Ver.1.1 (120716-17:30)

・これは、2011年10月6日にジャーナリスト向けに発行したホット・トピックです。

・記事の引用は自由ですが、末尾の注意書きもご覧下さい。

・このサイエンス・アラートは豪日交流基金（Australia-Japan Foundation）からの支援をいただき、作成されたものです。

＜SMC発ホット・トピック＞

2011年のノーベル物理学賞に関し、海外のＳＭＣが収集したコメントをお届けします。精確さよりも迅速さを優先して翻訳しております。原文を添付致しましたので、必要であれば自由に翻訳し直してご利用下さい。

SMC カナダ

アダム・リース教授（Dr. Adam Reiss）

Johns Hopkins University
米国・ジョンズホプキンズ大学
（ブライアン・シュミットとソール・パールマターと共に）2011年ノーベル物理学賞受賞者
winner (along with Brian Schmidt and Saul Perlmutter) of the 2011 Nobel Prize in Physics for the discovery that the expansion of the universe is accelerating.

　私は92年から96年大学院に在籍しましたが、ブライアンとはそこで一緒でした。私たちは遠くの超新星の地球からの距離を測定する方法を探していました。同時に、より遠く超新星を見つけ、宇宙の膨張速度を計ろうとしていました。当時我々は宇宙の膨張速度は減速しているのではないかと予想はしていました。面白そうな実験だと思いましたが、まさかこんなに興味深いものになるとは思いませんでした。

　97年、私は研究チームが得たデーターを分析していました。何回見直してもおかしなエラーが出てきました。自分の計算には間違いがあるのかと思い、シュミットに見せると、彼も分かりませんでした。そのとき、ここに答えがあると、思い至りました。宇宙の膨張速度は減速しているのではなく、加速している。ローレンス・バークレー国立研究所のチームも我々と同じシグナルを観測していました。それから何年もして、他の多くの研究チームによってそれは確かめられました。

　ここで私は、このノーベル賞が何を表彰しているのか、していないのかについて話をしたいと思います。宇宙は加速しています。しかしこれは観測結果で、なぜ加速するのかその原因から導き出されたものではありません。現在、加速の主たる原因は暗黒エネルギーの可能性が高いと言われていますが、まだ証明されていません。つまり今回の受賞は宇宙が膨張しているという観測結果についての表彰です。

【コメント原文】

Brian and I were grad students together – I was from 1992 -1996. We were working on how to measure distant supernovae, and at the same time find more distant supernovae and find the expansion rate of the universe. We expected it was slowing down. 
We thought this would be an interesting experiment to do, but we didn’t know it would be this interesting.

In 1997, I was analyzing data on what the team had found. I kept getting a funny error that wouldn’t go away.
I asked Schmidt to check my work and he couldn’t figure it out. At some point we decided, maybe this was where the universe was, it wasn’t slowing down, it was speeding up.
There was a team at Lawrence Berkeley getting the same signal, and then over the years it’s been confirmed by many other teams.

I want to draw a distinction between what the Prize is for and what it’s not for.
The universe is accelerating. This observation doesn’t depend on why it’s accelerating. Dark energy is the biggest candidate for why, but that hasn’t been confirmed. But this observation that the universe is expanding is what the prize was awarded for.

SMC UK

マイケル・ローワン＝ロビンソン教授（Professor Michael Rowan-Robinson）

Professor of Astrophysics at Imperial College London
天体物理学教授, 英国・インペリアル・カレッジ・ロンドン

ソール・パールマターと、ブライアン・シュミットとアダム・リースが率いる二つの天体物理学チームは、遠い銀河で爆発した白色矮星のデーターを元に、ほぼ同時に宇宙が加速膨張している証拠を見つけました。

　遠くにある白色矮星の爆発により届くシグナルは、予想していたものより弱く、それは銀河が予想より遠い場所にあったからではないのかと考えられていました。これに対して、銀河は何か未知のエネルギーによって互いに押し離されているのではないかと考えられ、これは暗黒エネルギーと呼ばれました。1916年に、アインシュタインは宇宙の静的モデルを作っている最中に初めて、宇宙には大きな反発力が存在すると予想しました。しかし、この暗黒エネルギーの性質に関しては、現在も物理学者の間で議論が続いています。

　宇宙が加速膨張しているという発見は宇宙論に大きな影響を与えました。宇宙における暗黒エネルギーの役割はWMAP（ウィルキンソン・マイクロ波異方性探査機）のミッションで、ビッグバンの初期段階から残っているマイクロ波背景放射の波動を分析したところから確認されました。

　私は、かつて、宇宙が加速度的に拡大している理由を他にみつけようとする別の研究チームの一員でした。二つのチームの研究結果を損ねるような証拠は見つかりませんでした。そして今、暗黒エネルギーの存在を示した彼らの研究がこのような名誉ある賞を受賞したことは大変意義深いことだと思います。

　この天体物理学者たちの研究は、我々の宇宙に関する認識に革命を起こし、そしてこれから探査するべき多くの宇宙の謎を明らかにしてくれました。

【コメント原文】

The signals were somewhat fainter than expected, suggesting the galaxies were further away than originally predicted. This suggested that galaxies are being pushed apart by some mysterious repulsive force, the so-called dark energy. A repulsive force acting on large scales in the universe was first proposed by Einstein in 1916, when he was trying to construct a static model of the universe. There is still no consensus among physicists on the nature of this dark energy

The two astrophysics teams, one led by Saul Perlmutter, the other by Brian Schmidt and Adam Riess, found evidence of the accelerated expansion of the Universe at approximately the same time using data from exploding white dwarf stars in distant galaxies.

"The impact of this finding on cosmology has been huge. The dominant role of dark energy in the universe has been confirmed by the WMAP mission, analysing fluctuations in the microwave background radiation left over from the earliest stages of the Big Bang.

I have a particular interest as I was part of a group that looked for other reasons to explain how the Universe can appear to be expanding at an ever-faster rate. We were unable to undermine the findings of the two teams and it's now momentous to see the research which indicated the existence of dark energy being rewarded so prestigiously.

These astrophysicists' research revolutionised our common perception of the Universe and unveiled an array of mysteries that we are still trying to fathom.

SMC オーストラリア

スザンヌ・コーリー教授（Professor Suzanne Cory）

豪州科学アカデミー会長
President of the Australian Academy of Science

　豪州科学アカデミーを代表して、ブライアン・シュミットと彼の同僚には心からお祝いを申し上げます。これは豪州の科学にとって素晴らしい日です。

　1990年代の間のわずか数年で、ブライアンと彼のアメリカ人の同僚、アダム・リース教授は、星の爆発（超新星）を研究することによって宇宙の膨張が加速していることを発見しました。同じ課題を研究していたアメリカ研究者のソール・パールマター教授も、今回、同時受賞しました。この発見はすぐに宇宙論に大きな影響をもたらしました。それまでは、宇宙の膨張は減速、または一定の速度で進んでいると考えられていました。ところが実際には膨張が加速しているという発見により、我々の宇宙に対する理解は完全に様変わりし、時間と暗黒エネルギーの研究に新たな地平を開いたと、天体物理学者たちは評価しています。

　この重要な発見により、2008年には、ブライアン・シュミットは豪州科学アカデミーのフェローに認定されました。活発的で、誰からも尊敬されており、オーストラリア国立大学の天文学と天体物理学チームの大事なメンバーです。

　現在、パールマターとシュミットと彼らの同僚は自分たちの発見の意味について研究を続けています。

　シュミットは南半球の空の星を地図にするために観測する、スカイマッパー・プロジェクトに関わっています。
　パールマターは超新星と暗黒エネルギーの性質を調査する衛星ミッションに取り組んでいます。

【コメント原文】

On behalf of all his colleagues at the Australian Academy of Science, I offer my warmest congratulations to Brian Schmidt and his colleagues for this richly deserved accolade. This is a great day for Australian science.

Over just a few short years in the 1990s, Brian and his American colleague Professor Adam Riess discovered through their study of exploding stars – supernovae – that the expansion of the universe is accelerating. Racing to the same discovery was Professor Saul Perlmutter in the United States, who shares the Nobel Prize with Schmidt and Riess. This discovery had a profound and immediate effect on cosmology. Previously it had been thought that the expansion of the universe was slowing, or proceeding at a steady rate. Astrophysicists say the finding that the expansion is in fact accelerating has completely altered our understanding of the universe and opened up important new fields in the study of time and dark energy.

For his part in this astounding discovery, Brian Schmidt was made a Fellow of the Australian Academy of Science in 2008. He is an energetic and highly respected member of the Australian National University's astronomy and astrophysics team.

Today Perlmutter, Schmidt and their colleagues continue to explore the implications of their work. Schmidt has developed the SkyMapper project, a telescope to map the southern sky. Perlmutter is working on a satellite mission that would study supernovae and the nature of dark energy.

* Background information courtesy of Science in Public and the Gruber Foundation
* 情報はサイエンス・イン・パブリックとグルーバー財団により参考資料が提供されています。

記事のご利用にあたって

マスメディア、ウェブを問わず、科学の問題を社会で議論するために継続して
メディアを利用して活動されているジャーナリストの方、本情報をぜひご利用下さい。
「サイエンス・アラート」「ホット・トピック」のコンセプトに関してはコチラをご覧下さい。

記事の更新や各種SMCからのお知らせをメール配信しています。

サイエンス・メディア・センターでは、このような情報をメールで直接お送りいたします。ご希望の方は、下記リンクからご登録ください。（登録は手動のため、反映に時間がかかります。また、上記下線条件に鑑み、広義の「ジャーナリスト」と考えられない方は、登録をお断りすることもありますが御了承下さい。ただし、今回の緊急時に際しては、このようにサイトでも全ての情報を公開していきます）【メディア関係者データベースへの登録】 http://smc-japan.org/?page_id=588

記事について

○ 私的／商業利用を問わず、記事の引用（二次利用）は自由です。ただし「ジャーナリストが社会に論を問うための情報ソース」であることを尊重してください（アフィリエイト目的の、記事丸ごとの転載などはお控え下さい）。

○ 二次利用の際にクレジットを入れて頂ける場合（任意）は、下記のいずれかの形式でお願いします：
・一般社団法人サイエンス・メディア・センター　・（社）サイエンス・メディア・センター
・（社）SMC　　・SMC-Japan.org

○ この情報は適宜訂正・更新を行います。ウェブで情報を掲載・利用する場合は、読者が最新情報を確認できるようにリンクをお願いします。

お問い合わせ先

○この記事についての問い合わせは「御意見・お問い合わせ」のフォーム、あるいは下記連絡先からお寄せ下さい：
一般社団法人 サイエンス・メディア・センター（日本）　Tel/Fax: 03-3202-2514