レーザー加工のガラスを用いた長期データ保存
Microsoft ResearchのProject Silicaチームは、レーザー加工したガラスを用いてデータを長期間保存する新技術を報告した。研究チームは、多ビームフェムト秒レーザー(フェムトは10のマイナス15乗)でガラス内部に三次元ピクセル(ボクセル)として情報を書き込むアーカイブ保存システムを開発し、毎秒65.9メガビットの書き込み速度と、立方ミリメートル当たり1.59ギガビットという高密度記録を実現した。12平方センチ・厚さ2ミリのガラス片1枚に約4.84テラバイトを保存でき、これを情報量にすると数百万冊の書籍に相当する。実験では290℃の環境下で最大1万年間データが読み取り可能と推定され、室温ではさらに長寿命の保存が期待されている。磁気テープやハードディスクが数十年で劣化するのに対し、湿度や温度変化、電磁干渉に強いガラス媒体は、法的記録や文化資料などの超長期アーカイブ保存手段として有望視されている。ただし、機械的応力や化学腐食などの影響を考慮した寿命評価が課題として残されている。
論文リンク(論文掲載後有効) https://doi.org/10.1038/s41586-025-10042-w
掲載誌 Nature
掲載日時 2/19 1:00
死別による深い悲嘆から回復できない脳のしくみ
愛する人の死に続く激しい痛みは、大抵の人にとって、やがて和らぎ、日常生活が再開されることになる。しかし一部の人々にとって、その痛みは時間と共に和らぐことはない。遷延性悲嘆症(prolonged grief disorder, PGD)と呼ばれる状態だ。遺族の約20 人に 1 人は、その痛みが喪失から 6 か月以上も続く。彼らは、人生に意味がなくなったと感じたり、自分のアイデンティティの一部が失われたと感じたり、死が起きたことを知っていながら、それを受け入れられなかったりする。今回、研究チームは、PGDの神経生物学に関する既存の知見を検証した。その結果、一部の人々に悲嘆が持続するのは、報酬に関連する脳内ネットワーク(欲望や動機に関与する側坐核や眼窩前頭皮質、感情処理に関与する扁桃核や島皮質)が混乱しているからだと、明らかにした。研究者らは、「私たちが得た結果は、悲嘆は故人への渇望や憧れによって特徴づけられるという説と一致する」としている。ただし、この分野はまだ発展途上であり、多くの研究において、サンプルサイズが小さく、実験デザインも様々であるため、研究間の比較は困難である。研究者らは、今後、より大規模な遺族グループを対象に、悲嘆に関連する脳の活動が、悲嘆から回復する人と回復しない人でどのように変化するのかを、長期的に検討する必要性があると強調している。
掲載誌 Trends in Neurosciences
掲載日時 2月19日01:00
幻覚剤であるDMTが難治性うつ病を迅速に改善か?
難治性のうつ病(大うつ病性障害:MDD)は、既存の治療法で効果が得られにくい患者も多く、副作用も課題となっている。これまで、マジックマッシュルームに含まれる幻覚成分(シロシビン)を用いた治療が模索されていたが、シロシビンの幻覚作用が約2時間も持続し、治療が長時間に及ぶために大規模化が困難であった。一方、速効性のある幻覚剤ジメチルトリプタミン(DMT)を用いると、主観的な幻覚効果は約30分と短いが、シロシビンと同等の抗うつ作用をもたらすかが不明であった。今回、英国の研究チームは、成人のMDD患者34人を対象に、速効性のある幻覚剤ジメチルトリプタミン(DMT)を用いて二重盲検試験とオープンラベル試験の2段階による第Ⅱ相臨床試験を行い、その成果について報告した。二重盲検試験では、プラセボ群と比較してDMT投与群はうつ病評価尺度の点数が改善し、効果は投与1週間後には現れていた。オープンラベル実験では、抗うつ効果は12週間持続し、DMT1回投与群と2回投与群で評価尺度の点数に有意差は見られなかった。深刻な副作用は報告されなかった。
論文リンク https://www.nature.com/articles/s41591-025-04154-z
掲載誌 Nature Medicine
掲載日時 2月17日 01:00
専門家コメント
Prof Ian Maidment, Professor in Clinical Pharmacy, Aston University:
この第IIa相臨床試験には34人の患者が参加し、2回の点滴投与を受けました。17人はプラセボ1回とDMT1回、残り17人はDMTを2回投与されました。患者には心理的サポートも提供されています。2回目のDMT投与は、最初の投与(DMTまたはプラセボ)から2週間後に行われました。最初の投与は患者と医療スタッフ双方に盲検化されていましたが、2回目のDMT投与はオープンラベルでした。
最終的に28人が試験を完了しました。最初の投与から2週間後には、DMTを受けた群の方がプラセボ群より抑うつ症状が少ない結果となりました。しかし14週時点では、プラセボ1回とDMT1回を受けた群の方が、DMT2回群より症状が少ない結果となりました。第IIa相臨床試験はパイロット研究であり、主な目的は今後の試験に向けて最適な用量を決定することです。今回の参加者数は少なく、有効性を最終的に判断する設計ではありません。薬剤の有効性を結論づける前には、第III相臨床試験を実施する必要があります。安全性については、副作用はDMT群でより多く、初回投与後64.7%、2回目投与後62.5%に少なくとも1つの副作用が認められました。プラセボ群では23.5%でした。最も多かった副作用は不安と吐き気で、それぞれ6人に見られ、プラセボ群では認められませんでした。安全性を確認するためには、より大規模で多様な集団を対象とした追加研究が必要です。参加者の88.2%が白人だったため、結果の一般化にも限界があります。また、盲検性の検証が行われていないため、プラセボ効果を除外することはできません。これらを踏まえると、DMTが難治性うつ病治療として有効であると結論づけるのは時期尚早であり、臨床試験以外で使用すべきではありません。
Prof James Stone, Professor of Psychiatry, Brighton and Sussex Medical School and Honorary Consultant Psychiatrist, Sussex Partnership NHS Trust:
本研究は、DMTが抗うつ薬として有用である可能性を初めて示唆する、よく設計された概念実証研究です。サイケデリック体験の最中には、恐怖やトラウマ的な体験が生じる可能性があり、これらの負の体験がどの程度起こるのかを今後の研究で明らかにする必要があります。また、参加者はサイケデリック体験への期待を持っている可能性が高く、期待効果による症状改善が影響している可能性があります。サイケデリック薬の特性上、完全な盲検化はほぼ不可能です。本研究は、シロシビンなどの既存研究と同様に、サイケデリック体験と心理的統合支援の組み合わせがうつ病治療に役立つ可能性を示しています。ただし参加者数は少なく、安全性や有効性を確定的に判断するには時期尚早であり、さらなる研究が必要です。
Dr James Rucker, Consultant Psychiatrist and Senior Clinical Lecturer at the South London & Maudsley NHS Foundation Trust and King’s College London:
本試験は、医療管理下で心理的サポートを伴って投与されたサイケデリック薬が、迅速かつ持続的な抗うつ効果を示す可能性があるという証拠をさらに補強するものです。サイケデリック薬の性質上、投与の盲検化は困難であり、観察された治療効果には薬理作用と期待効果の双方が関与している可能性があります。これは薬物試験だけでなく、心理療法や外科手術試験でも見られる一般的な問題です。本試験は規模が小さく、有効性を決定づけるものではありませんが、より大規模な試験を実施する必要性を支持する結果といえます。
SNSを利用する若者は孤独を感じやすい
米国の研究チームは、SNSを利用する若者は孤独を感じる可能性が高いとの報告を行った。研究チームは、120以上の大学から参加した18~24歳の学生6万4,988人の全国調査データを分析した。その結果、学生の54%が孤独を感じていると回答し、週16~20時間SNSを利用する学生は、利用しない学生よりも孤独を感じる確率が19%高かった。週30時間以上利用する最もヘビーなユーザーでは、その確率は38%高かった。研究チームは、SNS利用が孤独を引き起こしているのか、もともと孤独な若者がSNSを多く利用しているのかは明らかではない、としている。
論文リンク https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/07448481.2025.2573108
掲載誌 Journal of American College Health
掲載日時 2/16 14:01
重複した急性ストレス下で、女性がPTSDを発症しやすい理由
米国の研究チームは、複数の急性ストレスが同時に加わった場合に、記憶に関する機能がどう障害されるのかを、性別差の観点から調べた結果を報告した。急性ストレスが重なると、記憶障害やトラウマによるPTSDが発症しやすく、女性でその頻度が高いことが知られているが、そのメカニズムは不明であった。研究者らは、マウスを用いて、海馬におけるエストロゲン(17β-エストラジオール)のレベルと、その受容体タイプ、クロマチンの状態が、性特異的な記憶脆弱性に関与していることを明らかにした。海馬における生理的な高エストロゲンレベルは、急性ストレスによるエピソード記憶の障害やストレス刺激への反応を増大させ、これには性によって異なるエストロゲン受容体(メスではERβ、オスではERα)が関与していた。研究者らは、今回の成果により、エストロゲン受容体を阻害することで記憶障害を防げる可能性が示せたとし、性差を考慮したストレス障害治療の新たな標的となりうる、としている。
論文リンク https://doi.org/10.1016/j.neuron.2025.12.037
掲載誌 Neuron
掲載日 2026年2月3日
学校でのスマホ規制、コストに対しメリットが小さい
英国の中学校におけるスマートフォン使用制限策(特に授業中の利用禁止や制限)に関する研究により、費用対効果や生徒の精神的健康・ウェルビーイングへの影響が評価された。スマートフォン利用の制限と関連する精神的健康・生活の質の指標(例:精神的幸福感、心理的ストレスなど)を測定した上で、費用対効果について分析を行った結果、単純な「禁止」だけではメンタルヘルスに明確なメリットがないと示唆され、スマートフォン規制策の導入には、コストや教育現場の実情と照らした慎重な判断が必要である可能性が示された。この研究は、スマートフォン政策と若者の精神的健康との関連を経済的観点から詳しく分析したものであり、現場の教育政策立案者にとって重要な示唆を与えるものである。
論文リンク https://doi.org/10.1136/bmjment-2025-301892
掲載誌 BMJ Mental Health
掲載日 2026年2月10日
(独)専門家コメント:看護師は医師の業務を引き受けることができるか
研究チームは、82 件のランダム化比較試験(総参加者数 2万8,000 人以上)を分析し、そのうち 70 件をメタ分析で評価した。その結果、調査対象となったタスクについては、特定の医療エンドポイント(死亡率、患者の安全性、生活の質、患者の自己効力感など)において、看護師と医師との間に全体として「ほとんど、あるいはまったく違いがない」ことがわかった。このことは、看護師が医師が行ってきた特定の業務を引き受けることで、医師の負担を軽減し、看護職の魅力を高めることができることを示している。以下はドイツSMCによる専門家コメント。
Prof. Dr. Martina Hasseler:
私は 20 年間にわたり、専門的な看護医療および疾病ケアの付加価値に関する国際的な知見を追跡してきた。20 年以上もの間、私はこれらの知見を次のように要約してきた。適切な環境条件下で実施される専門的な看護医療が、患者に悪影響を及ぼすという証拠はまったく存在しない。それどころか、死亡率や合併症の発生率、そして病院の費用も減少するため、人々に付加価値がもたらされるのだ。」「このレビューの文脈は、次のように解釈できる。明確に定義された能力を持つ、より高度な資格を持つ看護師がケアに関与すればするほど、患者にとって明らかな安全性と質の低下を招くことなく、死亡率、合併症、プロセスをよりよく管理できるということだ。したがって、「何か」が移転できるかどうかという質問よりも、なぜドイツは数十年にわたってこのエビデンスを活用せず、罹患率の増加や人口の高齢化にもかかわらず、看護職の能力を増強するどころかむしろ削減してきたのかという疑問の方がより重要だ。また、このレビューは 2024 年 6 月までのエビデンスを網羅していることも注目に値する。つまり、これは時代遅れの個別研究ではなく、国際的な研究の最新状況について話しているということだ。
Prof. Christiane Knecht, Ph.D:
バトラーらによるコクランレビューは、2024年6月25日までのエビデンスを網羅しており、その意味で非常に最新のものだ。この知見はドイツにとって非常に重要だ。同時に、この研究結果はまったく新しいものではない。
このレビューでは、82 件の研究という膨大なデータ量と、患者関連、医療関連、経済的なアウトカムパラメータを非常に包括的に考察しており、このことは特筆すべき点だ。同時に、自己効力感などの特定のアウトカムパラメータは、測定が難しい概念だ。こうしたパラメータは、結果の解釈を適切に反映するために、さらに質的な評価を行う必要がある。したがって、ドイツへの適用可能性に関する基本的な主張は、慎重に扱う必要があるが、著者チームもこれを強調している。
介護における権限拡大と官僚主義の撤廃に関する法律(BEEP)は、2026年1月から施行されたばかりだ。現時点では、権限拡大によるメリットとデメリットを評価することはできない。この法律の実施は、実際のケアプロセスの文脈で評価されることになるだろう。まず、看護専門家が権限拡大の責任を引き受ける用意があることが必要だ。また、おそらく、職業団体と医療機関の間で、例えば、看護の専門家が処方箋を発行する権限を持った場合、その処方箋が薬局や医療用品店で受け入れられ、それに応じて報酬が支払われる必要があるなど、交渉が必要になるだろう。つまり、法律だけでは、権限拡大は自動的に実現するものではない。」
論文リンク https://www.cochranelibrary.com/cdsr/doi/10.1002/14651858.CD013616.pub2/full
掲載誌 Cochrane Database of Systematic Reviews
