201598
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専門家コメント

北アメリカと東アジアの厳冬は北極の温暖化と関連

・これは、2015年9月1日にジャーナリスト向けに発行したサイエンス・アラートです。

・記事の引用は自由ですが、末尾の注意書きもご覧下さい。

<SMC発サイエンス・アラート>

北アメリカと東アジアの厳冬は北極の温暖化と関連:専門家コメント

韓国、イギリスなどの研究チームは、北アメリカと東アジアでみられる厳冬傾向が、いずれも北極の温暖化と関連していると報告しました。これまでも、秋に北極海から海氷が失われることが、北半球の厳冬に結びつくとの説が議論されていました。論文は9月1日付けのNature Geoscienceに掲載されました。

本件についての海外専門家コメントをお送りします。

 

【論文】

Jong-Seong Kug, et al.,"Two distinct influences of Arctic warming on cold winters over North America and East Asia" , published in Nature Geoscience

http://nature.com/articles/doi:10.1038/ngeo2517

 

堀 正岳 研究員

国立研究開発法人 海洋研究開発機構 北極環境変動総合研究センター 北極環境・気候研究ユニット

北極の温暖化が進むと、我々が住む中緯度における寒冷な冬が増えるという、一見矛盾するような現象が近年注目を集めています。北極は北半球のなかでも温暖化が急速に進んでいる地域であり、これによって従来の高緯度と中緯度の大気状態の関係が変化してきていることが、国内研究者によっても指摘されています。

本研究は北極海を二つの領域に分け、バレンツ・カラ海の昇温がユーラシア大陸・東アジア領域の、東シベリア・チャクチ海の昇温が北米大陸上の寒冷な冬にそれぞれ対応していることを示しました。

また本研究では、大気海洋結合モデル(大気と海洋の相互作用を考慮に入れ、合わせて予測するモデル)を用いて、北緯70度以北の海面水温を気候値(長年の観測データの平均値)の状態に復元させる理想化実験を行い、北極の昇温に伴う中緯度の寒冷化の関係が維持されることを示しています。また、同様の関係を第5期結合モデル相互比較計画(CMIP5)*の39種類のモデル実験においても確認しています。

本研究の成果は、これまで指摘されていたバレンツ・カラ海と冬季東アジアモンスーンの関係に加え、チャクチ海と北米大陸上の寒冷化が関連するという地域による特性を明らかにしている点です。一方で、今後も北極の温暖化が進行することが予想されるなかで、このパターンが今後も維持されるのか、あるいは中緯度の温暖化が進行することで解消されてゆくのかについては研究が待たれます。

 

*結合モデル相互比較計画:観測データやモデル間の比較を通じて、モデルの性能の把握や信頼性評価を行う。CMIP5は近未来予測実験と長期予測実験からなる。

 

森 正人 特任助教

東京大学大気海洋研究所 気候システム研究系

北極海における急速な海氷の減少に伴い、冬の北極域では地球全体に比べて2倍以上の速さで温暖化が進んでいます(北極温暖化増幅現象)。一方、北半球の中緯度域では寒冬になることが最近増えており、北極の温暖化(あるいは海氷の減少)の影響で、中緯度域では逆に気温が下がる傾向にあることが指摘されていました。

本論文では、北極海のうちバレンツ・カラ海とチュクチ海の温暖化が、それぞれ個別に東アジアと北米に寒冬をもたらすことを観測データの解析や数値モデルを使った実験から示しました。バレンツ・カラ海の温暖化と東アジアの寒冬については、これまで示されてきた他の研究結果を支持するものですが、チュクチ海と北米の関係は今回はじめて示されたものです。それぞれの海域の温暖化はその上空に高気圧を、下流側には気圧の谷を伴っており、この気圧配置が東アジアならびに北米で寒冬になりやすい原因になっています。

一方で、両海域の温暖化あるいは海氷の減少とは無関係に、同じような気圧配置が大気の自然変動として現れることにも注意する必要があります。すなわち、今回示された関係が実際に観測された気温の低下分のうち、どの程度を説明するのかという定量的な見積もりが重要です。また、今後ますます地球温暖化が進行することが予想されています。それに伴い、今回示された関係がより顕著になっていくのか否かといった点も、今後明らかにしていく必要があると考えます。

 

猪上淳 准教授

国立極地研究所 国際北極環境研究センター

東アジアや北米が、近年厳冬傾向にあります。この傾向と北極海の海氷減少・温暖化の間に関係があるという科学的コンセンサスが、ここ5年程度の研究の進展によって徐々に得られてきました。しかし、各大陸上で観測される厳冬が同様のメカニズムで駆動されているかという点は議論が続いているところです。

本論文では、冬季北極上の温暖化が顕著な2つの海域に着目し(バレンツ・カラ海と東シベリア・チュクチ海)、そこの気温がそれぞれの風下側に位置するユーラシア大陸と北アメリカ大陸の冬季の気温と負の相関関係があることを示しています。つまり、北極が例年より暖かいと、中緯度大陸が例年より寒くなります。従来は夏から秋の海氷面積が重要な要素だと指摘されていましたが、この研究では冬季の北極の気温を取り上げています。そして、北極の正の気温偏差(気温の上昇)が大陸の負の気温偏差(気温の低下)に最大約2週間先行していることを見出し、北極の気温変化に伴って中緯度の気候も変化すると主張しています。この関係は第5期結合モデル相互比較計画(CMIP5)によるモデル出力とも同様の結果です。

一方、北極の気温や海氷面積の変化には、北大西洋や北太平洋など中緯度海洋の気候変化による遠隔応答が影響している可能性も指摘されています。北極から中緯度という一方向の影響だけではなく、中緯度から北極への影響も考慮した双方向の解析が、北極—中緯度リンクの因果関係を解明する鍵となるのではないでしょうか。

 

【過去の参考プレスリリース】

http://www.jamstec.go.jp/j/kids/press_release/20120201/

http://www.nipr.ac.jp/info/notice/20140816.html

http://www.nipr.ac.jp/info/notice/20141027.html

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