専門家コメント
Global Carbon Project の二酸化炭素排出に関する論文について
・これは、2014年9月22日にジャーナリスト向けに発行したサイエンス・アラートです。
・記事の引用は自由ですが、末尾の注意書きもご覧下さい。
<SMC発サイエンス・アラート>
Global Carbon Projectの二酸化炭素排出に関する論文について
9月22日、Global Carbon Project*より「世界の二酸化炭素排出量と地球温暖化」に関する4本の論文が、Nature Geoscience誌やNature Climate Change誌、Earth System Science Data誌へ掲載されました。化石燃料の燃焼とセメント生産により、世界の二酸化炭素排出量の増加がハイペースで続いていることを裏付ける内容です。今世紀中の気温上昇を2度以内に抑えることが目標ですが、二酸化炭素排出枠を各国に割り当てることで気候を安定させるには限界がきていることも示唆しています。
この報告に対して、国内外の専門家のコメントをお届けします。イギリスの専門家コメントは英国サイエンス・メディア・センターから提供されたものです。翻訳は早さを優先していますので、転載の際には原文を確認ください。なお、今回の4本の論文やその要旨はSMCにお問い合わせいただければ提供することができます。
*Global Carbon Project については、下記のリンクをご参照ください。
http://www.globalcarbonproject.org/global/pdf/GCP.2006.Framework.Japanese.pdf
http://www.cger.nies.go.jp/cgernews/201306/271003.html
http://www.cger.nies.go.jp/cgernews/201112/253003.html
http://www.globalcarbonproject.org
筒井 純一 博士
一般財団法人 電力中央研究所 環境科学研究所 副研究参事
Global Carbon Projectの精緻なデータに裏打ちされた一連の論文は、示唆に富むとともに、CO2等の排出削減の道筋が、極めて複雑で困難な課題であることを実感させてくれます。とりわけ注目されるのは、世界平均の気温上昇と世界全体の累積CO2排出量の関係に基づく、排出削減の技術や割当の議論です。
議論の背景には、2013–14年発表のIPCC第5次評価報告書に明記された、気温上昇と累積CO2排出量の近似的な比例関係があります。この関係によれば、目標とすべき気温上昇の上限を決めると、今後排出し得るCO2排出量(すなわち、化石燃料の使用量)の上限が概ね決まってしまいます。気温目標のレベルは、排出削減のスピードを大きく左右しますが、累積排出量に上限があることに変わりはありません。実際、2℃に対応するには前例のないスピードでゼロ排出に向かう必要がありますが、3℃でも現在の確認埋蔵量に達する前に上限となることが示されています。
排出上限が累積量として決まれば、それを時間と空間(国別)にどう配分するかが問題となり、それぞれ個別の論文で議論されています。前者は将来的な削減技術にどこまで依存し得るか、後者は現在の排出レベルと公平性にどう折り合いをつけるかが主な論点です。もちろん、単純な図式にのらない要素が複雑にからむことも議論されています。
直面している状況は非常に厳しいのですが、長期的な排出削減の方向性について共通認識を持つことが、問題解決に向けた第一歩でしょう。その上で、根拠となる科学的な理解や、適応策も含めた総合的な対策の検討は、発展途上にあることにも注意が必要です。
江守 正多 博士
国立環境研究所 地球環境研究センター 気候変動リスク評価研究室長
世界の温室効果ガス排出量は増加を続けており、このままでは、世界平均気温上昇が「2℃以内」に留まるための排出枠を30年足らずで使い切ってしまうことが改めて示されました。また、「2℃以内」達成のためには「負の排出」*を実現する技術が必要となるでしょうが、そのような技術を大規模に適応すると、食料生産との競合のリスクが生じます。
「2℃以内」は国連気候変動枠組条約の締約国会議(COP)で合意された目標ですが、発表された一連の研究は、世界がどれだけ本気でこの目標を目指す覚悟があるかを改めて問うているといえます。「2℃以内」は極めて厳しい目標といえますが、もしこれを取り下げれば、より大きな悪影響のリスクを受け入れることに加えて、目標がずるずると際限なく後退するリスク、先進国の責任放棄との批判が起こるリスクがあります。この目標の議論は政治的に取り扱いが難しい問題になっています。
「2℃以内」を前提として大幅な排出削減を目指すとしても、社会的には、これを技術のみによって実現するのか、それとも社会経済システム全体の構造の見直しにつなげるのか、といった大きな幅のある考え方が背後に横たわっていることに注意が必要です。「2℃以内」等を前提とした際に試算される有限な排出枠を国家間でどう分配するかはたいへんな難問ですが、同時に、排出枠を世代間で時間方向にどう分配するかという難問があることも忘れてはいけません。
*「負の排出」とは、大気中の二酸化炭素を取り除くこと。Negative Emission の訳語
Prof Dave Reay
Professor of Carbon Management at the University of Edinburgh
もし、これが銀行の声明なら、私たちは預金を使い果たしていることになります。政府による草案や2020年の国際気候変動の合意に向けた彼らの計画のなかで、不気味にのしかかる「carbon crunch」をどのように回避をするかは最重要アジェンダです。
原文コメント
“If this were a bank statement it would say our credit is running out.
“We've already burned through two-thirds of our global carbon allowance and avoiding dangerous climate change now requires some very difficult choices. Not least of these is how a shrinking global carbon allowance can be shared equitably between more than 7 billion people and where the differences between rich and poor are so immense.
“As governments draft and debate their plans for a post-2020 international climate change agreement, how to avoid this looming 'carbon crunch' must be at the top of the agenda.”
Dr Chris Huntingford,
The UK Centre for Ecology and Hydrology
国連は地球温暖化のまとめを本当によくやったと考えます。筆者らは今回2つの明確な声明を出しています。一つは、気候影響のリスクの呼びかけにもかかわらず温室効果ガスの放出がいまだに増えていること。二つ目は、もし、国ごとに割り当てられている排出枠が実行されていたとしても、さらなる論議が必要であるということです。化石燃料の使用状況、国別人口、もしくはいくつかをあわせたもののいずれかで排出量の割り当てを行うべきなのか、議論すべきではないでしょうか。
原文コメント
“Climate research findings are often difficult to interpret, even by other researchers. The United Nations do a good job with their reports summarising information on global warming, but even these run to thousands of pages.
“What the authors of these new papers achieve are two very clear statements. First greenhouse gas emissions are still rising, despite many calls for the opposite to happen in order to lessen the risk of unwelcome climatic impacts. Second, if country-based emission quotas are to ever be implemented, then what constitutes an algorithm to achieve this needs significant debate. Should such quotas be based on existing fossil fuel use, country population levels, or some combination?”
Prof Piers Forster
Professor of Climate Change at the University of Leeds
これらの研究はIPCCの報告書を詳細に論じています。私たちが1兆トンの二酸化炭素を排出して、温暖化の閾値となる「気温2度上昇」を超えるまでには、おおよそ30年しかかからないことを示しています。世界的な温度変化の小休止からのリバウンドがこれに加われば、気温上昇の割合はさらに高まるでしょう。
原文コメント
“These studies refine the IPCC numbers and give us roughly 30 years until we emit the trillionth tonne of carbon dioxide and pass the two degrees of warming threshold.
“Warming is currently around 0.8 C since pre-industrial times. This means that over the next decades the world could be expected to warm by around 0.4 C per decade – twice as fast as anything seen in the historical record.
“Any rebound from the pause in global temperature change would add to this, so the warming rate could be even stronger. On the other hand, if the world doesn't warm as we expect, we climate scientists may have serious egg on our face. I would prefer that to be the case; but I fear the climate scientists may be right.”
記事のご利用にあたって
マスメディア、ウェブを問わず、科学の問題を社会で議論するために継続して
メディアを利用して活動されているジャーナリストの方、本情報をぜひご利用下さい。
「サイエンス・アラート」「ホット・トピック」のコンセプトに関してはコチラをご覧下さい。記事の更新や各種SMCからのお知らせをメール配信しています。
サイエンス・メディア・センターでは、このような情報をメールで直接お送りいたします。ご希望の方は、下記リンクからご登録ください。(登録は手動のため、反映に時間がかかります。また、上記下線条件に鑑み、広義の「ジャーナリスト」と考えられない方は、登録をお断りすることもありますが御了承下さい。ただし、今回の緊急時に際しては、このようにサイトでも全ての情報を公開していきます)【メディア関係者データベースへの登録】 http://smc-japan.org/?page_id=588
記事について
○ 私的/商業利用を問わず、記事の引用(二次利用)は自由です。ただし「ジャーナリストが社会に論を問うための情報ソース」であることを尊重してください(アフィリエイト目的の、記事丸ごとの転載などはお控え下さい)。
○ 二次利用の際にクレジットを入れて頂ける場合(任意)は、下記のいずれかの形式でお願いします:
・一般社団法人サイエンス・メディア・センター ・(社)サイエンス・メディア・センター
・(社)SMC ・SMC-Japan.org○ この情報は適宜訂正・更新を行います。ウェブで情報を掲載・利用する場合は、読者が最新情報を確認できるようにリンクをお願いします。
お問い合わせ先
○この記事についての問い合わせは「御意見・お問い合わせ」のフォーム、あるいは下記連絡先からお寄せ下さい:
一般社団法人 サイエンス・メディア・センター(日本) Tel/Fax: 03-3202-2514