2014311
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専門家コメント

3.11から3年~放射線計測~

Ver.1.0 (140311-15:00)

・これは、2014年3月6日にジャーナリスト向けに発行したサイエンス・アラートです。

・記事の引用は自由ですが、末尾の注意書きもご覧下さい。

<SMC発サイエンス・アラート> 

3・11から3年:専門家コメント

2011年3月11日。東日本大震災でおきた地震や津波は、多くの人命をうばったばかりではなく、福島第一原発事故をも引き起こしました。その震災からもうまもなく3年がたとうとしています。日本全体で復興に取り組んできたこの3年間、どのような技術や知見を日本は得たのでしょうか。そしてこれからの日本は復興にあたり、どのような課題に取り組んでいくべきなのでしょうか。サイエンス・メディア・センターでは除染、放射線測定、健康、ロボットそれぞれのテーマにおいて専門家よりコメントをいただきました。

今回は放射線計測技術について、放射線計測研究の専門家と放射線計測技術者からのコメントをご紹介します。

高橋 浩之 教授

東京大学・大学院工学系研究科 原子力国際専攻 教授

1987年東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。東京大学工学部原子力工学科助手、講師、同大学院システム量子工学専攻助教授、同大学人工物工学研究センター助教授を経て、2005年より東京大学大学院工学系研究科原子力国際専攻教授。専門は放射線計測学に関する教育・研究。

 

【放射線計測技術のこの3年を振り返る】

基礎技術と応用システム技術に分けて振り返る。

基礎技術ではシンチレータの進歩が大きい。特に放射性セシウムから放出されるガンマ線検出では無機シンチレータが有用である。新規に登場したGAGGシンチレータは密度も大きく、自己放射能も少なく、発光量も大きいなど、従来用いられてきたNaI(Tl)シンチレータを凌駕する性能を有するものが生まれてきており、古河機械金属において量産が始まっている。また、気体検出器でベータ線分布の画像化が可能なGlass GEM検出器が開発され、まだ十分に普及はしていないが放射線イメージングに極めて有用であると思われる。そして超伝導ガンマ線分光計測技術も生まれてきており、高精度に核種を同定するガンマ線分析が始まりつつある。化合物半導体については当初もっと進歩・普及するかと期待したが、一部コンプトンカメラに用いられている程度であり、それほどではなかった。THM法によるCdZnTeの結晶育成では品質のよい結晶が得られており、進展があった。

一方、応用システムでは、広範な領域の汚染状況を迅速に把握する航空機モニタリング、KURAMAなど車載式放射線モニタリングシステム、原子力発電所事故現場や除染の現場で活用されたピンホールタイプのγカメラ、地上で広範な領域を観測するコンプトンカメラ、無人ヘリコプターにより上空から汚染状況を観測するシステム、海洋汚染を迅速に計測する曳航式ガンマ線計測システム、コメの全数検査のための食品検査システム、魚の非破壊検査のためのGAGG検出器システム、幼児のスキャンの可能なWhole body counter、線量計測ではD-shuttleなどの電子式線量計、加速器質量分析法(AMS)を用いたヨウ素129からヨウ素131の分析などの技術が注目されるべきであろう。

【放射線測定技術のこの3年の成果と今後】

基礎技術においても応用システム技術においても、放射線計測技術への関心が高まり、普及したといえる。特にガンマ線計測技術の進展がみられた。シンチレータや化合物半導体などの基礎的な材料開発においては、大企業・中小企業を問わず多くの企業や研究者が独自に開発研究を進めているようであり、今後これらの開発成果が表に現れてくるものと期待される。

【最後に】

現状では放射性セシウムの健康影響を過度に問題視しすぎており、ラドン・トロンなど自然界に存在する他の放射性物質の取り扱いとバランスがとれていない。逆にラドン・トロンの影響にまで人々の心配が及び始めれば、この3年間で置き去りにされた分野であるアルファ線計測技術の開発が新たに必要になってくる可能性もある。

 

西沢 博志 主席研究員

三菱電機株式会社 先端技術総合研究所 センサ情報処理システム技術部 主席研究員

1994年大阪大学大学院工学研究科原子力工学専攻修了。1994年三菱電機株式会社入社。現在、同社先端技術総合研究所センサ情報処理システム技術部に所属。放射線計測(原子力発電所向け、環境放射線測定向け等)の研究開発に従事。

 

【この3年間で進展した技術】

この3年間で大きく進展した技術としては、物質中に含まれる微量の放射性物質を短時間で検知できる測定システムや、放射性物質による汚染分布状況を可視化できるガンマカメラの実用化などが挙げられる。

いずれも、食品安全や生活環境保全など、日常生活との係わりが非常に深いものであり、現場から早期の実用化を望む強いニーズがあったことが背景にある。

例えば、食品中の放射性物質の測定では、諸外国と比べて厳しい基準(例えば、一般食品に対する放射性セシウム基準値は、米国[*1]やEU[*2]の10分の1以下)のため、より少ない量の放射性物質を測定する必要がある。同時に、多くの検体を測定するためには、検体1つの測定に要する時間を短くすることが求められる。これは、微量の物質を短時間で測定するという難しい課題が与えられたことになるが、これを具現化した製品が多数開発された。また、除染作業においては、広大な範囲をできるだけ短時間に除染するため、汚染箇所を特定して効率良く作業を行うことが必要とされている。それに要求されるガンマカメラの性能は、測定範囲や解像度が実用的なものであることは言うまでもないが、現場で機動的に使うためには装置重量を軽くしたり、汚染状況をすぐに判断できるように可視画像と重ね合わせたりするなどの技術もあわせて必要になる。これらのニーズを満たす製品がいくつか開発された。

[*1]http://www.fda.gov/ICECI/ComplianceManuals/CompliancePolicyGuidanceManual/ucm074576

[*2]http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=COM:2007:0302:FIN:EN:PDF

 

【この3年の成果と今後】

この3年間の成果は、従来からある原理や技術を応用し、それを現場のニーズにあわせて具現化したことであり、原理レベルから実用レベルへ大きく飛躍した期間であった、と言えるのではないか。

これらの原理や基本技術は以前からあったもので、今回、画期的な原理が新たに発見・構築されたわけではない。しかし、どんなにすばらしい原理があっても、実用化までには多くの壁がある。例えば、現場で使用できる大きさや重量に収めることや、作業員の負担を減らすための工夫を盛り込むことのほか、容易に製作できるような設計にして生産性を上げ、価格を妥当なものにすることが現実的には不可欠となる。地味な作業だが、今回、これらの壁を取り払うための多くの努力がなされ、実用化に成功した。

この3年間にいろいろな測定器が実用化されたが、まだ測定すべき対象物のすべてを網羅できたわけではない。今後も生活への密着度が高いものから、新たな製品の実用化が進むと思われる。すなわち、測定対象と国内特有の現場状況に応じて、適材適所の様々な測定器が開発されていくと考えられる。また同時に、今までに無い新しい検出器材料の開発など、画期的な進展が期待できる基礎研究も並行して進められており、今後が注目される。

 

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