2012515
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専門家コメント

太陽極域磁場の4極化について

Ver.1.0 (120515-17:00)

・これは、2012年5月8日にジャーナリスト向けに発行したサイエンス・アラートです。

・記事の引用は自由ですが、末尾の注意書きもご覧下さい。

<SMC発サイエンス・アラート>

太陽極域磁場の4極化について:専門家コメント

  この度、国立天文台と理化学研究所が「太陽極域磁場の4極化」の観測に成功しました。太陽活動が地球に及ぼす影響については様々な研究が行われていますが、その成果はまだ良く知られておらず、誤解に基づいた解釈も見受けられます。この現象が地球にどのような影響を及ぼすと考えられるのか、専門家にコメントをいただきました。

国立天文台プレスリリース

http://www.nao.ac.jp/news/science/2012/20120419-polar-field-reversal.html

理化学研究所プレスリリース

http://hinode.nao.ac.jp/news/120419PressRelease/

矢治 健太郎 (やじ・けんたろう) 特任准教授

立教大学理学部

 今回太陽観測衛星ひのでが太陽極域磁場が反転する様子を捉えました。この反転に伴い太陽の全体的な磁場が4重極磁場になることが予想されています。新聞の報道等では4重極磁場とその影響による地球の寒冷化を強調した内容となっています。しかし、その前提となるひのでの観測成果として、極域の磁場観測の重要性があまり触れられていません。これまでも、ひので衛星の観測から、太陽活動における極域磁場の重要性が指摘されていました。以前は磁場が強い黒点の観測を重要視してきました。また、太陽の正面を観測するのと異なり、極域の観測は難しいものがありました。ところが、ひのでの高空間分解観測により観測が難しかった極域の磁場も精密に観測できるようになり、極域にも強い磁場があることがわかってきました。太陽の表面には黒点に代表される局所的な磁場構造が多くあります。しかし、全体を一本の棒磁石としてみるとN極とS極とを結ぶ大きな磁力線構造が見られます。従って、極域の磁場は太陽の磁場構造を知る上で重要になってきます。

 さて、ひのでの詳細な観測結果によって、S極の成分が多かった北極にN極の磁場が増えてきました。その磁場反転を捉えたのが今回の大きな発見として発表されました。極域磁場は太陽活動が活発な時期である極大期に反転するとみられていましたが、そのタイミングが二年ほど早まったと考えられています。さらに、北極はS極からN極へと変わって来ましたが、南極はN極のままで変化がなく、北極と同時に変わっていません。通常の磁石はN極とS極とが双極構造になっているわけですが、このまま進むと北も南も同極のN極になります。すると、両極のN極から出た磁力線が赤道付近のS極と繋がって4重極磁場構造になるのではないかと予想されています。これはひのでによる極域磁場の継続的な詳細観測によって可能となった重要な研究成果といえます。加えて、黒点の活動から、通常の太陽活動周期は11年なのですが、太陽活動周期が12.6年に延びたため、太陽活動極大期が遅れることが予想されています。

 この活動周期の変化と極域磁場の変化がこれまでにない太陽活動の異常性を示していると言えます。かつて、17世紀(1600年代)後半に黒点がほとんど観測されなかった時期がありました。これをマウンダー極小期と呼んでいます。その時には世界的な寒冷化が報告されています。現在の活動周期の伸び、極域磁場の反転が早まったことは17世紀後半の状況に似ています。そこで、同じくらいまでとは行かないまでも今よりは寒冷化するのではないかと予想されています。

 これは、「来年にも地球の気温が下がる」とか、「太陽の温度が下がる」ということではありません。こういった太陽の磁場構造の変化が地球の気候になにか影響をおよぼすのではないかと考えられています。過去にも太陽活動と地球上の気温の変化の相関が何度か報告されています。今はひのでを始めとする観測機器が発達していますので、太陽の異常性と地球への影響を研究する大チャンスと言えます。今後、実際に太陽磁場が4重極化するのか?そのとき、太陽風の強度はどうなるのか?すると、太陽系外からやってくる宇宙線の強度は変わるのか?宇宙線は地球上の雲の生成に影響を及ぼすと考えられています。雲の生成は地球気候と密接な関係があります。以上から、太陽活動は地球の気候変動と関係があるのではないかと言われています。今後この状態が続いた場合に太陽風の強度が変わるのか、宇宙線強度が変わるのか、地球の気温がどう変わるのかを長い目で見なければなりません。そのために今後もひので衛星などによる継続的な極域の観測が重要になってきます。

 今回のプレスリリースでは、太陽の異常性と気候変動への影響を検証する大チャンスとして、今回の太陽磁場の4重極化の可能性を発表したのではないかと考えられます。とは言っても、17世紀後半では黒点がほとんど観測されなかったのですが、現在は大きな黒点群も出現していますし、昨年から巨大太陽フレアもたくさん観測されています。だから、そこまで太陽活動が下がっているわけではなく、あくまで過去と比較して下がっているというだけです。

 ただ、この太陽磁場の変化によもない、今後の黒点や太陽フレアの太陽活動が低下するのかどうかは、個人的には非常に興味があります。今後10年たって、もし地球が寒冷化の徴候を示すのであれば、今まで相関関係でしか分からなかった太陽活動と地球の気候変動の関係が、様々な観測結果から物理的に説明できるのではないか。また、もし逆の事が起こればどうしてそうなったのかと考えるきっかけになります。ですので、引き続き、今後の太陽の観測と地球気候の変化に注目してほしいと思います。

 

 

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