20141010
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国内外の専門家コメント

2014年のノーベル医学生理学賞について:国内外の専門家コメント

・これは、2014年10月8日にジャーナリスト向けに発行したサイエンス・アラートです。

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<SMC発サイエンス・アラート>

2014年のノーベル医学生理学賞について:国内外の専門家コメント

10月6日、スウェーデンの王立科学アカデミーは、2014年のノーベル医学生理学賞を、英米の2重国籍をもつジョン・オキーフ 英ロンドン大学教授(74)、ノルウェー科学技術大のマイブリット・モーセル教授(51)、同教授の夫のエドバルト・モーセル教授(52)の3名に授与すると発表しました。この件につき、国内外の専門家コメントをお送りします。

翻訳は迅速さを優先しております。ご利用の際には必ず原文をご確認ください。

 

日SMC発 大隅典子 教授

東北大学大学院 医学系研究科 発生神経科学分野

今回は、久々のノルウェーからの医学・生理学賞受賞となりました。この研究は、「動物がどのようにして、位置の感覚をもつのか」という根源的な問題についての一つの解を与えたもので、そのこと自体が素晴らしいと思います。

これまで、脳の高次機能の基礎研究は、サルを用いた電気生理学・システム生理学系によるものが王道となっています。その意味で、場所細胞がラットの海馬において初めて発見された当時、「ネズミでは海馬が大事かもしれないが、統合的な判断などは、やっぱり前頭葉が大事なのではないか」と感じた研究者が多かったように思います。そのため、海馬において「生涯にわたって神経細胞が産生され続ける(神経新生)」という重要な現象が明らかになりながら、この点も過小評価されてきました。ようやく最近になって、アルツハイマー病でも「初発症状として場所の見当意識が失われ(徘徊などにつながる)、これに呼応するように、前頭葉よりも先に海馬の萎縮が認められる」といった報告が相次ぎ、海馬の機能低下がその後の前頭葉などの機能低下をもたらすとの学説が認知され始めたのではないかと思います。今回の場所細胞・格子細胞の発見に対するノーベル賞授与は、そのような意味においても、改めて、海馬や嗅皮質などの重要性を示すものと考えます。

また、「空間(今のところ二次元)情報の認知・記憶」のしくみの一端もわかった訳ですが、より大きな記憶の課題として「時間の感覚」があると思います。反射で制御されるような非常に短い時間記憶や、状況判断時の秒レベルの時間記憶については、すでに理解が進みつつありますが、より長い時間単位の記憶(概日リズムで制御されない、昨日の記憶、1ヶ月前の記憶、1年前の記憶など)が、どのように認知・整理され、想起されるのかはよくわかっていません。今後、このあたりの解明が進めば、「昨日の私と、今日の私」がどのようにつながっているのか、「自我」の理解などにもつながると考えられます。そういう意味で、神経科学は哲学の領域にどんどん近づいているようにも思えます

 

英SMC発 Prof John Stein

Emeritus Professor of Physiology, University of Oxford

1970年代はじめに、ジョンがはじめて場所細胞について述べたときに、非常に素晴らしいと思ったことを覚えています。過小評価されたり、論争がおきたりということもありましたが、当然の受賞だと思います。

【コメント原文】

“This is great news and well deserved. I remember how great was the scoffing in the early 1970s when John first described 'place cells'. “Bound to be an artifact”, “He clearly underestimates rats' sense of smell” were typical reactions. Now, like so many ideas that were at first highly controversial, people say “Well that's obvious”!

 

英SMC発 Prof Andrew King

Professor of Neurophysiology, University of Oxford

オキーフ氏による発見は、脳は「私たちがどこにいるのか」を知っており、それゆえに周囲を移動できることを明らかにし、脳科学に革命をもたらしました。モーセル夫妻の研究とともに、脳機能の解明に、動物を用いた電気生理学的な研究がいかに重要かを示したといえます。

【コメント原文】

“The discovery by John O’Keefe that neurons in the hippocampus, an area of the brain long thought to be associated with spatial memory, possess ‘place fields’ – firing when an animal is in a particular region of its environment – and that these place fields are updated in different environments, revolutionised our understanding of how the brain knows where we are and is able to navigate within our surroundings. This work and that of May-Britt and Edvard Moser also highlights the importance of electrophysiological studies in animals for revealing major insights into how the brain works.

 

 

英SMC発 Prof Christoph Kayser

Chair for Integrative Neuroscience, Institute of Neuroscience and Psychology, University of Glasgow

彼らは、巧妙な動物実験と行動観察によって、脳構造の基本と機能についての研究の重要性を示しました。

防護用具の着用でエボラウイルスの感染リスクを減らすことはできますが、着脱時にはリスクが伴うことを忘れるべきではありません。

【コメント原文】

“The Institute of Neuroscience and Psychology of Glasgow University congratulates the winners of this year’s Nobel Prize for Medicine or Physiology for their ground-breaking work on the neural mechanisms underlying navigation. Their outstanding studies show how important insights can be derived from clever experimental designs and the observation of the brain’s activity in relation to behaviour. This work underlines the great importance of basic research into the brains structure and function – a prerequisite for any work towards the understanding and treatment of diseases.”  

 

 

英SMC発 Dr Simon Ridley

Head of Research at Alzheimer’s Research UK

アルツハイマーのような難治疾患の病態理解と、新たなアプローチの開発につながると期待されます。

【コメント原文】

“We would like to extend our congratulations to the winners of this year’s Nobel Prize for Medicine or Physiology for their dedication to understanding the complex workings of the brain. Their contribution to research has expanded our knowledge of how the brain functions and how it allows us to navigate through our surroundings.”

“Answering these fundamental but important scientific questions helps us to better understand how and why these processes go wrong in diseases like Alzheimer’s. For people with Alzheimer’s, navigating the world they live in can be a huge challenge and pinpointing the biological mechanisms involved in these processes could inform new ways to help those affected. We must continue to be ambitious in asking big questions in science and use that knowledge to improve people’s lives.”

 

 

英SMC発 Professor Bill Harris, Head of Physiology

Development and Neuroscience, University of Cambridge

3氏の研究によって、場所の認識と記憶に関するパズルが完成し、脳科学に革命がもたらされました。

【コメント原文】

“O'Keefe's and the Moser's work on the brain's system of knowing where we are, and the neurons that monitor place, has not only revolutionised our understanding of this amazing puzzle, but has also opened the door into problems of place memory and how we learn and remember routes of navigation, and what sleep and dreams may be doing for memory and performance.”  

 

 

英SMC発 Professor John Aggleton

President-Elect of the British Neuroscience Association

オキーフ氏による脳のナビゲーション機能の研究で、認知機能をマッピングするというアイディアが生まれたのだと思います。

【コメント原文】

“The British Neuroscience Association is thrilled to learn that Prof John O’Keefe has won the Nobel Prize in Physiology or Medicine, along with May-Britt Moser and Edvard Moser at the Norwegian University of Science and Technology. Prof O’Keefe’s discovery of place cells in an area of the brain known as the hippocampus led to the idea of the brain’s own cognitive map and understanding how we are able to navigate. As one of the original small group of eminent neuroscientists who founded the British Neuroscience Association, which celebrates its 50th anniversary in 2015, Prof O’Keefe’s Nobel Prize is indeed a richly-deserved honour for him that all UK neuroscientist will applaud.”   

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