2012218
各専門家のコメントは、その時点の情報に基づいています。
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海外専門家コメント

ハエトリグモの世界の見え方

 

Ver.1.0 (120717-11:30)

・これは、2012年2月1日にジャーナリスト向けに発行したサイエンス・アラートです。

・記事の引用は自由ですが、末尾の注意書きもご覧下さい。

・このサイエンス・アラートは豪日交流基金(Australia-Japan Foundation)からの支援をいただき、作成されたものです。

<SMC発サイエンス・アラート>

ハエトリグモの世界の見え方:専門家コメント

 ハエトリグモは獲物を捕らえるためには興味深い奥行きの知覚を持っていることを大阪市立大学の研究チームが発表しました。人間を含めて多くの生き物は両目の水晶体の焦点距離を調整しながら、または頭を横に動かしながら奥行きを判断しました。今回、ハエトリグモは焦点外画像を焦点画像と比べることで距離が測れることがわかりました。

※いつもの通り、正確さよりも早さを優先して翻訳しております。原文を添付致しましたので、必要であれば訳し直してご利用下さい。

原著論文:
Nagata, T., Koyanagi, M., Tsukamoto, H., Saeki, S., Isono, K., Shichida, Y., Tokunaga, F., Kinoshita, M., Arikawa, K., Terakita, A. (2012). Depth Perception from Image Defocus in a Jumping Spider. Science, 335, 469 – 471.【リンク

 

マリー・ハーバースタイン助教授(Associate Professor Marie Herberstein)

オーストラリア・マッコーリー大学
Macquarie University in Australia

 蜘蛛には世界をどのように見えるのでしょう?私たちは単純に動物は私たちと同じように物が見えると考えてしまいますが、動物の目は人間と際立って異なることが多いのです。

 たとえばハエトリグモの眼には、私達のようにひとつの網膜ではなく四つの異なる網膜があり、そのひとつひとつが光の異なる色彩に感応します。

 日本の研究者チームが、なぜハエトリグモにはそのように複雑な眼が必要なのかを調査しました。研究によると、ハエトリグモは新奇な方法で深さを感知します。その名の示すごとく優れた跳躍能力を持ち、3次元空間を判断することが必要なのです。四つの網膜のひとつはこの3次元空間の情報を供給します。ぼやけた画像しか受信せず、感応するのは緑の光だけです。ぼやけた画像は、網膜自体に焦点が合っておらず、人間でいえば、そのような状態は近視あるいは遠視といえます。

 永田教授らは、最先端の技術を駆使し、いかに蜘蛛の眼の四つの網膜が機能するかを表現することに成功しました。緑のチャンネルを通して受けたぼやけた画像の量が、距離を判定するのに極めて重要だということを確かめました。蜘蛛が緑の光がない状態で獲物を捕らえようとしても、その跳躍はたちまち確実性に欠けてしまいます。

 この研究は、他のいくつかの異なる研究調査とうまく相まって、動物が世界をどのように視ているのかについての理解を助けてくれます。

【コメント原文】

 How do spiders see the world? It’s easy to assume that animals see the world just like we do, but non-human eyes are often very different. Jumping spider eyes, for example do not just have a retina like we do, but four different ones, each sensitive to a different colour of light. Why do they need such complexity – a team of Japanese researchers investigated this curious phenomenon and discovered a novel way of depth perception in jumping spiders. Jumping spiders, as the name suggests are excellent jumpers and require a mechanism to judge 3 dimensional space. One of the 4 retinas is dedicated to provide this information, by receiving a fuzzy image (an image that is not focused on the retina itself – in humans this condition results in short or long sightedness). This fuzzy retina is sensitive to green light only. Using state of the art molecular and physiological methodology, Nagata and colleagues described in great detail how the four retinas of the spider’s eye works.

They needed behavioural experiments to confirm that the amount of fuzzy image (via the green channel) is crucial for judging distance. When spiders were asked to jump onto prey in the absence of green light, they were suddenly unable to make correct jumps.

This study elegantly combines several different research approaches in a comprehensive way to help us understand how animals perceive the world.

ダレル・ケンプ博士(Dr Darrell Kemp)

オーストラリアのマッコーリー大学とジェームス・クック大学に在籍
Macquarie University and James Cook University in Australia

 動物が世界をどう見ているかを理解することは、技術や医学の分野を促進し、私たちは進化の複雑さについて教えられます。

 視覚の中でも、奥行きの知覚、私たちがいかに距離を視覚で捕らえるかは興味深いものです。人間は、主として、眼が頭部の前方あることで奥行き判断しています。両目で捕らえる画像がオーバーラップし、そこで奥行きを判断することができるのです。昆虫や蜘蛛などの生物は、違った方法を使います。たとえば、頭部の細かい動きによって微妙に異なる画像を伝え、奥行きを捉えたりします。

 奥行きは、獲物がどれくらい遠くにいるかを推し量るために、獲物を追う動物にとって重要です。日本の研究者チームは、ハエトリグモが、焦点を合わせた画像とぼやけた画像とを比較して奥行きを判断することを示しました。これは珍しいやり方であり、蜘蛛では、これまで発見されていませんでした。

 ぼやけた画像は緑の光を照準にしてだけ使えることを発表しました。

 これは、採光が緑がかった森林、あるいは、緑の葉で覆い茂った森林で、蜘蛛が獲物を取る手助けになります。これにより、将来、非常に面白い研究への道が開けました。

【コメント原文】

  Understanding how animals see the world has inspired advances in technology and medicine, and taught us much about the evolution of complexity.

One interesting aspect of vision is depth perception – the means by which depth (= distance) is judged in the visual field. Humans achieve this largely through having our eyes positioned frontally, which gives a large region of binocular overlap needed for depth perception through stereopsis. Creatures such as insects and spiders use different techniques, some involving small head movements that yield ever-so-slightly offset views in the way that our slightly offset eyes do.

Recently, a team of Japanese researchers have shown that jumping spiders perceive depth using image de-focus, a rare phenomenon not previously known for arachnids. Depth – which for these active hunters is crucial in estimating the distance to prey – is judged by comparing focussed images against de-focussed ones, with each formed at a different vertical position within their uniquely ‘staircase-like’ retina.

Using a combination molecular biology, morphology and behavioural experimentation, the authors show how image de-focus is used by these spiders only with reference to green coloured light. This colour-specificity results from the optical mechanisms at play within the tiny facets of the spider’s compound eye.

Ecologically, it may work to enhance prey capture under the predominantly greenish light of forests, or against green leafy backgrounds, which suggests exciting opportunities for future behavioural experimentation.

 

 

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