腫瘍量、腎不全などの臓器障害、骨病変がより多くみられた。一方、骨密度は女性よりも高かった。これらの差は、年齢、人種、生活習慣などを考慮してもみられ、若年男性に多い特定の染色体異常が一因である可能性が示唆された。研究者は、性別特異的な発症機構の理解が、診断や個別化治療の改善につながると述べている。

【論文リンク】https://doi.wiley.com/10.1002/cncr.70192?utm_source=muckrack&utm_medium=email&utm_campaign=publicity_wly&utm_content=cancer_1_7_26&utm_term=cncr
【掲載誌】Cancer
【報道解禁(日本時間)】解禁済


【動物研究】馬の脳科学研究からわかった、母子の絆の重要性

フランス国立科学研究センター(CNRS)らの研究チームは、母馬と子馬の長期間にわたる接触が、子馬の脳発達や行動、ストレス応答に好影響を与えることを明らかにしたと報告。研究チームは、家畜の馬24頭を対象に、生後6〜13か月にかけて、脳画像(fMRIを含む)や生理・行動・認知テストを実施した。その結果、生後6か月で母馬から分離された子馬にくらべ、母馬と共に過ごした子馬では、社会情動行動や生理調節に関わる脳領域(前帯状皮質、視床下部、扁桃体など)がより早く成熟した。さらに、社交性や環境探索行動が高く、体重増加も大きく、血中脂質が高く、ストレスホルモンであるコルチゾールが低いこともわかった。研究チームは、管理下の馬において離乳時期を遅らせる重要性を示すとともに、大型哺乳類の親子関係を理解するモデルとして馬が有用であることを示していると結論づけている。

【論文リンク】DOI:10.1038/s41467-025-66729-1
【掲載誌】Nature Communications
【報道解禁(日本時間)】2025年1月14日(水)1:00


【COVID-19】【専門家コメント】新型コロナワクチンへの不信、全体として時間とともに軽減するものの、特定集団では持続

英国の18歳以上の成人110万人(女性57%)を対象にしたREACT研究(英国で実施されている大規模な感染症サーベイランス研究)により、時間の経過とともに、新型コロナウイルス(COVID-19)ワクチンを接種することへの躊躇が軽減した一方、特定の理由を持つ人々では不信感が持続しているとの結果が示された。2021~2022年のワクチン接種開始期に躊躇を示した人のうち、約65%が、その後、少なくとも1回は接種を受けていた。当初の躊躇理由として最も多かったのは、ワクチンの有効性や副作用、長期的な健康影響への懸念で、これらを理由とした人は、後に考えを変えて接種を受ける割合が高かった。一方で、反ワクチン的信念や開発者への不信、COVID-19による個人的リスクを低く見積もっていることを理由とした人々は、その後も、接種に消極的な傾向が強かった。研究チームは、ワクチン躊躇には、状況依存で対処可能なタイプと、より根深く変化しにくいタイプがあり、将来のワクチン導入では、タイプ別の公衆衛生戦略が必要だと指摘している。

専門家コメント

Dr. Katharina T. Paul(Universität Wien, Österreich)

ー社会におけるワクチン忌避

ワクチン忌避は新しい現象ではありませんが、その結果、現在の麻疹、百日咳、インフルエンザの感染状況を切迫させ、経済的・社会的・感情的に大きな負担を強いる結果となっています。このことは、感染症対策としてワクチン接種がいかに重要かを示してもいます。ドイツやオーストリアにおけるワクチン接種への意欲は、国家機関、科学、医療制度に対する信頼に大きく左右され、極右政党への支持と強い相関を示しています。なかでも、副反応などの安全性への懸念が強く、これがワクチン忌避の最も重要な要因となっています。

ーワクチンの種類による違い

ただし、ワクチンの種類ごとに分けて考える必要があります。インフルエンザやCOVID-19といった季節性感染症のワクチンでは、忌避というよりも接種疲れの影響が観察されます。もう一つ重要と思われる点は、パンデミックの急性期には、人々がワクチン接種によって『通常の生活』を取り戻すことを重視していたことです。つまり、接種が、行動制限を避けるための手段として受け止められていました。ところが現在では、多くの人にとってCOVID-19感染のリスクは、接種に要する手間と釣り合わなくなっています。

さらにCOVID-19ワクチンについては、その受け止め方が、マスク着用や学校閉鎖など、パンデミック中に用いられた他の政治的対策への認識と結びついている点も重要です。2024年に政治的に『パンデミックの終結』が宣言されたことで、多くの人にとってはワクチン接種の必要性も終わったと感じられたのです。したがって、政治的キャンペーンは、単に情報を提供するだけでなく、信頼を構築することが不可欠です。また、ワクチン接種の機会を最適化し、よりアクセスしやすくする必要もあります。診療所の開院時間、公的接種会場、企業や雇用主(特に医療など負担の大きい分野)は、低いハードルでの接種機会を提供するうえで重要な役割を担います。

本研究が指摘する妊婦などのハイリスク集団については、追加的なコミュニケーション資源が必要であり、助産師や産婦人科医といった医療専門職の支援が重要です。これらの集団が少なからずワクチン忌避の影響を受けていたり、十分な資源を得られていないことが、状況をさらに困難にしています。

一方、季節性ワクチンとは対照的に、小児ワクチンではより根本的な問題があるといえます。一定数の家庭が、小児ワクチンを安全ではないと考えたり、費用対効果が見合わないと判断しています。このことは、親が子どもにとってワクチンがどれほど価値のあるものかについて、独特で時に文化的背景に依存した考えをもつ傾向があることを意味します。その際、社会全体への影響はあまり重視されません。

ーアクセスとコミュニケーションの障壁

季節性ワクチンと小児ワクチンは区別して考えることが重要で、それぞれに異なるキャンペーンが必要です。ただし、両者には共通する重要点が二つあります。第一に、偽情報への対抗(現在の米国でも見られる問題です)、第二に、できるだけ低いハードルで接種を提供することです。

本研究は、接種機会を後から利用した集団に関する重要な知見も示しています。直接、医療制度における差別の結果だと結論づけることはできませんが、制度的な不信感――過去の否定的経験や、民族性や個人的背景に基づく不平等な扱いの認識――が影響している可能性があります。こうした傾向が他国や他の医療の文脈にも当てはまるかは未解明ですが、ジェンダーや移民背景に関連する違いが、医療への認識やアクセスに体系的な影響を及ぼしていることは明らかです。

オーストリアの研究では、主に副反応への懸念や、政府・制度全般への低い信頼によってワクチン忌避に傾くことが示されています。ドイツでは、移民の人々の方が、非移民の人々よりも接種率が低いとわかっています。つまり、医療制度における構造的なアクセス障壁が関与している可能性があります。Bug ら(2023)は、社会人口学的要因と、先に述べた低ハードルの接種機会が特に重要であると指摘しています。

ミュンヘンを対象とした横断研究でも、移民背景の有無によって接種意向に差が見られました。移民の人々は、知識や態度が比較的良好であっても、接種意欲が低い傾向を示しました。

さらに、ヨーロッパにおける移民のワクチン忌避を扱った46研究を対象とする最新の混合研究法レビューも存在します。そこでは、社会文化的要因に加え、制度的な不信感、健康情報へのアクセス、アカルチュレーション(文化への適応過程)、構造的障壁が重要な役割を果たしていることが示されています。これらの結果は、移民におけるワクチン忌避が、単なる個人的な『不信』に還元できるものではなく、個人の経験と文化的・制度的要因が相互に作用した結果であることを示唆しています。

ー他のワクチンへの影響

COVID-19のパンデミックが他のワクチンに対する態度にも影響を与えた可能性を示す証拠はありますが、その方向性は一様ではありません。私の知る限り、フィンランドとドイツを対象とした2つの研究では、パンデミック期間中にインフルエンザワクチンや医療従事者に対する態度がより肯定的になった、あるいはCOVID-19ワクチンへの肯定的態度が、インフルエンザや肺炎球菌ワクチンへの安定的、または肯定的態度と関連していたことが示されています。一方で、米国の研究では、(小児の定期接種に関して)明確で持続的な変化が必ずしも観察されていないことも報告されています。

Prof. Dr. Klaus Überla(Universitätsklinikum Erlangen/Bayerisches Vakzinezentrum)

ー研究結果の位置づけ

この研究で特に興味深いのは、ワクチンに対する当初の態度が、その後の実際の接種行動と照合されている点です。結果として、当初は懐疑的だった人々の大多数が、時間の経過とともにワクチンの有用性を認識したことが示されています。

全体として、この研究で観察された「根本的にワクチンに懐疑的な人」の割合は、ソーシャルメディア上での存在感から想像されるほど高くないように見えます。ただし、研究デザイン上、特に強いワクチン忌避を持つ人々が研究参加を拒否し、その結果、過小評価が生じている可能性は否定できません。

ワクチン忌避の基本的な動機や、新たな情報が提示された場合の態度変化への開放性に関する結果は、他国にとっても有用である可能性があります。一方で、国ごとのコミュニケーションのあり方には多くの違いもあり、特にワクチンの義務化をめぐる議論は、各国でワクチンに対する態度を異なる形で形成する要因になったと考えられます。

ー高齢者におけるワクチン忌避

本研究は、ワクチン忌避が、比較的、多く見られる集団を特定しています。私にとって意外だったのは、COVID-19による重症化リスクが特に高い75歳以上の高齢者において、持続的なワクチン忌避が比較的、多く見られた点です。この層に対しては、新たなアプローチで情報や接種機会を届ける必要があるかもしれません。

ーCOVID-19ワクチンに関するコミュニケーション

振り返ってみると、COVID-19ワクチンの有効性や安全性をめぐるコミュニケーションから学ぶべき点は多く、本研究は、ワクチンに懐疑的な人々の多くが、新たな知見に対して開かれていることを示唆しています。

COVID-19ワクチンは数百万人の命を救ったにもかかわらず、現在の議論は、有効期間や、mRNAワクチンに対する推測的な安全性リスクに支配されています。

私は、国民の疑問に答えるという点において、COVID-19ワクチンの有効性に関する知見が時間とともに変化するとの説明や、コミュニケーションが十分ではなかったと思っています。分かりやすさを重視するあまり、誤解を招く表現も用いられました。例えば、『オミクロン株に対して感染予防効果はないが、重症化は防ぐ』と繰り返し言われましたが、実際には3回目接種後のオミクロン株に対する感染予防効果は、ある大規模メタ解析で約40%と報告されています。また、感染予防効果が低いことが、“感染伝播を防がない”ことと同一視されてしまいました。実際には、感染伝播に対する防御効果は、感染そのものを防ぐ40%の効果に加え、接種後に感染した場合でも、感染性を抑制する効果によって強化されます。ウイルス拡散が指数関数的に進むことを考えると、伝播リスクの中程度の低下でも、同時多発的な感染事例数を大きく減らす効果があります。実際に、伝播率低下によって得られた時間的猶予は、パンデミック中にさらなるワクチン接種を可能にし、医療体制の逼迫を防ぐ助けとなりました。

この文脈で興味深いのは、ワクチン接種と他の感染拡大抑制策との比較です。公表された研究データを総合すると、ロックダウンは感染伝播を約50%低下させ、マスク着用は約11%の伝播を防ぐとされています。

ワクチン接種は、ロックダウンと同程度に感染拡大抑制に寄与しうるうえ、毎日、何かを守り続ける必要がないという利点があります。したがって、有効期間の限界や稀なリスクについて議論するだけでなく、ワクチンの価値そのものを過小評価してしまわないよう注意すべきです。COVID-19ワクチンの迅速な開発こそが、パンデミック克服の転換点でした。

ー他のワクチンへの影響

ドイツのロベルト・コッホ研究所(RKI)による接種率モニタリングでは、パンデミック後、60歳以上におけるインフルエンザワクチン接種率の低下が示されています。これが長期的なものなのか、それともパンデミック後の一時的な“接種疲れ”なのかは、現時点では判断が困難です。

一方で、肺炎球菌ワクチンの接種率低下は認められておらず、帯状疱疹ワクチンの接種率は大きく上昇しています。小児の接種率も概ね安定しています。これらの結果は、人口の大多数において、ワクチンに対する態度が恒常的に変化したわけではないことを示唆しています。

Dr. Sarah Eitze(Universität Erfurt/Institute for Planetary Health Behaviour)

ー研究結果の位置づけ

今回の研究は、通常は切り離されがちな二つの側面を結びつけている点で、特に価値が高いと考えています。その一つは、ワクチン接種の意思決定に影響を与える社会的・心理的要因――たとえば態度、不安、社会的に不利な環境か恵まれた環境かといった生活条件――を把握していることです。もう一つは、これらの情報を、英国の医療制度に由来する客観的な健康データと結びつけ、2024年までの実際の接種行動を追跡していることです。これにより、どのような態度がどのような行動につながったのかを非常に正確に理解することが可能になっています。

サンプルサイズは数十万人規模と非常に大きい一方で、完全にバイアスがないわけではありません。参加者はまず調査への自主的参加に同意し、さらに自身の健康データを連結することにも同意した人に限られています。

国家機関や科学、行政に対して強い不信感を抱く人々――多くのワクチン反対派に共通する中核的特徴ですが――は、このようなデータセットでは過小代表されている可能性が高い。したがって本研究は、急進的な反ワクチン層を過小評価している可能性があります。

それでもなお、本研究は、懐疑のあり方、リスク認知、信頼が、実際の接種行動とどのように結びついているかについて、非常に重要な知見を提供しています。

ー公的コミュニケーションの有効性

本研究は、著者ら自身が述べているように、具体的なコミュニケーション施策や介入を直接検証したものではありません。しかし、パンデミックの経過の中で、どのような情報が実際に効果を持ったのかについて、重要な示唆を与えています。特に示唆的なのは、当初は接種に躊躇していたものの後に接種した人々が、当初に挙げていた理由が、情報提供によって対応可能なものだったという点です。具体的には、ワクチンの長期的有効性への不確実性、副反応への懸念、新しい技術に対する経験不足などです。

研究では、当初に『より多くの信頼できる情報が必要だ』と答えた人ほど、後に接種に踏み切る可能性が高かったことが明確に示されています。この層で接種率が後に上昇したという事実は、メディア、科学、政治が、実地データの蓄積、安全性に関する数百万件規模の知見、継続的な報道を通じて、少なくとも一部の情報ギャップを埋めることができたことを示唆しています。

公的コミュニケーションへの教訓として言えるのは、道徳的圧力ではなく、透明性があり、継続的で、エビデンスに基づく情報提供が最も効果的であるということです。

科学は、分かっていることと、まだ分かっていないことの両方を、分かりやすく説明する必要があります。メディアはそれを文脈化し、アクセス可能にする重要な役割を担います。政治は、こうした情報が矛盾したシグナルによって損なわれることなく、国民に届くための枠組みを整えるべきです。

本研究のもう一つの重要な結果は、社会的に不利な状況にある人々が、パンデミックを通じて一貫してワクチンへのアクセスが悪かったという点です。これは、良いコミュニケーションだけでは不十分であり、低いハードルで、構造的に公正な接種機会と結びつける必要があることを示しています。将来のワクチンキャンペーンでは、情報提供と医療提供体制を常に一体として考える必要があります。

ー研究の付加価値

本研究は、心理的・社会的態度を、客観的な健康データに基づく実際の接種行動と直接結びつけたという点で、重要な次の一歩です。COSMO研究では、パンデミック中、主に自己申告データに依存してきました。つまり、接種したかどうか、何回接種したか、将来接種する可能性がどの程度かを人々に尋ねていました。このような研究は、モニタリングデータを現実の行動と照合することを可能にします。

両データセットを通じて、非常によく似た時間的推移が見られます。2021年初頭の接種開始時には、ドイツでは接種を想定できる人は50~60%程度に過ぎませんでした。副反応、有効性、新技術に対する不確実性が大きかった時期です。しかし時間の経過とともに状況は大きく変わりました。COSMO研究では、2022~2023年の調査終了時点までに、ワクチンに対する態度が明確に改善しています。多くの当初の懸念は、実際の経験によって相対化されました。ワクチンは有効で、重篤な副反応は稀であり、COVID-19による入院や死亡は大きく減少しました。

その結果、一貫して接種を拒否する人の割合は、2022年11月には約8~9%まで低下しました。私たちのサンプルでは、最終的に80%以上が接種済みでした。これは、新しい英国の研究が描く状況ともよく一致しています。当初は躊躇していた人々の多くが、懸念が現実と一致しなかったことで、最終的に接種を選択したのです。

同時に、この発展には負の側面もあります。パンデミック終盤には、立場の対立が以前よりも固定化しました。Henkelら(2023)の研究が示すように、ワクチン接種状況が、政治的・社会的アイデンティティの一部となり、排除やスティグマの経験と結びついた人々もいました。

本研究は、ワクチン接種の判断が医療的決定であると同時に社会的決定でもあること、そしてこの力学がパンデミック後も、私たちの記憶や認識に影響を与え続けることを示しています。

ー最適なワクチン・コミュニケーション

最適なワクチン・コミュニケーションは、エビデンスに基づき、対象集団ごとに設計され、長期的視点で行われる必要があります。本研究は、ワクチン忌避が一様ではないことを明確に示しています。情報不足に基づく不安は比較的対処しやすい一方で、制度や科学への不信に根ざした深い拒否感は、はるかに対応が困難です。

だからこそ、信頼が低い集団と早期から協働しながらコミュニケーションをはかることが重要です。当事者がメッセージ作りに関与する共創(コ・クリエーション)型アプローチは、障壁を下げ、長期的な信頼構築に役立ちます。理想的には、社会的対立が激しくなる危機時ではなく、比較的平穏な時期に取り組むべきです。

パンデミック中の私たち自身の経験も、これを裏づけています。2022年冬に実施した実験的なポスター介入では、ワクチンの開発や有効性に関するエビデンスベースの情報を提示しましたが、強い反ワクチン姿勢を持つ人々では、たとえ事実に基づく内容でも、怒りや反発を引き起こすことが少なくありませんでした。これは、情報を増やすことが、特定の集団では無効どころか逆効果になり得ることを示しています。

現時点で最も有望とされるのは、個別的で対話的なアプローチです。たとえば、医師と患者の1対1の丁寧な対話で、『モチベーショナル・インタビューイング』に基づく手法です。説得や圧力ではなく、傾聴、葛藤の理解、個人の意思決定を重視します。深い懐疑を持つ人々にとっては、再び対話を始める唯一の道となることも少なくありません。

ー他のワクチンへの影響

COVID-19が他のワクチンに対する態度を変えた可能性を示す初期的な証拠もあります。これは私たち自身の研究からも確認されています。

一連の研究では、参加者に、将来想定される新しいワクチンとRSウイルスワクチンについて、かかりつけ医に尋ねたい質問を自由記述で書いてもらいました。すると、明確な『パンデミックの余韻』が見られました。COVID-19以前から存在していた安全性や有効性への疑問に加え、ブースター回数や防御効果の持続期間といった、パンデミック由来の新しい概念や思考枠組みが頻出しました。こうした繰り返し接種を前提とする発想は、2020年以前の定期接種ではほとんど見られなかったものです。

特に、ワクチンに強く否定的で、感情的な言葉遣いをする人々では、COVID-19パンデミックの経験が明示的に言及されていました。この集団にとって、COVID-19が、新しい、あるいは全く異なるワクチンを評価する際の中心的な参照点になっているようです。こうした影響がどれくらいの期間、どのワクチンにまで及ぶのかは、現時点では明確ではありません。だからこそ、継続的で、方法論的に質の高い調査が不可欠です。それによって初めて、パンデミックがワクチンに対する思考を長期的に変えたのか、それとも時間とともに薄れていくのかを見極めることができるようになります。

【論文リンク】https://info.thelancet.com/e3t/Ctc/RF+113/cs6tF04/VWyL_Z39X20ZW4XQmWG2zz89cW3trWRD5J1VbZMNrWps3prCCW95jsWP6lZ3pmW6Yz4_T2rjdT0W64x-Hs2XVvhXW6M-ql289cwtLW7d40vX1cG_ZlN8chG5Y6Md4_W8m1TX43XdMsFW7wpjkX14284HW80FSvL1Fm_RXW7zjMDH8C38znV-bW2q50f7ntW6GMt9q5XtmnTW2RBYvC24Q2PjW65Xgt076GzpTW72_cJb3V7MM0W5GTZw96kdx7CW6d9DDW4sSqf3W12XdNB5VVX3LVzd6w_1dYR5hW6R3T1j3fzGtnF1crcrTXHvdW11xZKm1V8syZW3_zzNS5xSw99W54byv75VQssdVtwxKd1q_XB-W5P5T5l1-RHb3W54bX113X7JWbW72-97g1hYvyWW7FqTfZ75dXtLMG_KC8hLVDXW2wPkjq9d4QK6f4T9V2004
【掲載誌】The Lancet
【報道解禁(日本時間)】解禁済


【医療ツーリズム】【コスト】英:海外で手術後の合併症治療で、患者1人あたり最大2万ポンドのNHS費用負担が発生

海外で手術を受けること(医療ツーリズム)のリスクを十分に理解することは、現時点では不可能だが、英国の研究チームは、医療ツーリズムによる術後合併症が、患者1人あたり最大2万ポンドの費用をNHSに発生させている可能性がある、と報告した。英国における医療ツーリストの数は過去数十年にわたり着実に増加しているものの、この事象に関する体系的研究は行われていない。術後合併症の治療は通常、帰国後に自国の医療制度が担うことになり、初回手術に関する情報不足が、合併症治療を複雑にする場合がある。

研究チームは、医療ツーリズムがNHSにもたらす費用と節約額、手術の種類や頻度、合併症、さらにその後の治療・ケアやNHS資源の利用状況について、ラピッドレヴュー(短期間のシステマティックレビュー)を実施した。研究対象は、2012年から2024年12月までに公表された研究論文、学会発表、討論文、論説、政府・業界・機関の報告書など計90本(症例の対象は、代謝疾患や肥満の手術、豊胸などの美容外科手術、眼科手術など。緊急手術、がん、不妊治療、歯科治療、移植手術に関する海外治療の症例は対象から除外した)。患者の大半は女性(90%)、平均年齢は38歳(14~69歳)、渡航先の最多はトルコ(61%)だった。死亡例はなかったが、371人で合併症が詳細に報告されており、少なくとも196人(53%)が中等度から重度の合併症を経験していた。費用について言及した先行研究は14件のみで、2024年価格で患者1人あたり1,058~1万9,549ポンド(約23万〜419万円)の範囲だった。研究チームは、本研究のエビデンスの確実性は低いと説明するものの、医療ツーリズムによる合併症とその費用が過小評価されている可能性を示唆していると述べている。

【論文リンク】DOI: 10.1136/bmjopen-2025-109050
【掲載誌】BMJ Open
【報道解禁(日本時間)】2025年1月14日 08:30


【気候変動】樹木中の微生物も温室効果ガスを除去

オーストラリアの研究者らが、樹木の「隠れた気候変動対策能力」を発見した。樹皮には、温室効果ガスや有毒ガスを空気中から取り除く数兆もの微生物が生息している。樹木が光合成によって二酸化炭素(CO2)を吸収し、地球温暖化を抑制することは古くから知られていたが、今回の研究により、樹木のパートナーである微生物もまた、他の多くの気候活性ガスを大量に吸収していることが示された。

【論文リンク】https://www.science.org/doi/10.1126/science.adu2182
【掲載誌】Science
【掲載日】2026年1月9日 04:00


【育児】アイルランド:母乳育児が長いほど、メンタルヘルスが良好に

168人の経産婦を対象とした小規模な調査により、一定期間、母乳育児を行った母親は、出産から10年後までの間にメンタルヘルスの問題を経験する可能性が低いと報告された。この研究では、2回目の出産後10年間にわたり、母乳育児の履歴、身体的、精神的健康状態を追跡。対象者の73%が一度は母乳育児を行い、その3分の1では合計12ヶ月以上の母乳育児を行っていた。研究終了時点で13%がうつ病や不安神経症を報告し、21%が研究期間中のいずれかの時点で同様の症状を報告した。研究者は、母乳育児の期間が長いほど、メンタルヘルスの問題を報告する可能性が低くなると指摘している。本研究は、アイルランド、ダブリンで2007年〜2012年にかけて行われた通称ROLO(Randomised cOntrol Trial of LOw glycaemic diet in pregnancy)studyのデータを利用している(本論文、注18を参照のこと)。

【論文リンク】https://www.scimex.org/newsfeed/breastfeeding-linked-to-better-long-term-mental-health
【掲載誌】BMJ Open
【報道解禁(日本時間)】2025年1月9日 08:30


【気候変動】2025年、世界の海洋熱量が過去最高を更新

国際研究チームによると、2025年の地球の海洋蓄熱量は、観測史上最高を記録したという。南大洋(南極海)は特に水温が上昇した地域の一つであり、海面水温は2024年からのラニーニャ現象による冷却効果があったにもかかわらず、史上3番目の高さを記録した。研究者は、温まった海水は体積が膨張して海面水位の上昇に寄与するだけでなく、サイクロンなどの異常気象をより深刻にすると警告。ネットゼロ(温室効果ガス排出実質ゼロ)を達成するまで、海洋熱量の記録更新は続くと予想されている。

【論文リンク】https://www.scimex.org/newsfeed/global-ocean-heat-broke-records-in-2025
【掲載誌】Advances in Atmospheric Sciences
【掲載日】2026年1月9日


【メンタルヘルス】【臨床】メンタルヘルスや慢性痛の患者は、医師から「対応が難しい」と思われやすい

医師は患者の約6人に1人を「対応が難しい(難しい患者)」と感じており、それらの患者はメンタルヘルスの問題や慢性痛を抱えている可能性が高いとするレビュー結果が報告された。45の既存研究を分析したもので、特にうつ病や不安神経症を持つ患者では、医師から対応に苦慮すると判断される傾向が強いことが示された。また、経験が浅い、燃え尽き症候群、仕事への満足度が低い、といった医師ほど、患者を「難しい」と評価しやすいことも判明した。研究者は、メンタルヘルスや慢性痛を扱う訓練や治療選択肢の欠如が、こうした思い込みを生んでいる可能性があると指摘している。

【論文リンク】https://www.acpjournals.org/doi/10.7326/ANNALS-25-01882
【掲載誌】Annals of Internal Medicine
【報道解禁(日本時間)】2025年1月13日 07:00

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