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マウスES細胞からの人工網膜組織の3次元形成:専門家コメント

Ver.1.0 (Updated: 110407-02:00)

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Embargo:2011/4/7-02:00JST

<SMCJ発 ホット・トピック>

「マウスES細胞からの人工網膜組織の3次元形成」専門家コメント

 独立行政法人理化学研究所は、マウスES細胞から人工網膜組織の3次元形成に世界で初めて成功しました。この研究成果は4月7日付けの英国の科学誌Natureに掲載されます。

今回の研究に関して豪州SMCが収集した専門家コメントをお送りします。

 

 

○ アンドリュー・エレファンティー教授(Andrew Elefanty)

豪州・モナッシュ大学 モナッシュ免疫・細胞研究所 

Monash Immunology and Stem Cell Laboratories, Monash University, Australia

  理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター(理研CDB)は、マウスの胚性幹細胞を培養することによって、眼の発生の初期段階を再現することに成功し、その成果を科学雑誌Natureに発表しました。この研究では、眼の形成の初期段階において緑色に光るように改変された細胞を特殊な方法で培養することにより、マウスの眼の発生において観察されるカップ状の構造の形成を模倣することができることがしめされました。そして、これらの構造が、胚で起こる眼の初期発生段階と非常に酷似していることが、高度なイメージ分析によって確認されました。これにより、培養された細胞群には異なる種類の細胞が含まれており、それらの細胞の間の相互作用が、眼と似た構造を形成する上で重要であることが示されました。

 この研究は、次の点で重要な研究です。まず、 眼のような複雑な構造の、実験室レベルでの形成することに成功したこと。次に、異なる種類の細胞を実験室レベルで作るための適切な状態を特定する際に、洗練された遺伝子操作とイメージング技術の有効性が示されたこと。さらに、視覚シグナルを脳の外部から脳に伝えるのに必要な神経細胞の複雑な層構造を形成するための出発点が示されたことです。今回の実験で用いられた培養細胞システムは、人の網膜の細胞層の発達を可能にする技術の発見につながるものであり、これは、眼の疾患の研究、ひいては新しい細胞を用いた盲目の治療への希望となるものでしょう。もっとも、後者が実現されるのは、まだしばらく先のことでしょうが。

 

  (英文)

  "In this study published in the premier journal, Nature, scientists from the RIKEN Center for Developmental Biology in Kobe, Japan, have taken mouse ESCs and cultured them to reproduce the early stages of eye development. They showed that culturing the cells (which were modified to glow green at the first stages of eye formation) in a specific fashion was necessary to allow the formation of a cup-like structure mimicking that seen in the development of the eye in a developing mouse. Using sophisticated imaging analyses they confirmed that these structures indeed were very similar to the early developmental stages of the eyes in embryos. The authors demonstrated that their cultures contained several different cell types, interactions between which were necessary for the eye-like structures to develop.

  "This work is important for several reasons. Firstly, it shows that it is possible to start to form a structure as complicated as the eye in the laboratory. Secondly, it highlights the value of sophisticated gene modification and imaging technologies in identifying the correct conditions to make different types of cells in the laboratory. Thirdly, it provides a starting point for the formation of the complex nerve cell layers that are needed to transmit visual signals from the outside world to the brain. The hope is that the culture systems that these scientists have developed will lead to discoveries that will eventually enable the growth of sheets of human retinal cells both for the study of eye diseases and eventually for the growth of new cells to treat patients with blindness. This last wish, however, is likely to still be some way off."

 

※以下は論文著者の笹井先生のコメントです

○ 笹井 芳樹(ささいよしき)グループディレクター

理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター 器官発生研究グループ

Dr Yoshiki Sasai, Group Director of the Laboratory for Neurogenesis and Organogenesis at Japan's RIKEN Center for Developmental Biology, Kobe.  He is an author of the Nature paper.

 眼杯形成や神経網膜 の多層形成という複雑な組織形成が、実は網膜前駆細胞に内在するプログラムをもとに、自己 組織化によって起こり得ることが明らかになりました。特に、眼杯の自己組織化については、 シュペーマンの実験以来、1世紀に渡る論争に一つの結論を示すことができたと思います。

 生体内では周囲の組織との間にも複雑な相互作用が存在し、それらが2重、3 重に働いて、より精密な眼形成が再現性良く起きているのではないか。

 ES 細胞や iPS 細胞から、細胞ではなく組織のレベルで 網膜を構築し、機能組織の移植によって網膜変性疾患を治療するという、新しい発想の再生医 療の可能性が開けました。

 

【関連リンク】

○理化学研究所プレスリリース

http://www.(理化学研究所からプレスリリースが発行され次第、リンク追加)

 

 

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