201141
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放射線による内部被ばくについて:津田敏秀・岡山大教授

Ver.1.3 (110321-13:22, Updated:110401-18:45)

この記事はジャーナリスト向けのフリーソースです。東北関東大震災に際し、一般にも公開しています。

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※あくまでコメント時の状況に基づいています。ご注意下さい。

 

津田敏秀(つだ・としひで)教授

岡山大学大学院 環境学研究科(疫学、環境疫学、臨床疫学等)
 
※津田教授は、お忙しい中で沢山の解説を書いて下さいました。全てを一度に掲載すると長くなりますので、前提となる議論部分をは下記に公開しました。先にこちらをお読み頂くことをお勧めします:
※なお、津田先生も急ぎ書き上げて下さったため、ご本人の推敲の結果、この稿は後ほど再度編集する可能性もございます。御了承下さい。

 

Q. 「内部被ばく」とは何ですか?

  被爆には外部被曝と内部被曝の2種類があります。外部被曝は放射線源(放射性物質)が体の外にある時で、代表例は医学診断の際のレントゲン検査です。内部被曝は、何らかの理由で放射線源が体内に取り込まれた時に起こるものです。環境汚染物質の体内への取り込みは、主に口から食べ物と入る(「経口曝露」と言います)、口・鼻から吸い込む(「経気道曝露」と言います)、皮膚から入る(「経皮曝露」と言います)に分類できます。ただし皮膚からの取り込みは正常な粘膜からでも生じえるとは思いますが、皮膚粘膜が傷ついている場合に大きくなります。経口曝露と経気道曝露は、通常の日常生活で起こります。経気道曝露は保護具を付けるとか部屋に出来るだけこもるとかの方法もありますが逃げないとなかなか防げません。しかし経口曝露は食品衛生法によりある程度守られ、情報が入れば口に入れないことも出来ます。

 体内に入った放射性物質は、化学的性質により、体内の特定の組織に結合することがあり、局所的に被曝量が大きくなります。代表例は、放射性のヨウ素131が甲状腺に取り込まれることです。

 放射性物質が空から振ってきそうな時、花粉症対策のように部屋に入る前に払い落とすと言われているのは、外部被曝を少なくする以外に、外部被曝が内部被曝に転じるのをできるだけ防ぐという意味もあります。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A2%AB%E6%9B%9D

 上記、Wikipediaは良く書かれていると思います(SMC注:2011年3月20日時点。Wikipediaは随時変更される可能性があるので注意)。電離放射線障害防止規則で定められた値(曝露時間も考慮してくれています)も書き込まれています(テレビなどではこの重要な規則がほとんど出てこず、CTスキャン1回分胃の透視1回分とか胸のレントゲン写真1回分というようなものばかりです。医療での被爆は国際放射線防護委員会ICRPの勧告でも別扱いであり比較の対照としてあまり持ってくるべきではないでしょう)。ただ、電離放射線障害防止規則は労働者向けですので、これを一般人口に適用するのは高すぎるという批判があるかも知れません。ICRPの勧告の方は、労働者(職業性曝露)だけでなく一般公衆に対しても書かれています。また、電離放射線作業をする労働者は、内部被曝よりも外部被曝が主だと思いますが、原発事故の場合は内部被爆の方が問題となりますので、その点でも批判が来るかも知れません。

電離放射線障害防止規則 http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S47/S47F04101000041.html

 (特に、第四条から第六条、「放射線業務従事者の被ばく限度」を参照)

 

Q. いま「ただちに影響がない」とされている放射線量でも、放出された放射性物質で汚染された水や食べ物を摂取したら、内部被ばくするのではないかと思います。大丈夫なのでしょうか?

 はい、内部被曝します。しかし、内部被曝により影響があるかどうか(大丈夫かどうか)は、放射性物質の量だけでなく、放射性物質の種類(種類によって半減期が違います)、同じように放射性物質の化学的な性質にも影響されます。あるいは取り込まれた場所の放射線への感受性(放射線から受ける影響の大きさ)によると思います。人体の中で一番早く影響が出そうなのは、甲状腺と思われます。特に若年層に影響が出ます。

 

Q. 報道されているのは放射線量ばかりです。しかし例え放射線量は低くても、少量でも放射性物質を吸い込めば、内部被ばくしてしまうのではないでしょうか?

 はいそうです。内部被曝します。後は、上記の質問と同じです。放射性物質の種類の情報が流れていませんね。測定されているはずですので、この放射性物質別の情報が欲しいですね。

 

Q. 福島では連日150 μSv/hなどという数字が報道されています。これですと、数時間で一般人の年間許容量とされている1mSvを超えてしまうのではないでしょうか。たとえばこの数値は、がんなどのリスクをどの程度高めるのでしょうか。

 150μSvは0.15mSvですね。従って、150μSv が24時間続き、これが1年間続いたとして、屋外にいてフルに被爆したと仮定して、年間1.314Svの被爆です。そしてICRP2007年勧告で計算することができます。0.15×24×365×0.055(/Sv)÷1000=0.072です。7.2%程度だけリスクの増加があることになります。しかし、150μSvはその日の最高値のはずで、スパイク状に高まった値と思います。そうすると150μSv が24時間続くという仮定は相当高めということになります。要するに、これまでの被曝量の累積量(積分値)を示してもらう必要があります。

 ただ、もし150μSv が24時間続き、これが14日(2週間)続くだけでも、50.4mSvとなり、労働安全衛生法電離放射線障害防止規則で定めた基準である年間50mSvを超えてしまいます。また妊娠可能な女性労働者の3ヶ月5mSvも超えます(妊婦にはもっと厳しい)。ましてやICRP2007に定められた公衆被爆年間1mSvは軽く超えてしまいます。今回の状況は即座には解決しそうになく、状況により余裕はそれほどないと思います。

 

Q. 内部被ばくすると、がんなどの病気になる確率はどのようなものでしょうか?これまでの疫学研究の成果を教えて下さい。

 私が多発性骨髄腫で調べた時には内部被曝と思われる研究論文もありました。ICRP2007年のデータでも、多くは外部被曝の健康影響での話です。内部被曝は放射線労働者の場合など普通はあまりしません。ただ放射線労働者の場合でも、人のデータでは外部被曝と内部被曝を厳密に分けるのは難しいと思います(JCOの事故などでは外部被曝のみと言えるでしょうが)。

 内部被曝が多くなるのはチェルノブイリ事故(要するに原発事故)や昔の医療被曝などのデータなどがあります。海外の住宅では、住宅に使われている土から発生するラドンによる内部被曝が問題となっています。日本の原爆でも内部被曝はあったと思います。内部被曝の時に、外部被曝のデータからどのように換算するか、あるいはどう考えるのかについて私は詳しくは知りません。ただ、内部被曝の方が影響を大きく考えるようですし、半減期が日単位と短くてもヨウ素131のようにベータ線の放出が多いと影響は大きいようです。

ところで、理論的にはじき出された確率が、そのまま発生するかどうかは別問題です。誤差が入ります。また、その発生したがんが実際に観察可能かどうかはまた別問題です。少ないと観察可能ではありません。さらにまた観察可能ながんの多発があっても、日本政府や地方行政や日本の研究者がこの多発を観察しようとするのかどうかというのも別の問題です。観察可能でも、適切な方法で観察しようとしなければ観察できません。これまで様々な発がん問題で、日本政府(政治家はしようと思っても官僚の方はしようとしません)は決して観察しようとしませんでした。原爆問題で観察されているのはアメリカ政府が放射線影響研究所というのを作ったからです。観察しようとしないのは、観察する方法が分からないのか、観察したくないのか、単に仕事が増えるのがいやなのか、いずれかは分かりません。法律は、食中毒事件は調査が義務づけられていますが(食品衛生法)、この場合は、義務づけられていませんので行政がイヤだと言えば、調査されません。いわゆる法の穴ですね。

 

Q. このままの状態が続けば、あるいはさらに状況が悪くなれば、将来、関東一円ではがんになる人が増えるなどの長期的な影響が予想されますが、そうした人々の健康を国が補償していくことはできるのでしょうか?(がんになっても、因果関係が認められないのではないでしょうか)

 どの程度発症するかは放射線量によります。観察可能な線量になるかどうか(わずかな量では影響は測れません)、あるいは観察しようとするかどうかです。以上の条件が全てクリアーされた時にようやく因果関係が推定可能になります。このような、国が実際観察をしようとする(できる)レベルというは相当な被曝量です。例えば100 mSv以上の単位で相当数の方が被爆するような状況でしょう。そんなときには中心地では急性障害で亡くなる人も出ているでしょう。ただ、これまで国は実際に観察が行われた多くの事例(例えば尼崎のアスベスト)で、推定可能ではっきりと因果関係が認められる場合でも因果関係を認めません。このようなことを踏まえて、因果関係が認められて補償問題を議論できるようになると思われますか?

 上記の幾つかの条件はどう見てもクリアーしなさそうですので、人々の健康を国が補償するという話には至らないでしょう。

 

原子力損害賠償制度について:3月23日追記(4月1日加筆)

 というふうに当初は書きましたが、原子力は「原子力損害賠償制度」というものがあり、事情が異なるようです。法律は知っておくべきですね。法律に関して私は門外漢ですので、以下の法律とその後の文章をご参照ください。関西労働者安全センターの西野方庸(まさのぶ)さんからの情報です。

外部リンク:原子力損害の賠償に関する法律

外部リンク:原子力損害賠償補償契約に関する法律

 平成3年発行の「原子力損害賠償制度」(通商産業研究社発行)の逐条解説によれば、「・・・賠償措置額を超える原子力損害が我が国で発生することは極めて考え難いが、本条は、万一の場合への備えとしての政府の援助措置を規定するものである。」となっていて、「損害が賠償措置額を超え、かつ、法律の目的の達成のために必要と認められるときは、必ず援助を行うものとする趣旨である。」としています。また立法時の審議で、当時の池田正之輔科学技術庁長官が「政府の援助は、この法律の目的、すなわち、被害者の保護を図り、また、原子力事業者の健全な発達に資するために必要な場合には必ず行なうものとする趣旨であります。従って、一人の被害者も泣き寝入りさせることたく、また、原子力事業者の経営を脅かさないというのが、この立法の趣旨」であることを述べたことを引用しているそうです。

 住民や事業者はもちろん、直接事故対策に奔走している電力会社社員、協力会社社員、自衛隊、消防、警察などの職員が被ばくをしたことにより、後日発症する放射線障害です。もちろん労災保険や公務災害で補償されることになりますが、当然民事上請求することができる損害が発生します。これらも請求できる損害だそうです。しかも、原子力損害賠償制度の特徴は、①無過失責任、②原子力事業者への責任の集中、③無限責任、だそうです。従いまして、損害賠償請求をする際に、他の公害、薬害のように過失のある相手先を探して、その過失を立証する必要はありません。その損害が原子力損害であることを明らかにし、その損害額を証明して原子力事業者に全額を請求すればいいことになるそうです。

4月1日追記

 今日の新聞でも「東北の観光産業大打撃・ツアー予約3月7割減」と報じられていましたが、この大打撃が「福島原発で起こっている事態とは全く関係無い」と言える人はいないでしょう。その一方で、これが「全部原発のせいだ」とも言えないでしょう。健康影響が生じる段階でも同様の問題が生じるかも知れません。

 この法律はこのあたりの細部にまで決められていないようなのです。食品衛生法のように調査方法まで法の下に決められているのとは異なるようです。①無過失責任、②原子力事業者への責任の集中、③無限責任、に基づいていても(というより、それだからこそ)、実際の運用上は様々な問題が生じてくると思います。このあたりは機会があれば書くと思いますが、書けるとしても、まだまだ先のことだと思います。

 今日、ある新聞社の記者さんから取材を受けた時にも、この件が話題にのぼりましたのでご報告申し上げます。

 

 

スウェーデン・スペース物理研究所・山内先生提案の個人対策について

【以下は3月22日追記】

 現在、ネットでも話題になっているようですが、スウェーデン国立スペース物理研究所の山内正敏先生が、「放射能漏れに対する個人対策」と題して、以下のURLに判断の目安を分かりやすく示しておられます。改訂もこまめに行われているようです。

http://www.irf.se/~yamau/jpn/1103-radiation.html

 私は、放射線被曝によるがんの影響の程度を自分で電卓に計算するために、曝露の指標としての各地の放射能レベルの観察値に関しては積分値が必要と、前提の議論とここで求めておりました。この煩雑さを、山内先生はすぱっと整理して、赤信号・黄信号として分かりやすく示しておられます。個人対策として非常に役に立つと思いますので、上記リンクをご覧になって是非参考にしてください。

 要約しますと、測定から避難まで半日かかると見積もり、状況が刻々と悪化する時:

(1) 居住地近くで1000マイクロSv/時(=1ミリSv/時)に達したら、緊急脱出しなければならない= 赤信号。

(2) 居住地近くで100マイクロSv/時(=0.1ミリSv/時)に達したら、脱出の準備を始めた方が良い= 黄信号。

(3) 妊娠初期(妊娠かどうか分からない人を含めて)の場合、居住地近くで300マイクロSv/時(=0.3ミリSv/時)に達したら、緊急脱出しなければならない= 赤信号。

(4) 妊娠初期(妊娠かどうか分からない人を含めて)の場合、居住地近くで30マイクロSv/時(=0.03ミリSv/時)に達したら、脱出の準備を始めた方が良い= 黄信号。

(2)や(4)の1割以下(居住地近くでの値が、普通の人で10マイクロSv/時、妊娠初期の人で3マイクロSv/時)なら安心して良い

 さらに、居住地近くでの測定値がないときに、原発から風下にいる住民(地表風向きに対して上から見て時計回り90度、反時計回り30度の扇形の範囲内の住民)が、原発での測定値に基づいて判断する目安も書いてありますので、参考にしてください。

 

3月29日・追記の追記

 山内先生の上記の目安は、放射性物質の放出が長引けば長引くほど、修正してながめる必要が出てきます。つまり、時間の要素を整理して分かりやすくしてあるため、時間が経てば状況に適合しにくくなります。

 この点は、原発からの放射性物質の放出が今後も長引くことが予想されている現状では、ある程度、仕方がないこととも思われます。この成り立ちにくさは、避難指示地域に近ければ近いほど明瞭になってくるようです。

 成り立ちにくそうな場合は、やはり被曝量の時間に関する積分値からがんなどの影響を求めるという、少しだけ面倒な計算が必要と思われます。

 福島原子力発電所の問題の終息のめどが立たず、放射能の放出が今後も長期間続くことを考慮して、避難指示地域及びその周辺の住民の方々のために、山内先生にもこの点に関してHPにてご検討を賜ればと存じます。

 なお、以上は、福島県・茨城県に親戚をもつ柳原敏夫さんのご指摘で気づきました。ありがとうございました。以下は、柳原さんが立ち上げたHPです。この点に関しても触れておられます。ご参照ください。

市民の、市民による、市民のための原発事故対策 http://1am.sakura.ne.jp/DEW/Fukushima/info1.htm

 

 

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