2015827
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専門家コメント

国内で初めてジャガイモ害虫「ジャガイモシロシストセンチュウ」を確認

・これは、2015年8月24日にジャーナリスト向けに発行したサイエンス・アラートです。

・記事の引用は自由ですが、末尾の注意書きもご覧下さい。

<SMC発サイエンス・アラート>

国内で初めてジャガイモ害虫「ジャガイモシロシストセンチュウ」を確認:専門家コメント

8月19日に農林水産省は、北海道網走市内で、ジャガイモの生産に大きな被害を及ぼす重要病害虫「ジャガイモシロシストセンチュウ」を国内で初めて確認したと発表しました。このセンチュウはヨーロッパ、ロシア、南アメリカ、インド、カナダなどで確認されています。体長1.2ミリ程度で、ジャガイモなどナス科の植物の根に寄生し、栄養や水分を吸収する力を低下させて枯らしてしまいます。その結果、収穫量の大幅な減少を引き起こすとのことです。北海道は、発生範囲の特定とともに、土壌の移動防止などのまん延防止対策を徹底していくとしています。

この件についての専門家コメントをお送りします。

 

【農林水産省プレスリリース】

ジャガイモシロシストセンチュウの確認について

http://www.maff.go.jp/j/press/syouan/syokubo/150819.html

 

吉賀豊司 准教授

佐賀大学 農学部 線虫学分野

「ジャガイモシストセンチュウ」と「ジャガイモシロシストセンチュウ」は、国際的にも最も重要な害虫の一つです。これまで国内ではジャガイモシストセンチュウの発生は確認されていましたが、今回、ジャガイモシロシストセンチュウの発生が確認されたことで、国内でのジャガイモの安定生産に重大な影響を及ぼす可能性があると考えられます。具体的な対策としては、農水省のウェブサイトにあるような当面の対策を取るとともに、侵入経路の解明が重要です。加えて、抵抗性品種の育種も重要な対策だと思います。

同じ種の線虫であっても、病原性の異なるものが国外には存在しています。まだ日本国内で発生していない、異なる病原性をもつジャガイモシストセンチュウやジャガイモシロシストセンチュウを侵入させないために、今回のジャガイモシロシストセンチュウの侵入経路の特定と対策が必要です。また、一旦シストセンチュウが侵入すると、根絶は容易ではないので、今回検出されたジャガイモシロシストセンチュウの拡散状況や、拡散を防止する対策をとる必要があると思います。

また、これまでは、ジャガイモシストセンチュウに対する抵抗性品種の育種(望ましい遺伝的性質をもつように変化させること)が行われてきましたが、これらの品種はジャガイモシロシストセンチュウに対しては影響を受けやすいことが分かっています。今後も安定したジャガイモ生産を確保するためには、新たにジャガイモシロシストセンチュウに対する抵抗性品種の育種が必要となると考えます。

今回のジャガイモシロシストセンチュウの近縁種であるジャガイモシストセンチュウは、ペルーから輸入されたグアノと一緒に日本に侵入したと考えられています。一部の報道記事に、「北米や欧州などの発生地から土壌と一緒に入ってきた可能性が高いという」という文章がありますが、その根拠には疑問が残ります。また、メディアでは「ジャガイモやナスに寄生する」とされていますが、同じナス科ではジャガイモ以外ではトマトに被害がでています。トマトもナス科ですが、一般の認知度は低いと思われますので、「トマトにも寄生する」ということも書くべきだと思います。

 

*グアノ:海鳥類,コウモリ類,アザラシ類の糞が長期間堆積したもの。上質の有機肥料となる

 

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