2015623
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記事の引用は自由ですが、末尾の注意書きもご覧下さい。

専門家コメント

温暖化が高潮に与える影響

専門家コメント・これは、2015年6月22日にジャーナリスト向けに発行したサイエンス・アラートです。

・記事の引用は自由ですが、末尾の注意書きもご覧下さい。

<SMC発サイエンス・アラート>

温暖化が高潮に与える影響: 専門家コメント

気象庁気象研究所、筑波大学などの研究チームは、人間の活動による海面上昇などの変化が、2013年の台風ハイエンの強さや高潮に与えた影響についての研究成果を発表しました。複数のモデルを組み合わせて検討した結果、ハイエンのような強力な台風による高潮に影響を及ぼしている可能性があるとわかったとのことです。ハイエンは過去100年間で最も強い台風の1つであり、6000人以上の死者を出しています。論文は6月11日、Environmental Research Lettersに掲載されました。
この件についての専門家コメントをお送りします。
 
【論文・プレスリリースリンク】
Takayabu I., K. Hibino, H. Sasaki, H. Shiogama, N. Mori, Y. Shibutani and T. Takemi, 2015: Climate change effects on the worst-case storm surge: a case study of Typhoon Haiyan,Environ. Res. Lett. 10 064011.
http://iopscience.iop.org/1748-9326/10/6/064011/article
 
気象庁気象研究所プレスリリース
http://www.mri-jma.go.jp/Topics/H27/270616/270616_Haiyan.html

 

吉野 純 准教授

岐阜大学 大学院工学研究科 環境エネルギーシステム専攻 

これまでの研究では、20世紀後半の北大西洋や北西太平洋において、カテゴリー4以上(最大風速56m/s以上)の強い熱帯低気圧の数が増加傾向にあると指摘されています。加えて、このような近年の台風の強大化傾向は、地球温暖化によるものではないかとも懸念されています。一方で、データの質や自然変動の問題による不確実性が依然として大きく、論争は未だ決着していません。2013年に刊行されたIPCC第5次報告書でも、強い熱帯低気圧の活動度の増加について、1950年以降の変化発生の可能性は「確信度が低い(Low confidence)」としています。
 
本論文では、2013年にフィリピン中部で甚大な高潮被害をもたらした台風ハイエン(台風1330号)を、現在の気候における最悪の台風と見なしています。そのうえで、全球気候モデル、領域気候モデル、および、高潮モデルを組み合わせて、多数の進路で台風と高潮の数値シミュレーションを行っています。加えて、擬似温暖化ダウンスケーリングと呼ばれる手法に基づき、人為起源の温暖化の影響を取り除いた150年前の大気環境条件を仮想的に作り出すことで、同様の数値シミュレーションを行っています。これらを相互比較することで、温暖化が台風や高潮に及ぼす影響を定量化した結果、150年前の条件にくらべて、台風の中心気圧は-6hPa程度、台風の最大風速は+3m/s程度強まることを明らかにしています。また、フィリピンのタクロバンで発生した高潮も平均して20%程度増加すると結論づけています。
 
本論文では、人為起源の温暖化により台風が強まることを示しており、多くの議論を呼ぶことが予想されます。しかしながら、本論文では高分解能な領域気候モデルを用いているにも関わらず、依然として台風ハイエンの再現性に問題をかかえています。また、高潮についても、台風進路の微妙な違いにより大きく結果が異なることから、十分な数の数値シミュレーションが行われたとは言えません。よって、本論文が提示した傾向については重要な意味を持つものの、量的な議論については依然として疑問が残ります。台風の発生・発達メカニズムにはまだ未解明な点が多くあるため、本論文を契機に、理論・観測・モデリングといった多角的視野で継続的に調査研究が進められていくことが期待されます。

 

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