2011年4月5日

低線量被ばくの人体への影響について:近藤誠・慶応大

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Ver.1.1 (110405-17:12 Updated 110405-23:56)

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近藤誠(こんどう・まこと)

慶応義塾大学医学部放射線科講師

1948年生まれ。東京都出身。慶應義塾大学医学部卒。患者の権利法を作る会、医療事故調査会の世話人をつとめる。

 

 テレビや新聞で報道されている被ばくに関する専門家のコメントに100ミリシーベルトを基準として「これ以下の被ばくは問題ない」とするものが多々見受けられますが、この表現には問題があるので、指摘します。

「広島、長崎のデータなどから100ミリシーベルト以下では人体への悪影響がないことは分かっています」という記事がありました。

 確かに100ミリシーベルト以下の被ばくでは火傷のような急性症状は出ません。急性症状について言っているなら妥当な表現です。

 しかし、広島、長崎で被爆した人の追跡調査では50ミリシーベルト以下の低線量被ばくでも発がんによる死亡増加を示唆する研究結果があります。[文献1]

 放射線はわずかな線量でも、確率的に健康に影響を与える可能性があります。

 低線量被ばくについては、日本を含む世界15カ国で40万人の原子力施設作業員の調査をしたレポートがありますが、これによると、被ばく量が50ミリシーベルト以下でも発がん率は上昇しています。[文献2]

 また被ばく量が1シーベルト上がるごとに、がんによる相対過剰死亡数が率にして0.97(97 %)増える計算です。相対過剰死亡率の計算は若干難しいので、結果だけ示しますと、死亡統計により国民死亡の30 %ががんによる日本では、10ミリシーベルトを被ばくすれば、がんの死亡率は30.3 %、100ミリシーベルトの被ばくでは33 %になります。

 100ミリシーベルト以下は安全だとする説は、ここ数年でほぼ間違いだとされるようになっています。

 人間は放射線被ばくだけで発がんするわけではありません。

 私は、「発がんバケツ」という考え方をします。それぞれの人が容量に個人差のある発がんバケツを持っています。放射線だけでなく、タバコや農薬など、いろんな発がんの原因があり、それがバケツにだんだんとたまっていき、いっぱいになってあふれると発がんすると考えます。

 ある人のバケツが今どのくらい発がんの原因で満たされていたかで、今回被ばくした量が同じでも、発がんする、しないに違いがでます。ですから、放射線量による発がんの基準値を決めるのは難しいのです。

 たばこを吸う本数による発がんリスクも、吸う本数や年齢、吸ってきた年月により変わり、計算が難しい。ですから、放射線被ばくのリスクと喫煙による発がんのリスクを比較してより安全だということに疑問を感じます。

 同じ記事中に

「100ミリシーベルトを被ばくしても、がんの危険性は0.5 %高くなるだけです。そもそも、日本は世界一のがん大国です。2人に1人が、がんになります。つまり、もともとある50 %の危険性が、100ミリシーベルトの被ばくによって、50.5 %になるということです。たばこを吸う方が、よほど危険と言えます」とあります。

 0.5 %という数字は、国際放射線防護委員会(ICRP)の2007年の勧告中にある、1シーベルトあたりの危険率(5 %)に由来していると思います。つまり1シーベルトで5 %ならば、その10分の1の100ミリシーベルトならば、危険率は0.5%になるというわけです。しかし、この数字は発がんリスク(がんになるリスク)ではなく、がんで死ぬリスクです。ここでは、2人に1人ががんになるというのは発がんの確率ですから、ここに、危険率(がんで死ぬリスク)の0.5 %をプラスしているのは、発がんリスクとがん死亡のリスクを混同していると考えられます。

 リスクを混同している上に、喫煙量も明示せずにたばこの方が危険と言っている。

 メディアの方は、こういう乱暴な議論に気をつけ、科学的な根拠の誤用に気をつけていただきたいと思います。

 

参考文献

文献1:Brenner DJ, Doll R, Goodhead DT., et al. "Cancer risks attributable to low doses of ionizing radiation: assessing what we really know." Proc Natl Acad Sci U S A. (2003) Nov 25;100(24):13761-6.【PubMed

文献2:Cardis E, Vrijheid M. Blettner M., et al. "Risk of cancer after low doses of ionising radiation: retrospective cohort study in 15 countries." BMJ (2005) 9;331(7508): 77【PubMed

 

【関連記事:放射線被ばくに関して:近藤誠・慶応大

他関連文献: Shuryak I, Sachs RK, Brenner DJ. "Cancer risks after radiation exposure in middle age." J Natl Cancer Inst. (2010) Nov 3;102(21):1628-36. 【PubMed

4/6-23:56 SMC追記:文献1として謝って別の文献を掲載しておりました。お詫びと共に差し替えましたことをここに記録致します。

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「低線量被ばくの人体への影響について:近藤誠・慶応大」への22件のフィードバック

  1. >確か酪農家の方で牛のミルクは大丈夫でしょうかと尋ねました。するとその先生は全く問題はない、子供にもどんどん飲ませないと言いました。
    そのラジオを聴いていないので良く分かりませんが、福島でも西側なら放射線量が首都圏以下のところもありますし、大丈夫なところもあるでしょうね
    福島で取れる牛乳が全て安全だ、と言ったのですか?

  2. ピンバック: 近藤誠さんの見解 « ARecoNote3

  3. 「また被ばく量が1シーベルト上がるごとに、がんによる相対過剰死亡数が率にして0.97(97 %)増える計算です。」って、あってますか?

    10シーベルト上がったら死んじゃうと思うのですが、がんになる前に死ぬという考え方でしょうか。

    #引用記事はこちら
    http://blog.livedoor.jp/buu2/archives/51246150.html

  4. ピンバック: 【政治】 「ただちに影響ない」「ただちに影響ない」と繰り返す枝野長官の説明に疑問…根拠示した説明を | 2chまとめ速報-news

  5. 近藤先生、初めまして。今回の原発事故の件で色々とネットで検索しています。近藤先生のコメントは大変判り易い説明です。私は反原発団体の人間ではありませんがチェルノブイルの事故の時に放射能はとても怖いと思いました。ユーストリームでテレビでは流されない東電の会見、又はフリージャーナリストの方のニュース等を見たり聴いたりしています。その中で一番驚いたのがある日聴いた福島のラジオ局で放送していた番組です。お名前は忘れましたがどこかの大学の先生を招いて県民達との質疑応答です。集まった人々は当然ながら放射能の被曝の事を聞きます。ある男性が確か酪農家の方で牛のミルクは大丈夫でしょうかと尋ねました。するとその先生は全く問題はない、子供にもどんどん飲ませないと言いました。私は素人ながらにも驚いてしまいました。一番危険な区域に住んでいる方にどうしてそんな安易な事が言えるでしょうか。心の中であなたはもし子供達が将来何かあった時責任がとれるのですかと叫びたくなりました。テレビに出てくる方々は口々に安心だと言います。でもここまで来るとみんな気づいています、、。正直、呆れて何も言えないです。私には子供はいませんが家族のような猫がいます。動物だって生き物です。そして私達より体は小さいです。認知症の母もいます。(妹と介護をしています)近藤先生のような方がもっと発言できる場があればいいと心から思いました。ありがとうございます。

    追記 縁があって我が家は慶応病院にお世話になっています。3月11日は母の検査で慶応病院にいました。帰宅する事ができず慶応病院で一夜を明かしました。スタッフの方々が頑張ってくれました。感謝しています。

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