2011322
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大地震後の東電福島第一原子力発電所の状況(推定):岡芳明・早大教授[3/22版]

 

Ver.1.0 (110322-13:36)

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大地震後の東電福島第一原子力発電所の状況(推定)[3/22更新版]

※日本時間3月21日午後5時までの情報による

岡 芳明 教授(早稲田大学共同原子力専攻

米国原子力学会理事、日本原子力学会会長などを歴任。 東京大学名誉教授。

専門分野:原子炉設計工学、原子炉物理学 等

 

経緯の整理

1. 地震により原子炉は自動停止。発電所外からの送電が停止(外部電源喪失)。非常用ディーゼル発電機(DG)が作動。非常用原子炉冷却系も作動した。

2. その約1時間後に襲った大津波により冷却用海水取入れ系統(ポンプなど)が損傷あるいは電気絶縁不良が発生して、最終的な放熱先である海水へ放熱方法が失われた(最終ヒートシンク喪失)。設計基準を超える過酷事故と呼ぶ事故が生じた。DGは運転に伴う発熱の除熱ができないので停止した。非常用冷却系も除熱先がないので長くは運転できなかった。最終的な放熱先がないので燃料の放射能から出る停止後の発熱(崩壊熱)により原子炉の水の温度と圧力が上がり、原子炉容器の水位が下がり始めた。交流電源喪失と最終ヒートシンク喪失はどの原子炉にも共通(共通要因故障)なので、1-4号基が次々危機に陥った。なお5,6号機は非常用DGが動きつづけ電気を供給し冷却することが可能だったので危機にはならなかった。

3. 過酷事故の対応(手順は1990年代に用意してあった)を開始。

4. 原子炉に水を供給し、核燃料の冷却で発生する蒸気を格納容器の圧力抑制室の水中に放出し凝縮する方法(フィード・アンド・ブリード)により核燃料からの除熱を図った。

5. 当初は原子炉の崩壊熱で発生する蒸気を使って蒸気タービンで駆動するポンプ(原子炉隔離時冷却系、全交流電源喪失でも作動)で給水できたが、これは長くは作動できないので止まった。

6. 外部からの給水(消火系統を使った低圧の給水とおもわれる)がポンプの能力に比べて原子炉の圧力が高いなどの理由で、水がうまく入らず、停電もかさなって手間取っているうちに原子炉(1号機)の燃料棒が露出し温度が上がって、燃料被覆管のジルコニウムの酸化(発熱反応)による水の還元で水素が発生した。放射線線量も高くなり作業性が悪くなった。

7. 水素は非凝縮性なので格納容器の圧力が上昇した。圧力低減のため(格納容器の破損を防ぎ格納機能を保つため)格納容器ウエットウエル内の気体を原子炉建屋に放出した。(原子炉の構造などはたとえば電気事業連合会のHPを参照のこと)

8. 原子炉と格納容器の減圧に伴って水素は格納容器を経て原子炉建屋の上部にたまった。12日と14日に1号機と3号機で水素が爆発的に燃焼し、それぞれの原子炉建屋上部が破壊された。原子炉容器とその格納容器は厚さ2mのコンクリートの内部にありこれで損傷はしなかった。(原子炉が爆発したのではない。原子炉は停止している。)。2号機次いで5,6号機の原子炉建屋の屋根に穴をあけたので水素はここにはたまらない。

9. 原子炉容器を減圧し、移動式の電源とポンプで海水をくみ上げて原子炉に注水し、水位の低下防止とフィード・アンド・ブリードによる炉心の核燃料の除熱を図った。格納容器(ドライウエル) にも海水を注入したのは燃料が一部溶融しているので原子炉容器を外から冷却するためと思われる。溶融炉心を原子炉容器内にとどめる“In Vessel Retention”が可能になる。

10. 水素は水の放射線分解でも発生する。水素再結合器が機能していないと、原子炉建屋上部に蓄積する。地震時に停止中だった4号機の使用済み燃料プールで爆発したのはこの水素かもしれない。建屋上部で水素爆発が生じても使用済み燃料プールは深いのでその底にある使用済み燃料が損傷を受けることはない。水位が下がると放射線遮蔽機能が低下するので注水が必要。消防車で注水し水位は回復し放射線量も下がり、プール水温も低下した。

11. 発電所サイト外では放射線のレベルの上昇がみられるが放射線障害が問題になるレベルよりはるかに低い。サイト外で観測される放射性物質(放射能)の大部分は希ガスと思われる。希ガスは化学反応性がないのである地点で1次的に測定値が上がることはあっても、最終的には拡散して濃度が下がるので被ばく上は問題ない。一部は揮発性の放射性物質のヨウ素やセシウムでこれが衣服などに付着したと思われる。揮発性の放射性物質は原子炉燃料が水で覆われていれば水に溶けるので、環境にはほとんど出てこない。環境に出たものは1次的に燃料が水で覆われなかったときのものが主と思われる。

12. 福島県と茨城県で牛乳とほうれんそうで食品の許容値を上回る汚染があったことが3月19日に発表された。食品の許容値は低く設定されているので健康上の問題はない。汚染されたものは廃棄される。食品の汚染の発表がなかなかなかったので心配だったが、今回の汚染の発表で、汚染も低く、きちんと検査され対応もされていることがわかったので安心である。(ヨウ素は子供の甲状腺に蓄積しやすいので、汚染された牛乳は廃棄の必要がある。1986年の旧ソ連の原子炉事故では炉心の爆発と炉心構成物の黒鉛の燃焼で、ヨウ素を含む多量の放射性物質が環境に放出された。牧草が汚染され、それを食べた乳牛からの牛乳、あるいは母乳の摂取制限がなされなかったために多くの子供が甲状腺がんを発症しその手術を受けた、死亡した子供は少ない。東電の事故は原子炉本体は爆発したわけではないし、黒鉛も使われていない。これまでの水素爆発は溶融炉心の大規模の飛散ではないので、ヨウ素が大量に環境に放出されてはいない。ヨウ素の化合物は水によく溶けるので水で原子炉燃料を覆うことが重要。これは成功しつつある。なおヨウ素剤は多量に放射性ヨウ素を摂取する可能性のある時に有効だが、現在のレベルの汚染では全くの逆効果で副作用がこわい。医師の処方がないと服用できない。)

13. 放射線や放射能はごく微量でも計測できる。平常値の何10倍、何百倍といった報道がされやすいが、現在報道されている値は健康障害のあるレベルよりはるかに(何桁も)低い。許容値も健康障害の観測されるレベルではなく50倍程度の余裕がある。なお発電所作業員の許容値は公衆のそれとは違う。作業員(従事者という)はリスクを承知で仕事についているので公衆より許容値は高い。その放射線障害は労働災害の範疇。なるべく防ぐべきことは言うまでもない。鉛板のチョッキ・前掛けや呼吸マスクで作業することで低減できる。

14. 放射線の健康影響には急性障害と晩発性障害(がん)がある。急性障害の健康影響が観測されるのはあるレベル以上の放射線量からである[しきい値がある]。晩発性障害はしきい値がなく線量に応じて影響があると考え、放射線被ばくはできるだけ低く抑えるのがよいと考えることになっている。しかし実際に発がんが有意に観測されるのは急性障害程度の線量からである。この晩発性放射線障害に対する“しきいなし直線仮設”が放射線に対する心理的恐怖を生むのかもしれないが、公衆にたいする許容線量は100倍以上実際の障害が発症するレベルより低い。

15. これまで1号機、3号機、2号機と順に生じた3回の爆発はいずれも水素の爆発的燃焼による。最初の2回は水平方向に爆風が上がったが。3回目の2号機の原子炉建屋3階の爆発では煙が上方に高く上がった。これは、格納容器の周りのコンクリートによって上方に爆発物が放出されたためと思われる。もし3回目の爆発が溶融炉心と水の反応による水蒸気爆発なら、多量の放射性物質が周辺にでたはずで、放射線レベルがもっと上がるはずである。なお水蒸気爆発のエネルギー変換効率は原子炉の安全評価で使われているほど実際は高くない。

16. 風の向きや強さを考慮して放射線物質の大気拡散を計算できるプログラムがあるので、それでかなり予測できるはず。

17. 降雨で大気の放射性物質が地上に来るので、なるべく雨に濡れないこと、ぬれたものは洗って食べることが必要とおもわれる。放射線の計測点は多くあるので、降雨による影響はよく観測できる。20-30年前まで大気中核実験が行われた時はいつも、観測値が上がっていた。普段でも空中のラドンが降雨により水滴にまきこまれて地上に来るので、計測値が上がる。(ラドンは希ガスで天然の放射性物質)

まとめと今後の対応

 原子炉安全確保の原理の、止める、冷やす、閉じ込める、のうち、止めるは地震と同時に自動停止で達成され維持されている。冷やすは海水注入で行われている。原子炉燃料を水で覆いつづけることが重要。それとともに最終的な除熱先確立に向けた対応がなされると思われる。外部からの電力が回復したら、健全な設備の再稼働により安定化・鎮静化する方策がある。「閉じ込める」も水で原子炉燃料がおおわれていれば、最低限は確保できている。

 大規模な火災は放射性物質の飛散防止のために防がないといけないが、可燃物は原子炉建屋にはほとんどない。発生した水素の爆発の防止がこれに次ぐ。

 避難は過酷事故時の安全確保対策として事前に設定されていたもので、立地地域では年1回防災訓練も行われている。

 避難や自宅待機(30km)の範囲外では、(例えば東京から)避難したりする必要はない。

 安全は「念のため」の考え方でできているので、これも過酷事故対策の一つです。避難される方は大変ですが、土石流とか山崩れとか川の氾濫とかの時の避難とはことなり、すぐ身の危険があるわけではないです。

 事故の対応は事業者や政府・自治体とも正しくおこなわれている。今後もその指示に従うのが良い。現場では高い放射線量(近接できない、作業時間が短くなる)のもとでの作業だが。高圧のポンプ車の放水などにより事故は沈静化の方向に向かったと期待できる。

 

 

情報は例えばNHKのHPでえるとよい。

 

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専門家によるこの記事へのコメント

  1. モニッナミラ

    水素爆発の原因が公表されていない。
    格納容器ベント手順の誤り? 
    ベントする経路の設計ミス?
    外部に放出せず、水素を考えずに意図的に原子炉建屋内に放出?
    格納容器から水素が漏えい?・・・爆発はまた起こるはずでこれではない。
    燃料プールで発生した水素?・・・4号機はこれである。

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