LLMは、医療上の意思決定を改善しない可能性が大
LLM(大規模言語モデル)は「市民の医学的知識を増やすために役立つ」とされてきたが、一方で、医師免許試験で高得点をマークしたLLMでも、日常生活で使えるとは限らないとする指摘もあった。本研究では、LLMが病状の把握や、その対処(受診すべきかどうか、救急車を呼ぶべきかなど)の選択を支援できるかが検証された。対象は英国の1,298人の被験者で、10通りの医療シナリオを用意した上で、LLMを使用する群と通常の検索エンジンを使用する対照群に分けた。人間が介入しないLLM単体のテストでは、94.9%のケースで病状を正しく把握し、56.3%のケースで正しい行動を選択した。ところが、被験者がLLMを用いた場合は、34.5%未満のケースでしか病状を正しく把握できず、適切な行動が選択できたのは44.2%未満で、対照群に対する優位差も見られなかった。一部のケースを詳細に分析したところ、被験者がLLMに不完全な情報を提供していることも、LLMが誤った情報を生成していることもあった。著者らは、人間とLLMを組み合わせると、既存のベンチマークでは予測できない課題が生じるとし、LLMを直接、患者のケアに導入する段階には至っていないと結論付けている。
【論文リンク】
https://www.nature.com/articles/s41591-025-04074-y
【掲載誌】 Nature Medicine
【掲載日】 2026年2月10日
自閉症、診断時期に男女差があるものの、大人になると数は1対1に
スウェーデンの大規模観察研究により、自閉スペクトラム症(ASD)の診断率に、従来考えられていたほどの男女差はない可能性が示された。1985~2022年に出生した約270万人を最長37歳まで追跡した結果、小児期には男性の診断率が高いものの、思春期に女性の診断が増加し、20歳頃には男女比がほぼ1対1に近づくことが明らかになった。これは、女性が男性よりも遅れて診断される「追いつき」現象を示すものである。著者らは、診断基準の変化や社会的要因が有病率の増加に関与する一方、女性は症状が見逃されやすい可能性があると指摘する。研究には併存疾患などを考慮できないといった限界はあるが、全人口を対象とした長期データに基づくと、成人期には自閉症の男女差がほとんどなくなる可能性を示した点で重要な知見といえる。
英国SMC専門家コメント
Prof Dame Uta Frith(University College London (UCL), Emeritus Professor of Cognitive Development):
「『男女の自閉症発症率は従来考えられていたより等しいかもしれない』という見出しは非常にミスリードである。この優れた研究は、10歳以下の年齢で診断された児童においては、『男子3人に対し女子1人』という性比(男女比, sex ratio)が驚くほど安定して維持されていることを示している。しかし10歳以降に診断された場合、この性比は急激に低下し、女子の診断数が男子を大幅に上回る。これは10~15歳で顕著であり、15歳以降はさらに差が広がる。これが、20歳までに累積的な男女比が同率(1:1)に達すると本研究モデルが推測する理由である。著者らが『なぜ女子の診断が遅れるのか』と問うのは当然だ。私は、診断が遅れた女性たちが新たなサブグループを形成し、独自の呼称を必要とする可能性があると考える」
Dr Rachel Moseley(Bournemouth University, Principal Academic in Psychology):
「本論文は時宜を得たものであり、自閉症研究者が長年認識してきた事実を支える重要な証拠を提供する。自閉症の著しい診断不足が、出生時に女性と割り当てられた人々の間にあるという事実である。本研究が若年層を対象にある期間にわたって追跡調査を行った点は極めて重要だ。なぜなら自閉症の兆候は、女子ではわずかに年齢が経過してから現れることが多いからだ。つまり幼児期のみを対象とした研究では、男子には既に現れている自閉症的特徴が女子ではまだ顕在化していないため、見逃される可能性が高い。さらに本研究が全国規模のデータを用いたことで、データ提供の選択によるバイアスが排除されている」
「重要なのは、本研究が既存研究の結果を裏付けている点だ。女子における自閉症特徴の出現時期を考慮して長期追跡調査を行えば、男女間の自閉症有病率に大きな差がないことが判明する(Burrows et al., 2022)という知見を初めて示したわけではない。実際、同研究では男女比1:1が確認されている」
「同じく重要なのは、男女別の自閉症診断比率の経年記録が存在することだ。今回の知見――出生時に男性と女性と割り当てられた人々の間で自閉症が実際にははるかに均等に発生しているという事実――は、主に高齢の未診断女性を中心に、膨大な数の自閉症女性が診断されていないという他の説得力ある証拠を支えるものである(Stewart and Happé, 2026)。そして未診断の自閉症の人々について我々が知っているのは、未診断であることが深刻な困難や自殺傾向と関連していることが多いということだ(Moseley et al., 2025)。したがって自閉症の過少診断は、ADHDと同様に、深刻な懸念事項であるべきだ」
【論文リンク】
https://www.bmj.com/content/392/bmj-2025-084164
【掲載誌】 The BMJ
【掲載日】 2026年2月5日
運動後にみられる脳のニューロン活性が持久力を高める可能性
ペンシルバニア大学の研究者らは、マウスを用いた研究により、運動による持久力向上が筋肉だけでなく脳の変化にも依存すると報告した。マウスがトレッドミル運動を行うと、エネルギー代謝を調節する腹内側視床下部(VMH)のSF1ニューロンが活性化し、その活動は運動後も少なくとも1時間、持続した。2週間の継続的な運動後は、これらのニューロン活性はさらに高まり、マウスの走行速度と持続時間も向上した。一方、SF1ニューロンの活動を運動中または運動後に遮断すると持久力の向上は見られず、特に運動後の神経活動が重要であることが示された。研究者らは、運動後の脳活動が、体内のグルコース利用を高め、回復を促進し、筋肉や心肺機能の発達を促す可能性がある、としている。これらの成果は、運動効果を高める新たな介入法の開発や、高齢者・リハビリ患者の運動支援につながる可能性を示している。
【論文リンク】
https://www.cell.com/neuron/fulltext/S0896-6273(26)00042-8
【掲載誌】 Neuron
【掲載日】 2026年2月13日
地球深部の「水素の海」は惑星形成時にできた?
地球の核に含まれる水素の大部分は、彗星衝突ではなく惑星形成時に取り込まれた可能性が高い、との研究報告がなされた。この発見は、核が地球上で最大の水素貯蔵庫であり、海洋に蓄積された量を超える水素が保持されている可能性を示している。従来の研究でも、地球の核に大量の水素が存在すると示唆されていたが、その量の推定は困難であった。これまでの推定値は幅が大きく、間接的な測定に基づいていたからだ。この課題を解決するため、今回、黄東陽(Dongyang Huang)らのチームは、地球の核が形成された際の圧力と温度を実験室で再現し、ケイ素・酸素が豊富な、核形成時の鉄合金中のナノ構造体内の水素を、原子レベルで直接、観察した。結果、ケイ素と水素の比率は約1:1であった。研究チームは、この比率と、核のケイ素含有量に関する従来の推定値を基に、核が重量比で0.07~0.36%の水素を含む可能性があると推定した。これは現在の海洋に存在する水素の9~45倍に相当する。研究チームは、この量の水素は彗星衝突などからの後期供給ではなく、惑星形成の主要段階において獲得された可能性が高いと主張している。ただし、高度な技術を用いても水素の定量化が困難であることや、原始地球の組成に関する仮定など、重大な不確実性が残るとも指摘している。今後、これらの測定を改良し、より広範な条件に適用した研究が必要である。
【論文リンク】
https://doi.org/10.1038/s41467-026-68821-6
【掲載誌】 Nature Communications
【掲載日】 2026年2月11日
日々の紅茶やコーヒーで、カフェインが認知症リスクを低減
米国の医療従事者を最大43年間追跡した研究により、カフェイン入りのお茶やコーヒーを飲むことが認知症リスクの低下と関連していると報告された。被験者は2~4年ごとに摂取量を報告し、研究者らは報告データの解析から、カフェイン入りのお茶やコーヒーを多く飲んだ人ほど、追跡期間中に認知症と診断される確率が約10~20%低下することを発見した。リスクの低減効果は、紅茶なら1日1~2杯、コーヒーなら1日2~3杯で最も顕著であり、それ以上の摂取量では追加効果は認められなかった。また、カフェイン抜きのコーヒーには認知症リスク低減効果が見られなかった。この結果から、認知症リスクの低減効果はカフェインにある可能性が高いことが示された。
【論文リンク】
https://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/2844764
【掲載誌】 JAMA
【掲載日】 2026年2月10日
肥満は感染症による入院や死亡のリスクを高める
英国とフィンランドの54万人以上を対象とした研究により、肥満者は感染症による入院や死亡リスクが高いことが分かった。研究者らは、調査対象となった925疾患の大半でこの傾向を確認した。特に、皮膚・軟部組織の感染症やCOVID-19のような急性ウイルス感染症との関連性が最も強かった。年齢、性別、人種などに関係なく、肥満度のレベルが高いほど、感染症による入院や死亡の可能性が増大した。重度の肥満だと、感染症による入院リスクを3倍高めることも明らかになった。研究者らは、世界において、これらの疾患による死亡の約10人に1人が肥満に関連している可能性があると推定している。
【論文リンク】
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(25)02474-2/fulltext
【掲載誌】 The Lancet
【掲載日】 2026年2月10日