2011611
各専門家のコメントは、その時点の情報に基づいています。
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専門家コメント

放射線被ばくによって生じうる「遺伝子指紋」とその利用可能性について

Ver.1.2 (120716-18:00)

・これは、2011/5/22, 6/8にジャーナリスト向けに発行したサイエンス・アラートです。

・記事の引用は自由ですが、末尾の注意書きもご覧下さい。

・このサイエンス・アラートは豪日交流基金(Australia-Japan Foundation)からの支援をいただき、作成されたものです。

<SMC発サイエンス・アラート>

放射線被ばくによって生じうる「遺伝子指紋」とその利用可能性について:専門家コメント

ドイツ・HZM研究センターのホルスト・ジゼルスベルガー教授とインペリアル・カレッジ・ロンドンのクリスチャン・ウンガー博士らのグループは、チェルノブイリ原子炉爆発による放射性ヨウ素降下物に被曝した子どもの甲状腺がんの研究を通じ、放射線被ばくした子どもに特有の「遺伝子指紋」ができている可能性を示す研究成果を発表しました。 この論文に関し、専門家のコメントをお送りします。

原著論文

Julia Heßa, Gerry Thomasb, Herbert Braselmanna, et. al. "Gain of chromosome band 7q11 in papillary thyroid carcinomas of young patients is associated with exposure to low-dose irradiation" PNAS May 23, 2011 http://www.pnas.org/content/early/2011/05/18/1017137108.abstract

 

杉谷巌(すぎたに・いわお)副部長

がん研有明病院 頭頸科

 これはまだ正式の論文ではなく(注)、研究の具体的な詳細がわかりませんが、興味深い話です。また、今回の福島の事故と結びつけて考えるより、むしろ、放射線をつかったがん治療後の「二次発がん」の病因研究に貢献する研究ではないでしょうか。

 舌がんや喉頭がんでは、治療に放射線照射を行うことがあります。比較的若い方の治療で、もとのがんが治って20年、30年後に、新しくがんができた場合、これが放射線治療の影響によるものか、それとも他の要因での発がんしたのか、この研究が進むことで見分けられるようになるかもしれません。

 また小児の甲状腺がんでは、肺転移がある場合など、手術の後に追加治療として放射性ヨウ素を大量に投与することがあります。疫学的には、この治療による二次発がんのリスクはほとんどないということになっていますが、放射線を原因とする発がんの証拠が染色体上に検出できるようになれば、こういった治療のリスクが明らかになるでしょう。

SMC注:コメント依頼時。現在はフルペーパーが上記リンクから入手できます。追加コメントを各所に依頼中。コメント頂ける研究者の方の御連絡もお待ちしております。

プラディップ・デブ博士(Dr. Pradib Deb)

講師、豪州ロイヤルメルボルン工科大学(RMIT University)医学部医学放射線研究
Senior Lecturer in Medical Radiations at the School of Medicals Sciences,
RMIT University

 遺伝子マーカーは数多く存在しますが、まだまだ研究途上です。

 科学者たちは実験が終わっても、その結果が確実だと言えるまで待つ必要があります。チェルノブイリ事故は1986年に起こりましたが、現在でも、チェルノブイリ事故の被爆者とがん患者の研究が続いています。被爆と発がんは直線的な相関関係にはなっていません。

【コメント原文】

 There are a lot of gene markers, but it's still in the laboratory phase.

 (Researchers) have done the experiment, but they have to wait until they've followed up (on patients). Chernobyl was in 1986, and now they're following up on cancer cases from then. It's not a linear relationship.

 

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