2015724
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専門家コメント

ナノ粒子を用いた土壌や水中の環境ホルモンの分解について

専門家コメント・これは、2015年7月23日にジャーナリスト向けに発行したサイエンス・アラートです。

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<SMC発サイエンス・アラート>

ナノ粒子を用いた土壌や水中の環境ホルモンの分解について

米MITのRobert Langer教授の研究チームは、紫外線照射によって水中や土壌に含まれるビスフェノール Aやトリクロサンといった化学物質を回収・分解できるナノ粒子についての研究成果を発表しました。環境中の有害な化学物質への曝露は様々な疾病リスクの上昇と関係しており、対策が検討されていたとのことです。ナノ粒子自体の人体への安全性も検証したと報告されています。論文は7月22日、Nature Communicationsに掲載されました。この件についての専門家コメントをお送りします。

【論文リンク】

Ferdinand Brandl, et al., 'Nanoparticles with photoinduced precipitation for the extraction of pollutants from water and soil’, published in Nature Communications, 21 July 2015.

http://www.nature.com/ncomms/2015/150721/ncomms8765/full/ncomms8765.html

 

遊佐 真一 准教授

兵庫県立大学 大学院工学研究科

近年、環境汚染の問題をナノテクノロジーで解決しようとする試みが行われています。特に、食品用の容器やCDの樹脂に含まれるビスフェノールAなどの環境ホルモンの回収・無害化を効果的に行う方法の開発に期待が寄せられています。例えば、特定の大きさの物質のみを通す選択膜による分離や、ナノ粒子に汚染物質を吸着する方法などが検討されています。ナノ粒子を用いて懸濁液中の有機物を光のエネルギーによって分解(光分解)し、その後、磁石で粒子を回収する方法が報告されていますが、有機物の分解に時間がかかることに加え、粒子自体が微生物によって分解されないことが問題となっています。

本研究では、紫外線を照射することで「分子中の特定部位」で結合が切れるように設計した化合物を合成しています。「水に親和する(親水性)ポリエチレングリコール(PEG)」と「親和しない(疎水性)ポリ乳酸(PLA)」を光で結合が切れる化合物でつなげて、両方の性質をもつ分子(ジブロック共重合体)を合成しました。水中では、疎水性のPLAが中心(コア)を形成し、親水性のPEGがその周囲を取り囲む構造の微粒子を形成し、紫外光照射により環境ホルモンなどの有害物質を無害化、回収できるとしています。このジブロック共重合体には毒性が無く、環境に優しい構造だということです。

この微粒子に紫外線を照射すると、溶液中にカルシウムイオンが含まれている場合にのみ粒子が沈殿します。このとき、溶液中にビスフェノールAなどの環境ホルモンが含まれると、PLAの疎水性によって効率良く沈殿させることができ、照射する紫外線による環境ホルモンの分解も確認できたとのことです。単純に環境ホルモンの水溶液に紫外線を照射するよりも、微粒子に環境ホルモンを吸着してから光分解する方が高効率との結果です。これは紫外線によってジブロック共重合部位が切れる際、不安定な状態の分子(ラジカル)が発生し、このラジカルが有機物の分解に寄与するためだと考えられます。本研究では、この光分解性ナノ粒子を用いることで、ゼブラフィッシュに対する環境ホルモンの影響を低減でき、さらに実際の汚染水や汚染土壌からの有機物の除去にも成功したとしています。

このようなナノ粒子を使った環境浄化は、紫外線などの光だけでなく、温度、イオン強度、pHなどを利用して行うこともできます。さらに生体内で分解するタイプのナノ粒子は、病気の診断や治療、食品、農業関連分野などにも応用可能だと考えられます。

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