2015430
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専門家コメント

コウモリ様の翼をもつ恐竜が新発見された件について

・これは、2015年4月27日にジャーナリスト向けに発行したサイエンス・アラートです。

・記事の引用は自由ですが、末尾の注意書きもご覧下さい。

<SMC発サイエンス・アラート>

コウモリ様の翼をもつ恐竜が新発見された件について:専門家コメント

中国の研究者らは、これまでに知られていなかった翼をもつ小型の恐竜(獣脚類恐竜)を発見したと報告しました。著者らは、翼がコウモリの飛膜のような構造だったことを明らかにし、鳥類やほ乳類への進化について新たな知見を得られたとしています。論文は4月30日にNatureに掲載されました。
この論文に対する専門家コメントをお送りします。

 

【論文リンク】
" A bizarre Jurassic maniraptoran theropod with preserved evidence of membranous wings", Xing Xu, et al., Nature, 2015, doi:10.1038/nature14423.
http://www.nature.com/nature/journal/vaop/ncurrent/full/nature14423.html

今井 拓哉 主事

 福井県立恐竜博物館

今回の論文では、前肢に膜のような軟組織と、それを支えるための骨(もしくは軟骨)による棒状の部位を持ち、体に繊維状の羽毛を生やした奇妙な獣脚類恐竜(以下、Yi qi)について発表されました。Yi qiは、膜状軟組織を飛膜として使い、コウモリやムササビのように飛行できた可能性が示唆されています。

Yi qiはジュラ紀中期の終わりから後期の初め頃にかけて堆積した地層から見つかりました。鳥類の起源については諸説ありますが、これまでの研究によれば、最古級の鳥類は少なくともジュラ紀後期の初め頃には出現しており、Yi qiの出現はそれとほぼ同時期かそれ以前ということになります。つまり、発達した羽毛を使って飛行する恐竜(鳥類)が現れるころには、単純な繊維状の羽毛を持ち、飛膜を使って空を舞っていた恐竜も同時に存在したかもしれないということです。

化石が部分的なため、今回の発見では、膜状軟組織が本当に飛行に使われたかどうかはわかりません。しかしこの化石は、当時の獣脚類恐竜が空へ進出するための適応を、少なくとも二つ(羽毛と飛膜)の違った方法で進めていたことを示唆しています。獣脚類の進化の歴史には、私達がこれまで想像していた以上の多様性があったのかもしれません。

 

真鍋 真 グループ長

 国立科学博物館 地学研究部 生命進化史研究グループ

鳥の類縁に進化した恐竜は、正羽(羽軸のある羽)で出来た翼を持つようになります。まず、前肢と後肢に四枚の翼を持つものがあらわれ、枝から枝に滑空するようになることで前肢の羽ばたき能力が向上し、やがて後肢の翼が退化して鳥類の概形が完成したと考えられています。ただし、これまで中国から報告されているスカンソリオプテリクス類は、鳥類に近いにもかかわらず、リボン状の尾羽を持ちつつも、前後肢には翼がないことが謎とされていました。
 
本論文は、中国・河北省青竜に分布する、ジュラ紀中期~後期(約1億6000万年前)の髫髻山層から発見されたスカンソリオプテリクス類の新属新種の獣脚類恐竜イー・チーについての報告です。イー・チーの手首には尖筆状突起という他の恐竜には無い骨、さらにその周辺に膜状の構造があったことが確認されました。膜状の組織をもった恐竜の発見は初めてです。
 
コウモリは指を長くして、指と指の間に飛膜を発達させています。ムササビは前肢と後肢の間に飛膜を発達させています。翼竜は薬指を異常に長くした飛膜を持っていました。イー・チーの飛膜はコウモリやムササビのような哺乳類のものとは異なりますし、他の爬虫類である翼竜とも異なります。しかし、飛膜をもつという収斂的な進化が、翼竜、恐竜、コウモリ、ムササビと繰り返し起こったことは興味深い発見です。今回の新種の発見と解析は、恐竜から鳥類へと進化する過程で、飛行の進化がこれまで考えられていたほど単純ではなかったことを端的に示しているといえ、飛行の起源に関してはさらに研究が必要だと思います。

 

平沢 達矢 研究員

 理化学研究所 倉谷形態進化研究室 

この論文は、中国河北省の中期-後期ジュラ紀(約1億6600万年~1億5700万年前、始祖鳥より前の時代)の地層から産出した、鳥類に近縁な(鳥類には含まれない)獣脚類恐竜の「イー・チー(Yi qi)」の新種記載論文です。体重は380gほどと推定される小型の恐竜で、前肢と後肢に繊維状の羽毛を持っていました。何と言っても驚きなのが、手首から伸びる細長い骨(もしくは石灰化軟骨)とその周囲に保存された膜状の軟組織です。これらの構造は長く伸びた一番外側の指と合わせて、コウモリやムササビのような膜でできた翼(飛膜)を持っていたのではないかと推定されました。また、イー・チーの羽毛は鳥類や近縁な獣脚類恐竜と異なり翼となるような形態ではなく、もっぱら飛膜を進化させた種であることがうかがえます。恐竜と同時代には翼竜という同じく飛膜を持つ爬虫類がいましたが、恐竜系統と翼竜系統は2億3000万年以上前に分岐しており、イー・チーの飛膜は独自に進化したものです。
 
この新種発見は、私にとってまったく予想外のもので、鳥類が進化してくる直前にさまざまな"進化の実験"があったことを物語っています。また、同時に、この発見は鳥類の翼の進化について再考をせまり、新たな謎を生み出しました。哺乳類系統と恐竜-鳥類系統では、手首の構造と機能の進化はまったく異なっており、特に鳥類に至る進化では翼を折りたたむような動きを可能にする特殊化が起こってきました。これと関連して、鳥類に近縁な獣脚類恐竜では手首の骨の数は極端に少なくなっていて1個ないしは2個の骨しかありません。飛膜を支える細長い骨はムササビにもありますが(針状軟骨)、これは手首の骨(種子骨)の1つから進化したと考えられています。イー・チーの飛膜を支える骨は一体どこから進化してきたのか、そして、手首を動かす関節構造や筋肉は鳥類に至る進化の中でどのような変遷を経てきたのか、これから非常におもしろい研究に結びついていくと期待されます。

 

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