201239
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専門家コメント

1年が経った福島第一原発の現在の状況について

Ver.1.1 (120306-16:00)

・これは、2012年3月6日にジャーナリスト向けに発行したサイエンス・アラートです。

・記事の引用は自由ですが、末尾の注意書きもご覧下さい。

<SMC発サイエンス・アラート>

1年経った福島第一原発の現在の状況について:専門家コメント

福島第一原発の事故からまもなく1年が経とうとしています。

現在、および今後の課題について、専門家にコメントを頂きました。

 

鈴木 達治郎
(すずき・たつじろう)

内閣府 原子力委員会 委員長代理

「 現状、福島第一原発は非常に安定してきているのは間違いありません。ただ、炉心の状況はわからないし、原子炉内のことはまだわからないことがたくさんあります。完全収束には時間がかかります。

 個人的な見解ですが、今後の見通しとして、短期的に心配しているのは、放射性物質が大量に空気中に放出されることより、大量に発生している汚染水の扱いです。処理をしているが減っていません。これに現場は苦労しています。海への流入については、すでに流れてしまったこともあり、フェンスを作ろうとしていますが時間がかかります。発電所の地下には地下水が流れているので、地下へしみ込むのも警戒しなくてはなりません。汚染水は、最後は高レベル放射生廃棄物として廃液処理しなくてはいけません。

 長期的には、先日建屋内にロボットが入りましたが、核燃料の搬出措置に向けた作業を積み重ねていかなければいけません。原子力委員会の専門家の知見では、福島第一原発の完全な撤去には30年はかかるといいます。これまで経験したことのない課題がたくさんあり、解決には原子力の専門家だけでなく、世界の知恵を結集しなくてはいけません。その体制が整うように、政府としては取り組んでいます。

 原発敷地の外の話をしますと、汚染が広がり、国民のみなさんが不安に思う状況になってしまったことに、政府も電力会社も深い責任と反省を感じる必要があると考えています。私は、敷地外の汚染は、結果的に国民の健康に影響が出るようなものではないと思っています。しかし、全国のみなさんを不安に陥はれてしまったことは、大変申し訳ないことです。

 避難された原発周辺の住民の皆さんは、未だに帰れません。影響がでるかどうか以前に、既に生活を奪われてしまった人がいることや、お子さんや妊婦の方に与えた心理的なストレスを与えたことを、重く受け止め、反省しなければなりません。

 今、政府は、除染を一生懸命やっています。まずは、モニタリングの正確な情報を提供することが大事です。未だに政府の数値を信じてもらえていません。政府は努力をしていますが、そのやり方に問題があるのでしょう。伝え方が悪かったり、効率が悪かったり、プロセスのデザインが下手で、住民の方々が安心できるようになっていません。ICRPも言っていますが、住民の方々と一緒になって意思決定をしなくてはいけないのに、科学者だけで決めて説明しにいっているというようなことがまだあります。決め方が納得できるようになっていないことが、不信感に繋がっています。これは、変えていかねばなりません。

 除染については、年間の外部被ばくを20mSv以下にするという数値目標を作っています。外部被ばくが20mSvより高い所は、人が住まない。それ以下なら帰ってきていい、ということにしています。ですので、短期的には、まず住んでいる人がいる1~20mSvになる所から除染で下げていき、住民が住めるようにすることが大事です。現在、除染のための実証が終わっています。4月から本格的にやります。除染は、ホットスポット(局所的に放射線量が高い地域)が入り乱れていること、農業の方々が要求する汚染度と普通の人が要求する汚染度は違うことなど、難しい課題があります。本来なら除染の前に住民の方と一緒になってモニタリングが必要ですが、できていません。また、現状はモニタリングのメッシュが大きすぎ、できれば100メートル×100メートルでやりたいのですが、人手が足りず、これもできていません。いろんな人の協力をいただき、うまいやり方を考えていきたいです。

 長期的には、なるべく早い時期に、帰れる所と帰れない所をはっきりしなくてはいけませんが、これは政治決定をしなくてはいけない課題です。それに対して、科学者が「除染ができる」という言い方をすると、住民の皆さんは期待をしますが、専門家の判断で帰れない所はきちんと決めなくてはなりません。

 このように、放射能汚染は科学技術の問題でありながら、我々が体験したことがないような生々しい社会の意思決定に直面しています。いろんな手法があるでしょう。科学技術だけでなく様々な分野の方のご協力を得て、決めていく必要があります。

 この他、福島第一以外の既存の原子力発電所についても、安全問題に国民のみなさんの不信感があります。安全基準を超えた津波や地震が起きたので、今度はそれに耐えられる新しい目標を規制当局が作って、それを満たした原発を動かすのが望ましいのですが、短期間に新しい安全基準を作るのが難しいので、ストレステストを実施しています。わかりやすい最稼働の条件がまだ示されていないような気がします。エネルギー需給の観点から必要なのではなく、新しい規制庁ができれば、そこが現在停止している原発の再稼働の基準を明確にして、住民の方が納得がいくように説明し、動かせるように最善を尽くすしかないと思います。」

 

【これからの日本のエネルギー政策は】

「 エネルギー政策の方は、短期的なこの夏の受給対策をやらなければならないので、今、データを集めているところです。原子力による発電がゼロという状況も含めて検討中です。

 長期的には原発への依存を下げていくことだけが決まっていて、将来のエネルギー・ミックスの議論は混沌としています。政府として約束したのはこの春までに選択肢を示し、夏に国民的議論をして決めるということです。国民的議論も、これまでやったことがないことなので、政府だけではなく国民全員、あるはいろんな分野の専門家の方々の協力が必要です。どういう形にすれば、「議論をして決めた」と皆さんが納得できるか、プロセスを早急に検討しなければいけない。

 科学技術の専門家というのは、私も含めて、「誰が計算しても同じ結果にならないと、科学とはいえない。なんで国民の議論がいるの?」と考えてしまいがちです。しかし、今回話し合うエネルギー政策は、社会のあり方や価値観と大きく関わってくるので、いわゆる科学技術の意思決定ではありません。数値で割り切れば、エネルギー・ミックスの比率も、原発は何%というように単純に出てくるかもしれませんが、それは、国民的議論をして社会の意思決定をする選択肢にはならないような気がします。

 社会としてどういう基準でエネルギーミックスを決めるのか、ある意味哲学が形成されなくてはいけません。政府の委員会の議論とは別に、あちこちでディベートをやっていただき、政府にぶつけるということをしていただくのがいいと考えています。」

 

小出 裕章 助教
(こいで・ひろあき)

京都大学原子炉実験所

【事故から1年経ってわかってきたこと】

「 何もわからないということがわかってきた。今事故を起こしているのが、火力発電所であれば、現場に行って目でみて触ってみることもできる。しかし、原子力発電所の事故では、放射性物質があるので、それができない。これまで原子力発電を推進してきた方々は、「想定外」のことが起きたというが、想定されていなかったがために、どういう事故が起きているか調べるための測定器すら設置されていない。まがりなりにも設置されていた測定機器さえ、壊れてしまっている。核燃料、溶けた炉心がどこにあるか知ることが一番大切だが、それがわからない状態である。」

【今後の見通し】

「 発電所の敷地の中でいうなら、炉心が汚染をどこまで広げるかが問題で、汚染を広げないためにどういう対策がとれるかが重要だ。溶けた炉心が地下にめり込んでいってしまい地下水と接触すると、放射性物質が環境中に拡散されてしまうので、接触する前にバリアーを張って接触しないようにすることが大切だ。

 もう一つの問題は、プールの中に入っている使用済みの核燃料だ。4号機は大きな損傷を受けている。このプールがこれ以上壊れないようにしなければ、いけないが、余震が頻繁におきているし、放射線量も高く、これが難しい。大きな余震が起きて、プールが破損するようなことがあれば、一切防壁のない状態で使用済み核燃料が環境中に出てしまう。既に作業員が入って瓦礫の片付けをはじめていて、TEPCOもこの問題を最優先に考えているだろう。」

 

澤田 哲生 助教
(さわだ・てつお)

東京工業大学 原子炉工学研究所 エネルギー工学部門

「 事故後1週間に様々な事象が起こりました。その後と現在とではシステムの方はほぼ予想通りの展開でしょうか。まず炉心の状況では1号炉から3号炉までは炉心の燃料が損傷し、かなりの割合が溶けてしまっています。その炉心燃料がどの程度の割合で損傷し炉内で分布しているかは、精確にはわからない状態です。燃料の一部が格納容器外に出ている可能性とどの程度の量が溶け出ているかという点も含めて、事故から数日後に東電が報告している状況から格段の変化は確認できていないと考えています。それは例えば1号機でいえば、炉心燃料の溶融割合が7割なのか10割なのかといった程度です。

 地域の放射性物質による汚染と除染の問題は予想以上に深刻です。3月下旬には飯舘村を始めとした地域に放射性物質が飛散している状況が確認されており、排出された放射性物質の量と飛散した地域分布は大きく変化していません。事故直後に環境への大きな放散は終わっています。問題は、排出されてしまったものにどのように対処するのかということです。南相馬や飯舘村で観測されている空間線量がなかなか落ちきらない。その状況をどう理解して対処していくのかという意味で深刻さが広がってまして、事故後の3月4月頃より深刻さは増しているという見方もできます。

 深刻さに関してもう一点あげるとすると、20キロ圏内が放置されている状況です。立入禁止になった地域では、この1年間放置されている状況が続いています。津波による瓦礫や地震によって倒壊した家屋などもそのままになっています。そのまま放置が続くと劣化や腐敗などが進みさらに、植物などが成長すると放射性物質の固定化が進んでしまいます。1年間放置されたことで状況はますます深刻になっていると現地入りした方からも聞いています。

 環境中に排出された放射性物質をどう処理・管理していくのか、そして、その地域の人々が放射性物質とどう付き合っていくのかという点は非常に重要かつなかなか解決の糸口が見えにくい問題です。セシウムの大量放出ではチェルノブイリという事例があり、それに対する情報・知識もある程度ありましたが、実際にこれだけの放出が起こり、私も実際に飯舘村や南相馬に何度も入り住民の方のお話を聞いていますが、現在の状況、その重みを感じています。そういう点では私自身の考えも変わってきていると言えます。

 原子力規制庁が4月に発足しますが、組織の体裁は変わるようですが、中身がほとんど変わっていないように見受けられます。ただどのようにするべきかという点では私自身明確な考えが得られていませんし、そのような立場にいるわけでもありません。

 将来的に懸念しているのが、“第二派”への対策です。2004年のスマトラ地震後、同地域には大きな地震が頻発しています。今回の大地震でも同じように、今後同レベルの地震が発生し津波が起こる可能性があると言われています。万一このような事態になれば、福島の現場は非常に脆弱な状態にありますが、4号機の冷却用プールの循環システムも、1号機から3号機の損傷炉心を冷やし続けている循環冷却システムも維持されなければなりません。現在の冷温停止状態を維持するために、万一に備えて予防対策を張っておく必要があるでしょう。

 最後に1点気になる点があります。工程表に以前記載されていた遮水壁です。当初建屋内やトレンチなどに溜まった水が排水しても減らない状況がありました。ひょっとすると地下水などが流れ込んでいる可能性が指摘され、遮水壁を作ることが一時課題に挙げられていました。工程表に当初載っていたものの、1000億円程度のコストがかかり東電側も政府の支援があればやるという姿勢でしたので、結果的に削除されてしまいました。原子炉地下とその外の地下水との関係がどのようになっているのかは未だにわかっておらず、その点が気になります。大きな規模での汚染水の漏出は起こっていないのかもしれませんが、量の問題はさておき、現在も漏出が続いている可能性があると思います。」

 

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