2011119
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専門家コメント

亜鉛欠乏と児童の自閉症スペクトラム障害の関連について

Ver.1.1 (111109-15:00)

・これは、2011年11月4日にジャーナリスト向けに発行したサイエンス・アラートです。

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<SMC発サイエンス・アラート>

亜鉛欠乏と児童の自閉症スペクトラム障害の関連について:専門家コメント

 11月3日に英国科学専門誌「Scientific Reports」で発表された論文、「亜鉛欠乏は児童の自閉症スペクトラム障害と関連している可能性があると予備的研究で見つかった」という研究結果について、専門家のコメントをお伝えします。

原著論文:Hiroshi Yasuda, Kazuya Yoshida, Yuichi Yasuda, and Toyoharu Tsutsui. "Infantile zinc deficiency: Association with autism spectrum disorders" Scientific Reports, November 03, 2011 【リンク】

山末 英典(やますえ ひでのり)

准教授、東京大学医学部附属病院精神神経科

 本研究では、2000名近くの自閉症スペクトラム障害と診断された児童で、血液中よりも安定と考えられている毛髪中の亜鉛を測定し、自閉症スペクトラム障害児では亜鉛欠乏状態がより高頻度に認められることを見出している。そして、欠乏している亜鉛を投与によって補うことにより、自閉症スペクトラム障害の治療的効果が期待される可能性を示唆している。これらの点から、本報告は、大変興味深い点を含んでいる。

 しかし、本研究は横断的な検討であるため、亜鉛低値が自閉症スペクトラム障害の原因なのか結果なのかが不明で、今後、新生児コホートの様な縦断研究によるこの点の検証が必要になる。また、診断が困難とされる2歳未満の症例も含みながら診断の基準や方法を統制していない本研究結果が国際的に妥当なものとして受け入れられる為には、臨床家が行った診断について、国際的に妥当とされる基準と方法を用いて確認することが必要であると思われる。

 

ドロシー・ビシップ (Dorothy Bishop)

英国・オクスフォード大学 発達神経心理学教授

 今回の研究の問題点の一つは、自閉症の子どものみの亜鉛の含量を測っており、子ども全般については、すでに存在するデータを基に亜鉛の含量を計算していることです。この結果の信頼性を高めるには、自閉症の子どもの髪の毛内に含まれている亜鉛の含量を、年齢や育った環境を一致させた対照群の子ども達の含量と比べることが必要です。そしてその計測も、研究者自身にもどちらの毛髪が自閉症の子どものグループでどちらが対照群であるか分からない状態(二重盲検法)で行う必要があるでしょう。

 さらに将来的に、もし毛髪の亜鉛含有量に違いがあることが確かめられても、これが自閉症の原因なのか、それとも自閉症の影響による食生活の異常の結果の一つなのかは確実に言えません。自閉症の子どもは限られたものしか食べないケースが多く、食べものではないものを口に入れてしまう子供もいます。

 

【コメント原文】

 This study is problematic because the researchers assessed zinc levels only in an autistic group, relying on existing datasets to provide the data on expected normal ranges for zinc in children. To be convincing they should have compared zinc levels in hair of children with autism with levels for a control group matched in age and environmental background, with the measures being made by researchers who were unaware of the child's group. Furthermore, if zinc deficiency is confirmed in future research, then it remains unclear whether this is a cause of autism, or rather reflective of dietary abnormalities. Many children with autism will eat only a restricted range of foods, and some have a habit of chewing inedible objects.

 

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