2015327
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専門家コメント

熱帯地域における降雨量の増加について

・これは、2015年3月26日にジャーナリスト向けに発行したサイエンス・アラートです。

・記事の引用は自由ですが、末尾の注意書きもご覧下さい。

<SMC発サイエンス・アラート>

熱帯地域における降雨量の増加について:専門家コメント

熱帯地域での降雨量の増加につながる現象を、人工衛星からのデータを解析し明らかにしたとアメリカの研究者が発表しました。現在の気候モデルでは降雨量の変動をうまく再現できておらず、今回の発見により、より実際の現象に近い気候モデルの開発と降雨予測につながると期待されます。論文は3月26日付けのNatureに掲載されました。この件に関する国内専門家コメントをお送りします。

【論文タイトル】

Jackson Tan et al.’Increases in tropical rainfall driven by changes in frequency of organized deep convection’ Nature 519, 451–454.
http://www.nature.com/nature/journal/v519/n7544/full/nature14339.html

高薮 縁 教授

東京大学大気海洋研究所気候システム系

 温暖化に伴う降水変動は地域的な相違が大きく複雑です。気候モデル実験は観測される降水変動分布をよく再現できないことも指摘されています。この研究は、衛星観測による雲データと雨データを利用し、近年の雨の増減の地域的パターンが、雲クラスターと呼ばれる数100㎞のメソスケールで組織化したシステム(Mesoscale Convective System、以下MCS)の増減で決まっていることを示しました。MCSの重要性はこれまでにも認識されていますが、 現気候モデルでの積雲対流の表現(パラメタリゼーション)では扱えませんでした 。本研究は、MCSを表現する重要性を定量的に証明しました。気候変動の将来予測に不可欠な気候モデルの改良への重要な示唆を与え、社会的なインパクトが大きいと考えられます。

 本研究では、まず280㎞四方格子での日々の雲データ(赤外観測による雲の高さ+可視観測による雲の厚さ)を用いたクラスター解析(統計的なパターン分類法)を行い、雲対流の特徴を分類しました。解析の結果、1998-2009年の前半と後半での熱帯降水の地域的な増減が、MCSの増減とよく一致していることがわかりました。また、独立した衛星レーダ観測による降水特性データを利用し、このパターンが熱帯での組織化したMCSからの雨に対応していることを証明しました。

 ただし、この結果は海上の降水の増減パターンをよく説明しているものの、 論文中の図からは 、陸上の降水について(分離して解析していないために確実ではありませんが)必ずしも同じ結果で解釈できない可能性 も伺えます 。陸上の雨について語るためには、海と陸を分離しての解析が必要です。 今回の 雲情報のクラスター解析分類は実際の現象との対応がやや間接的であり、今後、雨データによる現象の直接的な把握が望まれます。また、解析期間は数十年スケール変動に影響されており、この結果は必ずしも地球温暖化のトレンドを示しているわけではないことに注意が必要です。

 

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