2011年3月22日

放射性物質の影響:山下俊一・長崎大教授

各専門家のコメントは、その時点の情報に基づいています。SMCで扱うトピックには、科学的な論争が継続中の問題も含まれます。新規データの発表や議論の推移によって、専門家の意見が変化することもありえます。記事の引用は自由ですが、末尾の注意書きもご覧下さい。

Ver.1.0 (110322-13:51 Updated: 110324-13:14)

記事の引用・転載(二次使用)は自由ですが、末尾の注意書きもご覧下さい。

※あくまでコメント時の状況に基づいています。ご注意下さい。

 

山下 俊一(やました・しゅんいち)教授

長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科 附属原爆後障害医療研究施設 教授
 世界保健機関(WHO)緊急被曝(ひばく)医療協力研究センター長
 日本甲状腺学会理事長
 ※現在、福島県知事の要請で、放射線健康リスク管理アドバイザーとして現地の被ばく医療に従事している。

退避の初動について

 最初の1週間、想定外の事象が連続し、情報交換がなかなかうまくいかず、諸対応に遅れが出たことが残念です。国の行った住民避難の方法が通常と違い、事の重大さがまず理解されました。通常は事故サイトから10キロが緊急避難範囲と想定されていました。まず屋内退避の勧告を出し、環境中の放射線量が下がらないときに避難勧告を出します。今回は、20キロ圏内から避難させた後、さらに30キロ圏内で屋内退避の勧告がでました。安全な所まで下がったのであれば、そこでさらに屋内退避というのがおかしいのです。

 今回は、次々に原子炉のトラブルが発生し、未曾有の事態です。放射性物質が断続的に出続けています。放出されている放射性物質は複数あり、それぞれ放出量も違います。測定モニタリングを続け、30キロ圏内の屋内退避が間違っていないかも検討していかなくてはなりません。

 

放射性物質の影響をチェルノブイリと比較して

 放射性物質はいたる所に降り注いでいます。一方で、放射性物資はトレーサーと呼ばれるように非常に検出され易い物質であり鋭敏な値を出します。現在検出されている量が即、健康に影響があるわけでないことは明らかです。

 チェルノブイリの原発事故をフィリピンのピナツボ火山の噴火と考えると、今回の事故は、普賢岳や新燃岳の噴火に例えられます。どちらも、近くにいると、火山灰や火山流でやけどしたり命の危険がありますが、遠く離れれば被害は減るというところで共通します。違いは、ピナツボ火山の影響は地球上の広範囲に広がったのに対して、普賢岳や新燃岳の噴火の影響が及ぶ範囲は狭いという所です。

 福島第一原発から20km離れると、火山の噴出物が灰になるように、放射性物質の影響も弱まります。これまでに放出されている放射性物質は、拡散し薄まり、量がどんどん減っていきます。体についても洗い流せば大丈夫です。微量でも被ばくすれば危ないというのは、間違いです。

現状の環境における発がん率

 人体にも通常、放射性カリウムなど1000ベクレル〜5000ベクレルの放射性物質があります。またラドン温泉などに行けば、当然ラドンを吸い込みます。これらの放射性物質は量が少なければ(10〜500μSv)比較的短い間では問題ありません。

 今回ほうれん草や牛乳から規定値を超えるヨウ素131やセシウムが検出されていますが、1回や2回食べても問題ありません。またヨウ素131は半減期が8日と短くすぐに影響が落ちていきます。

 1度に100mSv以上の放射線を浴びるとがんになる確率が少し増えますが、これを50mSvまでに抑えれば大丈夫と言われています。原発の作業員の安全被ばく制限が年間に50mSvに抑えてあるのもより安全域を考えてのことです。

 放射線を被ばくをして一般の人が恐れるのは将来がんになるかもしれないということです。そこで、もし仮に100人の人が一度に100msvを浴びると、がんになる人が一生涯のうちに一人か二人増えます(日本人の3人に一人はがんで亡くなります)。ですから、現状ではがんになる人が目に見えて増えるというようなことはあり得ません。

一般のかたの心配について

 原発から10kmから20kmの圏内にいて避難した人は、放射線量で1mSv程度浴びたかもしれないが、健康に与える影響は、数μSvも100mSvも変わりがない、すなわちがんの増加頻度に差がないのです。

 また、1mSvずつ100回すなわち累積として100mSv浴びるのと、一回に100mSv浴びるのでは影響は全く違います。被ばくについて心配しなくてはいけないのは、福島第一原発の中で働いている人たちです。彼らは、被ばくを避けながら決死の覚悟で働いています。彼らの健康をいかに守るかを考えていかなければなりません。一般の人は、まったく心配いりません。

 低い放射線被ばく線量の健康に与える影響は証明することができないと言われています。そこから、「証明できないがゼロと言えない」→「わからないから心配」と考えるかもしれませんが、これは間違いです。放射能は目に見えないし匂いもしないから不安ですが、科学の力で数値化することができます。被害を防ぐための一つの手段が「測る」ということです。パニックになってはいけません。社会の一員として理性ある行動をお願いします。

今後心配していることとお願い

 放射性物質が広範囲に飛び散っているので、今後食物連鎖を通じて、汚染された食べ物が市場に出るのが困ります。まずは、どの地域でどういう汚染がでているのかモニタリングし、データをきちんと出すことが必要です。それらを照らし合わせて、食べたときの被ばく線量を推定し、1年間に数十mSv〜100msvに近づくようであれば、規制が必要になります。

 食の安全に厳しい日本では監視体制が強化されると思いますが、逆に規制が風評被害を及ぼさない配慮が必要になります。福島県民が背負った震災、津波、そして原子力災害という三重苦に対して、また東日本を襲った国家存亡の非常事態にすべからく国民がその重荷を分担する覚悟が今こそ必要であり、そのことが古来山紫水明の山島と呼ばれた大和の国の“和”を大切にパニックならず落ち着いて行動する日本の誇るべき文化ではないでしょうか。

 

【参考】

山下先生が3月21日に福島市で公演された内容が、有志により全文起こしされています(外部リンク):

2011年3月21日14時- 山下俊一氏・高村昇氏「放射線と私たちの健康との関係」講演会

2011年3月21日14時- 山下俊一氏・高村昇氏「放射線と私たちの健康との関係」質疑応答

 

【ノート】

・ SMCからの「サイエンス・アラート」は、科学技術の関わる社会問題に関し、専門家の知見を素早く伝えることを目的にしています。

 マスメディア、ウェブを問わず、科学の問題を社会で議論するために継続してメディアを利用して活動されているジャーナリストの方、ぜひご利用下さい。

・ サイエンス・メディア・センターでは、このような情報をメールで直接お送りいたします。ご希望の方は、下記リンクからご登録ください。

(登録は手動のため、反映に時間がかかります。また、上記下線条件に鑑み、広義の「ジャーナリスト」と考えられない方は、登録をお断りすることもありますが御了承下さい。ただし、今回の緊急時に際しては、このようにサイトでも全ての情報を公開していきますので御安心下さい)

  【メディア関係者データベースへの登録】 https://smc-japan.org/?page_id=588 
 

【記事について】

○ 私的/商業利用を問わず、記事の引用・転載(二次利用)は自由です。

○ 二次利用の際にクレジットを入れて頂ける場合(任意)は、下記のいずれかの形式でお願いします:

・一般社団法人サイエンス・メディア・センター

・(社)サイエンス・メディア・センター

・(社)SMC

・SMC-Japan.org

○ リンクを貼って頂ける場合は http://www.smc-japan.org にお願いします。

【お問い合わせ先】

○この記事についての問い合わせは下記まで:

  一般社団法人 サイエンス・メディア・センター(日本)

  Tel/Fax: 03-3202-2514

  E-mail: inquiry[at]smc-japan.org

 

記事のご利用にあたって

マスメディア、ウェブを問わず、科学の問題を社会で議論するために継続して
メディアを利用して活動されているジャーナリストの方、本情報をぜひご利用下さい。
「Expert Reaction 専門家コメント」「ホット・トピック」のコンセプトに関してはコチラをご覧下さい。

記事の更新や各種SMCからのお知らせをメール配信しています。

サイエンス・メディア・センターでは、このような情報をメールで直接お送りいたします。ご希望の方は、下記リンクからご登録ください。(登録は手動のため、反映に時間がかかります。また、上記下線条件に鑑み、広義の「ジャーナリスト」と考えられない方は、登録をお断りすることもありますが御了承下さい。ただし、今回の緊急時に際しては、このようにサイトでも全ての情報を公開していきます)
メディア関係者データベースへの登録

記事について

○ 私的/商業利用を問わず、記事の引用(二次利用)は自由です。ただし「ジャーナリストが社会に論を問うための情報ソース」であることを尊重してください(アフィリエイト目的の、記事丸ごとの転載などはお控え下さい)。

○ 二次利用の際にクレジットを入れて頂ける場合(任意)は、下記のいずれかの形式でお願いします:
・一般社団法人サイエンス・メディア・センター ・(社)サイエンス・メディア・センター
・(社)SMC  ・SMC-Japan.org

○ この情報は適宜訂正・更新を行います。ウェブで情報を掲載・利用する場合は、読者が最新情報を確認できるようにリンクをお願いします。

お問い合わせ先

○この記事についての問い合わせは「御意見・お問い合わせ」のフォーム、あるいは下記連絡先からお寄せ下さい:
一般社団法人 サイエンス・メディア・センター(日本) Tel/Fax: 03-3202-2514

「放射性物質の影響:山下俊一・長崎大教授」への57件のフィードバック

  1. 現場を考える者

    確かに、学術的に上の方の言われることは正しいと思う。
    法律及び委員会の結論は1mSVなのであろう。この事態にあたって、それを100mSVに引き上げるのは、机上ではどう考えても暴論である。
    では、今の原発事故を誰がどのように止めるのか聞きたい。
    現在の現場で1mSVなど、数秒の作業時間しか取れ無い、これでは実質作業不能である。
    作業ができなければ、事態はこのまま維持されるか、悪化する。
    我々は、この事態に机上の正論に従って、指を咥えてみているわけにはいかないのだ。
    『今は、この事態の一刻も早い鎮圧・放射能の封じ込めが最優先である。』
    この一点について同意できるのであれば、冷静に学術・理論を振るうべきである。
    ましてや、委員会の内輪ネタなど、無用の長物であることを心得られよ。

  2. ピンバック: » 放射線について正しい情報を 明かり新聞

  3. あなたの指導を受ける福島の方たちは本当に大丈夫なのか心配になります。
    国民を騙して安心させるのでなく、今でも3人のうち1人癌で死ぬのだから、3人で2人になってもたいしたことではないと、なぜ言えるのか、その根拠が欲しい。300人のうち100人が300人のうち200人、3万のうち2万人がなくなる。その2万人がすべて福島にしわ寄せされるとは考えないのでしょうか。率直にいって、信用できるとは思えません。

    1. >今でも3人のうち1人癌で死ぬのだから、3人で2人になってもたいしたことではないと、なぜ言えるのか

      不安な気持ちは分かりますし、私も不安ですがお話は落ち着いて聞きましょう。
      現在、100人中33人が癌で亡くなっているものが34人もしくは35人になるというお話ではないでしょうか?
      まあそれでも「なら一安心」とは言えませんけど。

      1. >現在、100人中33人が癌で亡くなっているものが34人もしくは35人になるというお話ではないでしょうか?

        放射線でガンになるのは、10年から20年後です。
        自然にガンになって亡くなるのは、大体60以降ですよね。
        年寄りの100人中33人が癌で亡くなっているものが
        34人もしくは35人になるのは大したことはないと私も思います。

        しかし、子供の事を考えてみてください。とても問題だと理解できるはずです。
        普通、子供は、10年から20年後に、20歳から30歳で、100人中33人が癌で亡くなったりしませんが、被爆の場合、100人中、0.5人から1人がガンにかかるわけです。
        福島県に、乳幼児から中高校生、何人いるか知りませんが、
        仮に、10万人いて、1年間に、100ミリシーベルト放射線を受けたとして、
        本来ほとんどがんにならない青年たちの集団から、
        癌患者が500から1000人発生すると言うレベルです。

        しかも、これは、今年受けた放射線からの影響の話です。
        セシュウムの半減期が30年と言われていますので、
        現在の土壌から受けている放射線量は、来年もあまり下がらないでしょう。

        あと30年くらいしか生きられない人には大した問題ではありませんが、
        子供たちにとっては非常に大きな問題なのです。
        なので、放射線の基準値は、子供は、大人の2分の1~3分の1にすべきなのです。
        現在、そのようにされていないのが、非常に残念です。

  4. わたくしのスタンスは「これまで長い間議論を重ねて決めてきた放射線の安全基準とか法律を、事故が起こったから議論なしに変える」というのは危険であるということです。わたくしにも自分の意見がありますが全く触れていません. つまり現在のような危険なときに、これまでの基準値を決める委員会で通らなかったような学説を唱えるのはあまり良くないと思うからです。この先生の主張が法律とかなりかけ離れているならば、その先生が「基準値を決める委員会に出席されてないか」、それとも「委員会でご意見が通らなかったのか」のどちらかだと思います。いずれにしても、長く使ってきた我々の放射線障害に関する法律の値と異なることを言われる場合には、なぜ法律に自分のご意見が入っていないのかということもお話にならなければいけないと思っています。

    福島原発で放射性物質が漏れたとき、一般人が1年間に被曝しても大丈夫な量は、
    (法律と私) 1ミリシーベルト
    (解説者) 100ミリシーベルト
    参考;(政府)「直ちに健康に影響はない」

コメントは受け付けていません。