2015415
各専門家のコメントは、その時点の情報に基づいています。
SMCで扱うトピックには、科学的な論争が継続中の問題も含まれます。
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記事の引用は自由ですが、末尾の注意書きもご覧下さい。

専門家コメント

米独のグループによる「新たなHIV抗体の臨床試験」について

・これは、2015年4月13日にジャーナリスト向けに発行したサイエンス・アラートです。

・記事の引用は自由ですが、末尾の注意書きもご覧下さい。

<SMC発サイエンス・アラート>

米独のグループによる「新たなHIV抗体の臨床試験」について:専門家コメント 

アメリカとドイツのグループは、HIV-1の感染者(発症患者)に3BNC117というモノクローナル抗体を用いることで、28日間に渡ってHIV-1量の増加を防げることができ、ウイルス量が大幅に低下したことなどを報告しました。論文は4月9日付けのNatureに掲載されました。この件に関する、専門家のコメントをお送りします。
【論文リンク】(アブストラクトのみ無料でご覧いただけます)
Marina Caskey, et al., Viraemia suppressed in HIV-1-infected humans by broadly neutralizing antibody 3BNC117, Nature, 2015.
http://www.nature.com/nature/journal/vaop/ncurrent/full/nature14411.html

 

小柳義夫 教授

京都大学 ウイルス研究所 

 

本論文は、2014年にロックフェラー大学で開始された「HIVに対する広域中和抗体接種の臨床治験」についての報告です。使われたのは、HIV上の「CD4に結合する領域」を認識し、多様なHIV株の約80%に対して中和活性を示すモノクローナル抗体(3CNC117)です。単独でヒトに静脈接種することで、ヒトにおける有効性がはじめて証明されました。

具体的には、被験者の体重(kg)あたり4種の異なる抗体量(1、3、10,、30 mg)を静脈注射し、投与開始後56日間にわたる副作用の有無、血漿中の抗体量とHIVのRNA量(Viral load:VL)の変化、ウイルスの遺伝子配列の変化、耐性ウイルスの出現について検討を行っています。その結果、抗体接種により、その量がkgあたり30 mgでVLが大幅(0.8~2.5ログ)に低下し、接種後28日を経ても、接種前より明らかに低いVL値であることが示されました。被験者の何人かに、抗体に対する耐性ウイルスの出現が見られましたが、その頻度は低いといえます。

今回の研究によって、広域中和抗体の単独接種でも十分な抗ウイルス効果が得られ、副作用はほとんどないことが明らかになりました。有効性はヒト化マウスやサルなどの動物モデルでは確認されていましたが、ヒトでもHIVの予防、治療、さらには根治療法に利用できることがわかったといえます。特に、感染者への単独投与でも抗ウイルス活性が示された点はきわめて重要な知見であり、広域中和抗体療法が新たな治療法に発展する可能性を示していると思います。

 

松下修三 教授

熊本大学 エイズ学センター 病態制御分野

 

本論文は、広範囲のHIV-1株を中和する単クローン抗体を、HIV感染例に対して投与した臨床試験の報告です。「HIV-1エンベロープのタンパク質(gp120)の特定部位(CD4結合部位)に反応し、中和する抗体(3BNC117)」を一度投与しただけで、強力なウイルス増殖抑制効果(2.5log)が認められたとしています。

中和抗体療法は、現在用いられている抗ウイルス療法とは異なり、抗体の特定部分(Fc部分)を介して感染細胞を排除する効果も期待できます。本研究は、中和抗体療法が感染予防や治療、さらには治癒に向けた治療法の開発に革新的な効果が期待できることを示すもので、この領域の研究を推進する根拠になったといえます。

一方で、問題点も残されています。第一は、抗体が大量に必要とされることです。本研究では30 mg/kgが用いられていますが、コスト面での大きな制限になりうると考えられます。第二は、投与後短期間で耐性ウイルスが出現したことです。解析可能だった7例中3例で、「抗体に耐性をもつ株(中和エスケープ変異株)」が認められており、2回目以降の効果が期待できない可能性があります。さらに、複数回投与時には「抗体に対する抗体(抗イディオタイプ抗体)」ができてしまう可能性も考えられます。いずれにしても、中和抗体を用いた治療法の開発が、今後も重要なトピックスとなるのは確実だといえるでしょう。

 

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