20111025
各専門家のコメントは、その時点の情報に基づいています。
SMCで扱うトピックには、科学的な論争が継続中の問題も含まれます。
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記事の引用は自由ですが、末尾の注意書きもご覧下さい。

専門家コメント

台風と集中豪雨について

Ver.1.0 (111018-00:00)

・これは、2011年10月18日にジャーナリスト向けに発行したホット・トピックです。

・記事の引用は自由ですが、末尾の注意書きもご覧下さい。

<SMC発ホット・トピック>

台風と集中豪雨について:専門家コメント

 9月は、西日本を中心に台風や豪雨に見舞われました。紀伊半島では甚大な土砂災害も発生しています。
日本気象協会では9月7日、「総雨量2000mmの時代を迎えて」という報告の中で、気候変動による将来的な豪雨の予測を行っています。
 ※参考(日本気象協会発表(2011/9/7)): http://www.jwa.or.jp/content/view/full/3995
 今回の豪雨とこの報告について、専門家のコメントをお伝えします。

若月 泰孝(わかづき やすたか)助教

高筑波大学 生命環境科学研究科 陸域環境研究センター

  今回の台風12号は、四国をゆっくり北上する進路をとりました。一般に、台風の東側には、南から水蒸気がたくさん入ってきます。その水蒸気の流れが山の斜面にぶつかって上昇気流を作り出し雨もたらします。紀伊半島の地形は、本来台風の周りにまんべんなくもたらされるはずの雨を集中化させる働きをしました。つまり台風進路の東側にたまたま紀伊半島の山があり、結果として豪雨となったと言えますし、記録的な雨量になった原因は、台風が非常にゆっくりと進行したことにあります。

 今回の気象協会の発表ですが、これは地球温暖化と絡んで説明されています。本事例イコール温暖化が原因、ということにはなりませんが、基本的に気象協会の方向性は妥当だと考えます。地球温暖化によって平均気温が1度上昇すると地球全体で7%ほど水蒸気の量が増えます。近年の精力的な気候変化予測研究によって、温暖化に伴う水蒸気量の増加に伴い、強い雨の頻度が平均的に増加することが示されてきています。また、この強雨化傾向は、1回の降水現象(台風など)でもたらされる平均的な雨量が増えることも意味します。さらに、たとえば100年に1度しか起きないような雨の量が何割か増加する地域がでてきます。そこでは、100年に1度しか起きなかった豪雨が100年に数回起きるようなこともありあえます。人が生活や仕事の経験として印象をとどめられる年数は30~50年程度かと想像できます。それを仮に想定の限度とするならば、100年に1度しか起きない想定外の雨が、たとえば30年に1度に雨に変わる可能性でてきて、想定外とは言えなくなるのです。

 今回の発表では、特に「2000mm」という数字にこだわっていらっしゃるようです。文脈から見ますと、この数値は台湾の深層崩壊に関連付けて説明してあります。つまり深層崩壊のリスクが温暖化に関連して高まることを示唆する発表と受け取れます。この数値だけが踊ってしまうのはよくないかもしれません。ただ、ゆっくりと進む変化の中で、これまで想定していた以上の豪雨災害に備えるための警鐘として、今回の発表は意義があると考えています。

 私は豪雨災害対策の専門家ではありませんが、温暖化による強雨化を踏まえた防災のあり方の感想を述べます。防災対策にはハード面とソフト面があります。ソフト面では、避難すべき判断基準や避難心理を考慮し、実行に移しやすい情報のあり方を考える必要性を感じました。避難勧告(本事例では遅れたという報道がありますが)を出す行政担当者や一般市民が、降っている雨が避難すべき程度の雨なのかどうかを判断しやすいような情報のあり方をさらに検討することが、過去に経験していない豪雨災害のリスクに備えるためには必要だと考えます。ハード面の対策は、堤防の強化やダムの建設といったものでしょう。その設計基準は過去に観測された雨量の経験から科学的に見積もられていると考えられます。この設計基準は将来の温暖化による強雨化予測に備え、修正する必要が出てくるかもしれません。しかし、将来の降水の予測には大きな不確実性があるため、降水に関して、唯一絶対的に信頼できる予測情報を出すことは、現時点ではほぼ不可能というのが実情です。特に地域別の予測は難しい課題となります。それでも、我々研究者は研究の積み上げによって、もっともらしい数値とどのくらい不確かさがあるのかを見積もれるように日々努力しているところです。

 

 

佐野 哲也(さの てつや)助教

山梨大学 大学院附属国際流域環境研究センター

 今回の豪雨に関してまだその詳細なメカニズムの研究が進んでいないので、メカニズムに関してはお話できません。しかし、計測されたデータを見ますと1652.5mmを記録した上北山村については二日間にかけて20mmで降り続いています。

 このような雨はいろいろな気象条件が重なって起こるものなのですが、よく言われるのが台風に向かって湿った空気が流れこんで雨を降らせます。実際に雨を降らせているのは、そこで発生している積乱雲です。通常発生する積乱雲は数キロにおよびますが、一つの積乱雲単体でこれほどの雨を降らせることはできません。つまり、多くの積乱雲が発生したということです。特に雲が常に発生し続けること、かつ、それが動かいない状況が作られることです。淡水と雨雲があつまる、専門的に言うと「雲の組織化」と言います。研究の視点からすると、紀伊半島になぜ水が集まったのかという点があげられます。日本でもだいたい千キロ、地球大気だと数千キロのなかで、わずか100キロほどの紀伊半島にたくさんの水が集まったのかに興味あります。これは「水の集中化」と言います。地球上で水は大きく循環しています。大きなスケールで循環している水が、どうして局所的に集中したのかを研究するわけです。

 今回の豪雨は、梅雨期と台風によって引き起こされたと考えていいでしょう。気象協会の報告では台風の速度が遅かったことも一因であったとありますが、台風の影響という点も考慮すべき点だと考えています。また、こういった豪雨を研究するにあたって、観測も非常に重要です。すでに気象庁などが全国的に計測していますが、今後このような激しい雨が増加する傾向が増してくることを考えると、今回は山の上でしたので、山の上で雨を捉える観測網の整備、充実が必要だと考えます。山の上での観測はまだ技術的に難しいのですが、豪雨の観測を高めるために観測網の整備と充実が必要になると考えています。

 地球温暖化と関連付けて説明なさっているようですが、現在温暖化が進むとどのような極端な現象が生じるのかという研究が行われています。どのくらい激しい雨が降るのか、降雨量はどの程度増加するのか。そういった成果を意識して書かれているようです。

 メカニズムの解明によって、雨の科学に新しい知見が蓄積され、豪雨の予測、また、各自治体への水災害の防災・減災対策に貢献できると考えております。

 

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