専門家コメント
3.11から3年~災害対応ロボット~
Ver.1.0 (140313-15:00)
・これは、2014年3月10日にジャーナリスト向けに発行したサイエンス・アラートです。
・記事の引用は自由ですが、末尾の注意書きもご覧下さい。
<SMC発サイエンス・アラート>
3・11から3年:専門家コメント
2011年3月11日。東日本大震災でおきた地震や津波は、多くの人命をうばったばかりではなく、福島第一原発事故をも引き起こしました。その震災からもうまもなく3年がたとうとしています。日本全体で復興に取り組んできたこの3年間、どのような技術や知見を日本は得たのでしょうか。そしてこれからの日本は復興にあたり、どのような課題に取り組んでいくべきなのでしょうか。サイエンス・メディア・センターでは除染、放射線測定、健康、ロボットそれぞれのテーマにおいて専門家よりコメントをいただきました。
今回は災害対応ロボットについて、ロボットとヒューマン・インタフェースの研究者からのコメントをお送りします
淺間 一 教授
東京大学大学院工学系研究科精密工学専攻 教授
1984年3月 東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。1986年9月理化学研究所化学工学研究室研究員補。同研究所研究員、副主任研究員を経て、2002年9月分散適応ロボティクス研究ユニットリーダー。2002年11月東京大学人工物工学研究センター教授。2009年11月から現職。対災害ロボティクス・タスクフォース主査。政府・東京電力廃炉・汚染水対策チーム事務局会議委員。産業競争力懇談会災害対応ロボットプロジェクトリーダー
東日本大震災や東京電力福島第一原子力発電所の事故では、人が行うことが困難,または危険な作業が多々存在し、様々な場面でロボット投入が求められました。被災地では、被災者の探索、被災した建物や水中の調査、被災地マッピング、重作業のパワーアシスト、被災者のメンタルケアなどでロボット技術が使われました。福島原発の事故対応では,注水、瓦礫除去、映像や放射線量などの調査、サンプル採取、計測機器などの設置、除染、遮蔽、機材運搬などの作業でロボットや遠隔操作機器の活用が求められ、今は30種類以上のロボットや機器が導入されています。
震災や事故の直後は、現場で使える国内ロボットは極めて少なく、海外の軍事用や災害対応用ロボットが投入されました。その後、現場ニーズから様々なロボットや機器が国内で開発され、随時導入されてきました。調査・軽作業用の移動ロボット、飛行ロボット、水上ロボット、瓦礫処理などを行う無人化施工建設機器、遠隔除染装置などです。日本に優れたロボット技術があることが改めて証明されました。
これらは走破性、環境センシング、通信を用いた遠隔操作性、除染やサンプリングなど、作業性で優れた機能を有し、非常に困難な環境での動作など、現場ニーズに見事に応えています。こうした機器は様々な要素技術から構成されますが、特別画期的な技術があるわけではありません。要求タスクに対し、実施可能なソリューションを導出し、様々な入手可能な要素技術を総合(シンセシス)・統合、システムとして設計・実現した技術こそ画期的なのです。これはシステムインテグレーション技術といい、ロボット技術で最も重要な技術です。
福島原発の廃炉には30年~40年かかると予想され、廃炉の成否はロボット技術の開発にかかっていると言っても過言ではありません。事故対応から廃炉対策まで、ロボット技術の開発と投入の成果は着実に上がっており、多大な貢献を果たしています。念入りな実証試験の上現場に投入し、失敗するケースもあります。その失敗経験も知識やノウハウの蓄積とし、成功へ導いています。今後、さらに汚染水の漏えい箇所の検出・補修、除染、格納容器や圧力容器など高線量環境下の作業や調査など、困難な作業が目白押しです。経験を活かし海外とも連携し、ロボット技術によるさらに困難な問題解決が必要です。建設予定のモックアップ施設を機器の実証試験や訓練で活用し、より信頼性の高い機器開発が期待されます。
東日本大震災の復旧・復興,福島原発の廃炉のみならず、今後の災害に対する備えも重要です。現場へ迅速に配備可能な実用化ロボット・遠隔操作機器を平時運用し、災害対応ロボットセンターの設立など、平時利用と緊急配備の枠組み、組織、体制の早急な構築が必要です
稲見昌彦 教授
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科 教授
1999年東京大学大学院工学研究科博士課程修了、博士(工学)。ロボット、バーチャルリアリティ等インタラクティブ技術が専門。「文部科学省大都市大震災軽減化特別プロジェクト」(2002年〜2007年)で災害対応ロボット研究、「JST ERTO 五十嵐デザインインターフェースプロジェクト」(2007年〜2013年)で生活支援ロボット研究に携わる。
【この3年間の災害対応ロボット開発】
従来のロボットは研究室内環境だけで動くものでしたが、研究者や開発者がいなくても、誰もが現場で使えるようなものを作ろうという傾向が出てきました。
災害対応ロボットの開発は、阪神淡路大震災以降、私が参加をした「文部科学省大都市大震災軽減化特別プロジェクト」などで続けられてきましたが、東日本大震災では十分な活躍ができませんでした。
一方で、重機の遠隔操縦化などのロボット技術の汎用化の流れが進みました。ある災害が起きたときだけに使うロボットではなく、平時から使えるよう重機等をロボット化しようという考え方です。例えば、東日本大震災ではTwitterでの情報伝達が行われましたが、Twitterは緊急災害システムではありません。同様に、ロボットそのものでなく、「ロボット化技術」を世の中のインフラとして、災害時にも活躍できるようにするということです。
その一方で、例えば火事のときの消火器のように、甚大な災害が発生したときに、その専用に使われるロボットの開発も引き続き行われています。
【これからの災害対応ロボット開発】
今後は、ロボットなどの災害対応システムを実際に使えるようなシステムを整備する必要があります。誰がいつどのように使うのか、どうメンテナンスするのかといったロジに関する部分を、行政が整えていかないと実際に運用できません。個別の技術開発も重要ですが、今の災害対応システムの現場で足りていないのは運用の点です。
そのためには、技術開発の時点から、自衛隊やレスキュー隊など、災害現場で活躍する人たちと一緒に作っていくとよいでしょう。研究者が現有する技術主導にするのではなく、現場やステークホルダーと協調しながらそれぞれの知恵を活かして開発を進める必要があります。ただし、研究開発で一番良くないのが、2〜3年のプロジェクト予算がついて終わったらすぐに実用化しなさい、というパターンです。運用と開発を繰り返す継続的な取り組みを支援する仕組みが必要です。
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