原発・放射性物質に関して:英国SMC発・専門家コメント[3/17到着分]
Ver.1.0 (Updated: 110319-17:45)
これは英国SMC(Science Media Centre, UK)によるサイエンス・アラートの翻訳です。
※あくまで、コメント時にそれぞれの専門家が把握していた状況に基づいています。ご注意下さい。
記事の引用・転載(二次使用)は自由ですが、末尾の注意書きもご覧下さい。
<海外より・英国SMC発 サイエンス・アラート>
原子炉・放射線に関する海外専門家コメント
今回の災害に関して、英国SMCが収集した専門家コメントをお送りします。
日本時間3/17-23:56にこちらに到着したもので、それまでの情報に基づいた専門家コメントであることにはご注意下さい。
Q福島第一原発で作業員が完全に退避する必要があるほどに放射線レベルが上昇した場合、どのような事態が起こるのでしょうか?
トニー・ラウルストーン
ケンブリッジ大学工学部コースディレクター(専門:原子力エネルギー)
「[放射線]レベルが1000ミリシーベルトだったので、人々が退避したことは納得できます。現在の放射線レベルはこれよりもかなり低いところを上下しており、東京電力は、この深刻な事態において、従業員の被曝やリスクを取り扱っています。現在行われている海水による1、2、3号機の冷却は、おそらく効果的ではありますが、応急処置のようなものなので、モニタリングとマネジメントが必要です。このまま作業員が現在の処置を続けた場合、核分裂生成物の自然減少(崩壊)によって炉心の温度は下がるでしょう。現在の核分裂生成物の熱は炉心時の三百分の一であり、下がりつつあります。月曜日に2号機では冷却の中断がありましたが、冷却を続けることがまず第一です。」
バリー・マースデン
マンチェスター大学教授(専門:原子力用黒鉛)
「放射線の照射の強度によって修復活動が行えなくなることはありません。物事を困難にし、リスク管理の複雑さや、かかる時間は増えるでしょうが、それだけのことです。
「福島第一原発の六基の原子炉は、1970年から1979年の間に運転を開始しました。1号機が460MW(t)、2〜5号機で784MW(t)、そして6号機の1100MW(t)です。
「これらの原子炉は、『アクティブ』バックアップシステムが作動するように設計されています。沸騰水型原子炉には、[原子炉から]格納容器内に流出した蒸気を圧力抑制プールに引き込み、そこで蒸気を圧縮して圧力を下げるものがありますが、アクティブバックアップシステムは、停電時に緊急用冷却システムのポンプを作動させるようになっています。津波により、適切な冷却を行うための電力が損なわれました。また、この停電によって発電所の様々な部分のモニタリング機能も部分的に失われたようです。これからの原子炉は、電力の供給無しに原子炉の停止および燃料の冷却を行うことができる『パッシブ』安全システムを組み込んで設計されるようになるでしょう。
「福島第一原発において問題だったのは、原子炉自体ではなく、予備冷却システムの脆弱性と、発電所への緊急用電力の迅速な供給の難しさでした。
「[福島原発においては]チェルノブイリのような壊滅的な爆発がなかったので、放射性物質の飛散は発電所の近辺に限られていると考えられるため、現状の避難地域となりました。」
ジム・スミス
ポーツマス大学准教授(専門:環境物理学)
「これは悪夢のような状況に成り得るでしょう。 重量物搬送用のヘリコプターの操縦席を鉛で保護し、発電所に水を投下するという手が使えるかもしれません。[発電所から出ている]ガンマ線のエネルギーによりますが、被曝を半分にするためには1cmほどの厚さの鉛が必要となります。ですから、例えば5cmの厚さの遮蔽板なら被曝を三十分の一に減らすことができます。言うまでもなくこの場合の問題は、鉛は重いため、運べる水の量が減ってしまうということです。もしくは、遠隔操作が可能な装置を使うことも可能かもしれませんが、チェルノブイリで試行されたときは、放射線場が強すぎたために失敗に終わりました。」
放射性物質による汚染の予測について
ジム・スミス
ポーツマス大学准教授(専門:環境物理学)
「煙流の形態は、その物質が到達する高度に依存しており、これは、損傷した燃料の温度とおよび天候に左右されます。チェルノブイリの時、揮発性の高い放射性セシウムや放射性ヨウ素は、ヨーロッパ中に広がりました。それほど揮発性の高くないストロンチウム90やプルトニウム(これらは原子炉内の微量物質などです)は熱された微細粒子となって放出され、その多くは発電所から10km以内の地域に堆積しました。
「放射性核種が地上に落ちる際、雨は重要な要素です。日本は、リアルタイムで煙流(例えば核燃料中の全てのヨウ素131の損失)の拡散を予測する非常用モデルを準備すべきです。もしもそれが今あるなら公開すべきです。煙流が東京に及んで強い放射線が検出されるようなことがあれば驚きですが、これは煙流拡散のモデリングによって裏付ける必要があります。
トニー・ラウルストーン
ケンブリッジ大学工学部コースディレクター(専門:原子力エネルギー)
「放射線について人々が心配していることがどういうものであるかは分かります。放射線は目に見えず、何かよくわからないけれども恐ろしい力を持っている、というものです。もう一つの問題は、ありとあらゆるコメントや情報の氾濫のせいで膨れ上がった事故に対する不安が、迅速に解消されそうにないことです。放射線は、測定が簡単であり、人の健康に有意に影響を与えるよりもずっと低いレベルであっても測定できます。
「東京については、放射線レベルがおよそ毎時1/2〜1マイクロシーベルト程度上昇したということが報告されています。これは、地質の異なる地域間でみられる自然放射線の変動のようなものです。このレベル[の放射線強度の変化]は、注意すべき値かもしれませんが、有意なものではありません。
「最後に、この分野の国際的な専門家によると、 放射性汚染物質を広範囲に拡散させるだけのエネルギーが炉心にはないため、最悪な結果となった場合であっても、日本政府の避難地域の設定は適切であるということです。
福島原発からの放射線・放射性物質の拡散について
ジョン・ベディントン卿/イギリス政府最高科学顧問
(在日イギリス大使館との談話から)
「最悪な事態として妥当な線についてお話しましょう。もしも原子炉の冷却に失敗し、格納容器内の圧力を適切に保てなかった場合、『 メルトダウン』ということになります。しかし、これはいったいどういうことなのか。メルトダウンが起きると、炉心が溶融し、核物質が格納容器の底に流出します。融けた炉心はコンクリートや他の物質に到達します。これが、最悪の事態として妥当なものであり、これ以上に悪い事態が起きるとは考えていません。この場合、爆発が起こります。いくつかの放射性物質は大気中を500m程度の高さまで上昇します。
「これは非常に深刻な事態ではありますが、ただし、あくまで[原発の]周辺の地域に限ってのことです。それ以外の地域の住民に対しては、仮に二つ以上の爆発が起こったとしても深刻なものではなく、放射性物質が500mの高さまで上がるだけです。もしもこの爆発が、想定しうる最悪な気象状況(つまり、放射性物質が東京に運ばれ、雨によって地上に降り落ちるような気象)と組合わさった場合、問題となるでしょうか。答えははっきりとノーです。全く問題ありません。問題が起こるのは原子炉から30km以内の地域だけです。
「分かりやすい例を挙げましょう。チェルノブイリ事故において黒鉛炉心graphite coreで大火事があったとき、[放射性]物質は500mどころか、30000フィート[およそ9144m]の高度に達しました。火事は短時間ではなく数ヶ月にわたって続き、そのために放射性物質は上層大気圏に非常に長い期間にわたってとどまりました。しかし、チェルノブイリのような場合であっても、避難地域はおよそ30km圏でした。そして、この避難地域の内外の両方において、人々が放射線によって何らかの害を被ったという証拠はありません。
「チェルノブイリの場合の問題は、人々が水を飲んだり野菜を食べたりといったことを[事故後も]続けたことで、そこから問題が生じました。このようなことは今回の場合には起こりません。そういうわけで、私がここで再度強調したいのは、現在の状況は、原発の直近の地域の人々や、そこで作業している人々にとっては、非常に大きな問題だということです。20〜30km圏の外側では、健康への問題は全くありません。」
マルコム・ジョイス /ランカスター大学教授(専門:原子力工学)
「汚染物質の空気中の拡散は均等ではなく、その輸送メカニズムに左右されます。つまり、煙としてなのか、又は蒸気としてなのか、拡散時に汚染物質がどの高度まで到達しているか、汚染が広がる時間はどれぐらいか、といったことです。これらは、ジョン・ベディントン氏が今週コメントしていたように、今回の事故とチェルノブイリの間の重要な違いです。放射性物質は煙流として、そしておそらく涙滴状に拡散していくのではと考えますが、これはもちろん卓越風に大きく依存します。卓越風は現在のところ、東京からは離れています。煙流の動態については、しっかりとしたモデルによって予測できます。
「放射線源として、まず第一にガンマ照射が挙げられますが。これは、溶解性の核分裂生成物であるセシウム137や放射性希ガスから生じるとだろうと考えられます。これらの物質は飛散の仕方に大きく影響されるため、その強度は下がります。卓越風の方向や今回の事故の規模(チェルノブイリよりずっと小さい)を考慮すると、煙流が200km離れた東京まで移動するというのは考えにくいですが、その場合は、非常に崩壊の早いヨウ素同位体の堆積および経口摂取に関係した問題が生じ得ます。」
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