海外専門家コメント
ノーベル医学生理学賞について
Ver.1.0 (111006-08:28)
・これは、2011年10月4日にジャーナリスト向けに発行したホット・トピックです。
・記事の引用は自由ですが、末尾の注意書きもご覧下さい。
<SMC発ホット・トピック>
2011年のノーベル医学生理学賞は、自然免疫と獲得免疫の研究に大きな功績を挙げた3人の科学者に贈られました。これに関し、海外のSMCが収集したコメントを、翻訳してお届けします。
精確さよりも迅速さを優先して翻訳しております。原文を添付致しましたので、必要であれば自由に翻訳し直してご利用下さい。
なお、連絡先が書かれている研究者は直接取材も受け付けていますが、本メールを直接受信されている方以外への頒布はお控え下さい。
SMC UK発コメント
Judith Willetts
ジュデス・ウィレッツ
CEO, British Society for Immunology
英国免疫学会 会長
“This year’s Nobel Laureates for Medicine are three mould-breaking immunologists. The work of Bruce Beutler, Jules Hoffmann and Ralph Steinman has given us a vital understanding into our bodies’ immune system and how it enables us to fight infection and disease. Their work in innate and adaptive immunity has allowed many others working in the field to develop new preventions and therapies in the fight against infections, cancer and other diseases.
「今年のノーベル医学賞受賞者の三人は、研究に大躍進をもたらした免疫学者たちです。ブルース・ボイトラー、ジュール・ホフマン、ラルフ・スタインマンの研究から、私たち人間は免疫システムへの理解を深め、またウイルスや細菌などが体内に侵入すると身体はどう闘うのかが分かりました。彼らが成し遂げた自然免疫と獲得免疫の研究は、多くの科学者に道を開きました。この成果に基づき、感染症、がん、そして様々な病気の新たな予防と治療法を開発することができました。」
“The recognition by the Nobel Committee of the work of Bruce Beutler & Jules Hoffmann, for their work in Toll-like receptors (TLRs), and Ralph Steinman for his discovery of the dendritic cell, is enormously important for the discipline of immunology as a whole, as these discoveries have helped to interconnect and consolidate key aspects of immune function – namely the function of innate and adaptive immune systems.
「ノーベル賞委員会が認めた研究ーブルース・ボイトラーとジュール・ホフマンのタンパク質「Toll様受容体」(TLR)の発見とラルフ・スタインマンの樹状細胞の発見ーは、免疫学にとって非常に重要な成果です。この発見は、免疫機能の重要な二つの側面を繋ぎました。すなわち、自然免疫と獲得免疫の機能の解明です。」
“In identifying a receptor (TLR4) on immune cells that responds specifically to a unique bacterial product (lipopolysaccharide or LPS), Beutler and Hoffmann started the work of uncovering the specific mechanisms that underlie the “hard wired” innate immune system that is able to respond quickly to a range of infective microorganisms without prior exposure.
「細菌の特異的構造(リポ多糖体(LPS))を察知し、免疫細胞を動かせるきっかけとなるタンパク質(TLR4)の発見により、ボイトラーとホフマンは「身体の免疫機能が初めて出会った感染性微生物に対して、どのように迅速に対応するのか」という自然免疫システム機能の実態解明に向けて扉を開きました。」
“In identifying the dendritic cell, Ralph Steinman uncovered a key aspect of adaptive immunity, as these cells form an important part of the body’s infection surveillance system – gathering-up molecules from different parts of the body and ‘presenting’ them to effector cells of the adaptive immune system – thereby connecting identification with response.
「樹状細胞の発見によって、ラルフ・スタインマンは獲得免疫の役割を発見しました。これらの細胞は身体の感染監視システムで重要な役割を果たしています。まず、身体の様々な部分から分子を獲得免疫のエフェクター細胞へ集めること、つまり、識別と反応をつなげるのです。」
“A further dimension to both sets of researchers’ work is provided with the realisation that dendritic cells also possess TLRs – and this allows these cells to form an important bridge between innate and adaptive immunity. Dendritic cells may be activated via their TLRs, allowing innate signalling to initiate a more specific adaptive immune response.”
「更にこうした知見を踏まえて研究が進むと、樹状細胞にもTLRが含まれていることがわかりました。これによって、自然免疫と獲得免疫の間を繋ぐ重要なリンクがあることが分かりました。樹状細胞は、自らのTLRで細菌を認識して免疫機構を作動させるのです。」
Dr Mark Downs FSB
マーク・ダウンズ博士
Chief Executive of the Society of Biology
英国・生物学会 会長
“Understanding how the immune system works is essential for the treatment and prevention of diseases. The discoveries of these three Nobel Laureates is an excellent example of the impact we all get from investment in basic research, illustrating the benefits of understanding basic processes in the body and how long term they can impact clinical outcomes.”
「免疫システムがどのように機能するのかを理解するのは、病気の治療と予防に欠かせないことです。三人のノーベル賞受賞者の発見は、基礎研究への投資から人類が成果を得ることができた素晴らしい例です。身体の基本的な機能を理解できたことにより、治療行為の長期にわたる影響も予想できるようになったのです。」
SMC カナダ発コメント
Tania Watts
ターニャ・ワッツ博士
Ph.D., Department of Immunology, University of Toronto
カナダ・トロント大学 免疫学研究室
Tel: (416) 978-4551
E-mail: tania.watts@utoronto.ca
Q: Dr. Steinman was co-awarded with the Nobel Prize in Medicine this year. What discovery lead to this highly prestigious distinction?
Q: スタインマン教授は今年のノーベル医学生理学賞の受賞者です。彼はどんな発見により、この栄誉有る賞を得たのですか?
A: In 1973, Dr. Steinman discovered a new cell type, the dendritic cells. These cells are found scattered throughout the tissues of our body, and act as sentinels of the immune system to sense when an infection is present.
A: 「スタインマン教授は73年、樹状細胞と言う新しい細胞を発見しました。この細胞は私たちの全身に散らばっていて、免疫システムの監視役として、細菌などの異物が現れたときにそれを認識します。」
Dendritic cells are also critical "decision making" cells that decide whether there is indeed an infection and if the adaptive immune system should be turned on to fight it, or whether what is present is an innocuous threat and should be ignored.
「また樹状細胞は重要な『意思決定』機能を持つ細胞で、細菌を分解してから攻撃ができるように獲得免疫システムを作動させるべきなのか、それとも当面は感染的脅威とならないので無視しても大丈夫なのかを決めているのです。」
Dr. Steinman's team also determined how to isolate these important cells, grow them out in the laboratory, and use them to induce immunity. The implications of this finding provided a fundamental insight into what controls the initiation of immune responses. Moreover, it showed that targeting an immunization to deliver it to dendritic cells enhances the efficacy of vaccination.
「スタインマン教授の研究チームはこの貴重な細胞を単離することに成功し、研究室で育て、免疫を誘導するために使用しました。この発見は、免疫応答の開始を制御する基本的な知見を与えてくれました。さらにワクチン開発に対しては、予防接種を樹状細胞を標的として行うことによって、ワクチンの有効性が高まることを示しました。」
This work is already being tested in a number of cancer vaccine approaches, including the first licensed cell-based cancer vaccine, Provenge, for the treatment of prostate cancer. This therapeutic vaccine boosts the immune system to fight disease. It involves taking the patient’s own dendritic cells, modifying them with a tumor antigen commonly expressed by prostate cancer cells and reinfusing the patients' own modified dendritic cells to trigger the immune system to fight the cancer.
「この研究は、がん治療用のワクチン研究に役立っています。もうすでに前立腺がん治療薬として米国で承認されたがん治療ワクチンProvengeもこの一つです。このワクチンは、病気と闘うために免疫システムを向上させます。患者自身の樹状細胞を使い、前立腺癌細胞で発現している腫瘍抗原と反応するように改変します。この改変した樹状細胞を再び患者の身体に戻し、がんを攻撃するように免疫システムを刺激するのです。」
Understanding dendritic cells is also important in understanding how to prevent an unwanted immune response, such as those occurring in autoimmune diseases.
「樹状細胞の機能を理解することによって、自己免疫疾患のような、望ましくない免疫応答を止めることも可能になります。」
Q: Dr. Steinman did not have a chance to celebrate his Nobel Prize, as he passed away last week. You have met this great scientist, what can you tell us about him?
残念ながら、スタインマン教授は先週に亡くなり、自分のノーベル賞受賞を祝うことはできませんでした。この偉大な科学者に会われたことのある方として、何かお聞かせ下さい。
A: I had the chance to meet Dr. Steinman several times in the context of conferences, but also when he acted as a voluntary scientific advisor for the Canadian Network for Vaccines and Immunotherapeutics (CANVAC); he generously gave his time to advise us on our research projects and my own research personally benefited from his sage advice. He was a great human being as well as a great scientist and he will be sincerely missed.
「学会で何度かスタインマン教授とお会いすることがありましたが、彼が「カナダのワクチンと免疫治療ネットワーク(CANVAC)」のサイエンス・アドバイザーとして参加していた時にも何回か会いました。他人の研究プロジェクトのために自分の時間を使うことを惜しまない方で、私にもその後の研究を進めるに大いに役立つ賢明なアドバイスをしてくださいました。偉大な人間で、偉大な科学者でした。心から哀悼の意を表します。」
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