2015127
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専門家コメント

自閉症スペクトラムの子どもが2人いる家族の全ゲノム解析について:専門家コメント

・これは、2015年1月26日にジャーナリスト向けに発行したサイエンス・アラートです。

・記事の引用は自由ですが、末尾の注意書きもご覧下さい。

<SMC発サイエンス・アラート>

自閉症スペクトラムの子どもが2人いる家族の全ゲノム解析ついて:専門家コメント

カナダの研究者がASDの傾向をもつ兄弟がいる85組の家族でを対象に全ゲノム解析を実施し、その結果を発表しました。およそ70%の兄弟間では一般の突然変異を共有していない事が明らかになりました。論文は1月27日、Nature Medicineに掲載されました。この論文に対する専門家のコメントをお送りします。

 

論文アブストラクト
Ryan K C Yuen. et al. ‘Whole-genome sequencing of quartet families with autism spectrum disorder’, Nature Medicine 21, 185–191, 2015
http://nature.com/articles/doi:10.1038/nm.3792

 

松本 直通 教授

横浜市立大学大学院 医学研究科医科学専攻

この研究では自閉症スペクトラム障害(Autism spectrum disorder  以下、ASD)の子どもが2人いる4人家族85組を対象として、ASDの患者170人とその両親170人の全ゲノム解析を行っています。

まず「両親には見られず、子どもに新しく発生したDNAの変異(以下、de novo変異)」が全ゲノム中に平均72.6個あることがわかりました(他の方法で検証するとそのうちの90%以下が真の変異でしたが)。また、そのde novo変異のうち76%が父親ゲノムに由来していることもわかりました。この76%という値は過去に行われてきた研究と同様の結果です。

この中で85家系中36家系(42%)にASDに関連のある遺伝子変異を確認しました。ただし、この異常を認めた36家系中11家系(32%)でのみ、兄弟姉妹が同じ変異を共有していました。同じ家系でASDの兄弟姉妹がいる場合、同じ遺伝的な原因で起こることを想定しやすいのですが、むしろそうではない場合が多いようです。

この研究では全ゲノム解析の意義が強調されていると思います。これまではタンパク質を作る遺伝子領域(エキソン)のみを解析する全エキソーム解析が中心でしたが、エキソンは全ゲノムの2%程の領域に過ぎません。全ゲノム解析では文字通り残りの98%も含めて全領域を解析し全ゲノムを平均的に観察するため「遺伝子領域のコピー数の変異(欠けたり挿入されたりする場所)」を見つけやすくなります。実際、異常が見つかった36家系のASD患者さんの遺伝子異常のうち5つがコピー数の変化によるもので、今回全ゲノム解析を行うことでより数多くの遺伝子異常を明らかにできたという意義はあると思います。

この研究の価値は、将来的なASDの解析に資するところにあります。今回はタンパク質を作る遺伝子領域が解析の中心でしたが、全ゲノム解析の情報を用いて、タンパク質翻訳領域とは関係の無い機能的に大事な領域の情報が、例えばマイクロRNAレベルなどの研究と組み合わせることで、さらにASD発症の理解を深める研究のスタート地点となっていく可能性が考えられます。

 

Dr. Judith Brown

Head of Autism Knowledge and Expertise at the National Autistic Society (NAS)

これまでASDについて行われた最も大規模な全ゲノム解析ではありますが、サンプル数は少ないといえます。
ASDの全容を解明するには更なる研究が必要です。
ASDの遺伝的要因が複雑であるということは、それぞれ必要なサポートが異なるということも意味します。
画一的な対応では不十分でしょう。

原文

"This is a robust piece of research which adds to our knowledge about the substantial and complex role genetics play in autism. Although it is reported to be the largest whole-genome sequencing data set published to date, the sample size is relatively small and, as the authors acknowledge, further study is necessary if we're to truly understand autism’s genetic makeup.

“The paper reports on an investigation of 85 sets of parents who have two children with autism. The authors found that 69.4% of siblings with autism did not share gene mutations commonly associated with autism. However, those that did share the same mutations exhibited similar characteristics of autism. The authors suggest that even if parents have more than one child with autism, it is necessary to analyse the whole-genome sequencing of each individual in order to provide accurate data. 

“The findings suggest there is significant genetic diversity among people with autism. This reaffirms the importance of viewing each person with autism as an individual and identifying support appropriate to their needs, rather than approaching all people in the same way.

"We still do not know what causes autism but the authors have provided the research community with high quality data which adds to an expanding genome resource and will support further studies."

 

Dr. Simon Wallace

Research Director, Austistica

過去10年間の研究でASDの遺伝的要因は多様であり、多くの場合遺伝的要因を特定することは困難だということがわかっています。
この研究でも、兄弟の間でも別の遺伝的要因が原因であるとされています。
著者は臨床での診断に用いる可能性にも言及していますが、それまでにはまだ長い研究期間が必要でしょう

原文

“The researchers used a novel technique to provide a detailed and comprehensive picture of the genetic architecture of families who have two children with an autism diagnosis. 

“As has become increasingly evident in the last ten years the genetic causes of autism are heterogenous and for the majority of cases they are hard to identify with confidence. 

“We hear in this study that even for siblings who both have autism that their condition can be caused by different factors. 

“The authors suggest that their detailed analysis could ultimately be used in clinical settings to inform diagnosis but this is a long way off and needs further testing and larger sample sizes to increase confidence in findings.”

 

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