201664
各専門家のコメントは、その時点の情報に基づいています。
SMCで扱うトピックには、科学的な論争が継続中の問題も含まれます。
新規データの発表や議論の推移によって、専門家の意見が変化することもありえます。
記事の引用は自由ですが、末尾の注意書きもご覧下さい。

海外専門家コメント

携帯電話の高周波曝露と健康影響

・これは、2016年6月1日にジャーナリスト向けに発行したサイエンス・アラートです。

・記事の引用は自由ですが、末尾の注意書きもご覧下さい。

<海外SMC発サイエンス・アラート>

携帯電話の高周波曝露と健康影響:海外専門家コメント

米国の国立衛生研究所(NIH)は、携帯電話の電磁波を暴露させたラットを解析したところ、確率は低いものの、脳と心臓に腫瘍が発生したとする結果を発表しました。研究によると、曝露させた雄ラットの2〜3%にグリオーマとよばれる悪性の脳腫瘍が見つかり、曝露されていない対照群には見つからなかったとのことです。ただし、グリオーマの自然発生率は2%程度とされています。また、雌ラットには脳にも心臓にも影響は見られず、曝露されたラットの生存率は対照群に比べてオスもメスも高かったとのことです。

著者らは、今回、見つかった悪性腫瘍は携帯電話の高周波暴露についての疫学研究結果と類似しており、これらの結果は携帯電話を発がんリスクのあるものと分類しているIARCの立場を擁護するものであるとしています。本研究は、ラットおよびマウスを用いた携帯電話の高周波曝露に関するNIHの毒性プログラム(NTP)の一部であり、2017年に完成版の報告書が発行される予定です。論文は5月27日、bioRxivに掲載されました。この件についての海外専門家コメントをお送りします。

翻訳は迅速さを優先しております。ご利用の際には必ず原文をご確認ください。

 

【報告書】

Report of Partial findings from the National Toxicology Program Carcinogenesis Studies of Cell Phone Radiofrequency Radiation in Hsd: Sprague Dawley® SD rats (Whole Body Exposure), bioRxiv 055699

http://biorxiv.org/content/early/2016/05/26/055699.full.pdf+html 

Dr Rodney Croft

Director of the Australian Centre for Electromagnetic Bioeffects Research, an NHMRC Centre of Research Excellence at the University of Wollongong

高周波の健康影響に関する研究としては重要だと思いますが、査読者によるいくつかのコメントや付録Gに対する詳細な検討がなされておらず、その点が残念です。具体的には、高周波曝露されたラットが対照群に比べて長命だった理由(一般には悪性腫瘍の発生増加は寿命を縮めると考えられる)、対照群に全く発がんが認められなかった点(通常はありえない)、線量とその影響に相関がみられず結果の信頼性が低い点(単なる偶然の結果にすぎない可能性もある)などが詳細に検討されていません。

今回の結果は、自然界でみられるヒトの発がん率とも、人工的に曝露レベルを高くした多くの実験的研究結果とも一致していません。つまり、今回の報告では、携帯電話による高周波曝露が健康に影響を与えないとする意見を覆すことはできないでしょう。

原文

" The National Toxicology Program (NTP) study addressed a range of important health-related endpoints in rats and mice and is an important contribution to the radiofrequency (RF) emission health debate.

Unfortunately there is not sufficient detail in the present report to evaluate it fully, particularly given a number of criticisms by the reviewers (and described in Appendix G of the report). Of particular note is that the rats treated with RF lived longer than the controls (which is counter intuitive given that the increased tumour rates normally lead to reduced lifespan), the controls did not have ‘any’ tumours (which is also not what is normally found), and the lack of clear dose-response relationships raises the possibility that the results may merely be ‘false positives’ (particularly given the large number of statistical comparisons, the one significant result would appear consistent with chance).

It is also noteworthy that the results do not appear consistent with the cancer rates within the human population, nor with the majority of other experimental research, even at the very high exposure levels, which are many times higher than humans are exposed to.

The NTP study will thus need to be fully evaluated once further details become available, and considered within the context of RF emissions science as a whole. At present though, and particularly given a range of uncertainties regarding its results, the NTP report does not provide reason to move from the current scientific consensus that mobile phone-like exposure does not impact health.”

 
 

記事のご利用にあたって

マスメディア、ウェブを問わず、科学の問題を社会で議論するために継続して
メディアを利用して活動されているジャーナリストの方、本情報をぜひご利用下さい。
「サイエンス・アラート」「ホット・トピック」のコンセプトに関してはコチラをご覧下さい。

記事の更新や各種SMCからのお知らせをメール配信しています。

サイエンス・メディア・センターでは、このような情報をメールで直接お送りいたします。ご希望の方は、下記リンクからご登録ください。(登録は手動のため、反映に時間がかかります。また、上記下線条件に鑑み、広義の「ジャーナリスト」と考えられない方は、登録をお断りすることもありますが御了承下さい。ただし、今回の緊急時に際しては、このようにサイトでも全ての情報を公開していきます)【メディア関係者データベースへの登録】 http://smc-japan.org/?page_id=588

記事について

○ 私的/商業利用を問わず、記事の引用(二次利用)は自由です。ただし「ジャーナリストが社会に論を問うための情報ソース」であることを尊重してください(アフィリエイト目的の、記事丸ごとの転載などはお控え下さい)。

○ 二次利用の際にクレジットを入れて頂ける場合(任意)は、下記のいずれかの形式でお願いします:
・一般社団法人サイエンス・メディア・センター ・(社)サイエンス・メディア・センター
・(社)SMC  ・SMC-Japan.org

○ この情報は適宜訂正・更新を行います。ウェブで情報を掲載・利用する場合は、読者が最新情報を確認できるようにリンクをお願いします。

お問い合わせ先

○この記事についての問い合わせは「御意見・お問い合わせ」のフォーム、あるいは下記連絡先からお寄せ下さい:
一般社団法人 サイエンス・メディア・センター(日本) Tel/Fax: 03-3202-2514

専門家によるこの記事へのコメント

この記事に関するコメントの募集は現在行っておりません。