海外専門家コメント
1年が経った福島第一原発の現在の状況について2
Ver.1.1 (120717-11:30)
・このサイエンス・アラートは、2012年3月9日にジャーナリスト向けに発行したものです。
・記事の引用は自由ですが、末尾の注意書きもご覧下さい。
・このサイエンス・アラートは豪日交流基金(Australia-Japan Foundation)からの支援をいただき、作成されたものです。
<SMC発サイエンス・アラート>
1年経った福島第一原発の現在の状況について:海外専門家コメント
昨年3月11日発生した東日本大震災により巨大な津波が引き起こされ、チェルノブイリ事故以来最も深刻な原子力発電所事故を招く結果となりました。
事故から一年が経った今、海外の原子力専門家と災害専門家から、現在の状況、及び、我々が学べる教訓についてコメントを頂きました
ドン・ヒグソン博士(Dr Don Higson)
引退した核安全専門家。 オーストラリア技術者協会及びオーストラシア放射線防護協会の特別研究員
Retired nuclear safety specialist and Fellow of the Institution of Engineers Australia, Fellow of the Australasian Radiation Protection Society
【技術的側面について】
「福島第一においては、史上4番目に大きい地震に襲われたとき、原子炉のシャットダウンは安全に行われた。核緊急事態は、電源装置が原子炉設計時の想定よりはるかに大きな津波に襲われ、それによって現場の電源供給が失われたことに完全に起因する。明らかに、押し寄せる水に対する原子力発電プラントのリスク設計が、地震リスクに対する設計レベルまで押し上げられる必要があることは、明らかだ。」
【健康への影響について】
「福島第一の原子力事故を、国際原子力イベント スケール(INES)のレベル7としたことは、それがチェルノブイリと同等のものであるかのような誤った印象を人々に与えている。福島の場合においては、これまで肉体的健康への放射能の影響は、一般市民の間ではまったく観察されておらず、また、現場作業員の健康への影響は、チェルノブイリのそれよりもはるかに低いものであるとされている。INESは、公衆が核の安全性を理解するのを助けるのがその目的であるが、実際には公衆をさらに混乱させてきたと言える。INESは根本的に修正されるべき、または排除されるべきである。
チェルノブイリのときと同様に、福島第一事故の公衆の健康への影響は、強制的に居住地を移転させられたことや、誇張された放射能への恐怖など、主に心理的なものによる。事態が今後どう展開するか分からない状況においては、予防的措置として、公衆はその地域から避難させられなくてはならない。しかしながら、一旦事態がコントロール下に置かれ、かつ、潜在的被爆レベルが20ミリシーベルト/年以下であることが確認されたなら、家に戻ることを許される方が、彼らにとってはより良い選択となるであろう。世界中の多くの人がこれよりも高い自然の放射線レベルにさらされているにもかかわらず、特に健康への悪い影響は認められていない。20ミリシーベルト/年という値がまるで危険な値であるかのように言うのは、非生産的である。」
【原子力発電の安全性について】
「旧ソビエト以外の国においては、原子力産業はこれまでずっと、そこで働く人にとり最も安全な産業の一つであり、世界が必要とする電気のほとんどを生み出す最も安全な方法であり続けている。」
【コメント原文】
【On Engineering】
At Fukushima Daiichi, the reactors shut-down safely when struck by the fourth largest earthquake ever recorded. The nuclear emergency was due entirely to loss of on-site power supplies when the power station was inundated by a much larger tsunami than had been anticipated in its design. Clearly, the design of nuclear plants against the risk of flooding needs to be brought up to the level of design against seismic risk.
【On the health effects】
Rating the nuclear accident at Fukushima as 7 on the International Nuclear Event Scale (INES) has given the misleading impression that it was as bad as the Chernobyl accident. At Fukushima, no physical health effects of radiation have been observed among the general public and effects on workers have been far lower than those at Chernobyl. The INES was meant to aid public understanding of nuclear safety but has, in fact, made it more confused. The INES should be substantially modified or scrapped.
As at Chernobyl, the major public health effect of the Fukushima accident has been psychological, due to the forced relocation of population and exaggerated fears about radiation. In such circumstances, the public must be evacuated from the area as a precaution when it is not known how the situation will develop. However, they would be better off being allowed to return to their homes once it is certain that the situation is under control and that potential exposure levels are no greater than 20 mSv/y. Many people in the world are exposed naturally to higher levels of radiation than this without discernible adverse health effects. It is counterproductive to behave as though 20 mSv/y is a dangerous dose rate.
【On the safety of nuclear power】
Outside the former USSR, the nuclear industry continues to be one of the safest industries in which to work and the safest way to generate most of the electricity the world needs.
ジョン・プライス博士(Dr John Price)
現在、技術コンサルタント。英国国立原子力団体の安全政策部門のメンバーとして主な原子力発電所事故について研究してきた。
Currently a consulting engineer. Dr Price was a member of the Safety Policy Unit of the National Nuclear Corporation UK where he studied major nuclear power accidents.
「1978年のスリーマイル島事故のあと、私のように原子力発電を擁護する人間は、あの事故について二つのことを語ったものです。つまり、発電所の安全システムは放射能を封じ込めた、ということと、「教訓を得られた」、ということです。しかし今、福島の事故が立証しているのは、かつての教訓は全く学ばれてなかった、ということです。これらの教訓は多岐にわたり、その内容は深いものです。例えば、スリーマイル島事故から学んだ大変実際的な教訓があります。燃料棒の金属被膜が過剰加熱すると、被膜のジルコニウム金属が水と反応し、水素ガスを発生させます。 スリーマイル島の事故の間、水素ガスの発生を最も警戒していましたが、結局最後にはダメージなしという結果になりました。それではなぜその教訓は活かされなかったのでしょうか。福島では、1号機と3号機の建屋は実際、全世界がテレビで見ている時に、激しく爆発しました。2号機もおそらく、格納容器内で水素爆発を起こし、それが放射能漏えいの原因となったのかもしれません。しかし、1978年のスリーマイル島の教訓がありながら、なぜ、福島の原子力プラントはどれも爆発を防ぐために水素ガスを散らすというとても簡単な方法を導入してなかったのでしょうか? これは実際には世界中の原子力プラント全てに言えることですが。
福島原発が事故から復活するには、一部の人たちが主張するよりもずっと長い時間がかかる、と私が考えるのは、水素爆発による損傷が事故の主な原因だからです。福島で事故が起こった週に世界中に広まった私の発言の中で、私は、事故の浄化作業は50年から100年はかかるだろう、と述べました。私はいまでも、これが妥当な見積もり時間だと思っています。 他にもっと根本的な、そして全く学ばれていない教訓があります。原子力発電産業において、かつて適切な規制というものがあり得たでしょうか。そして実際のところ、そのこと以上に大きなリスクがほかにありますか? 原子力発電においては、規制委員会の人々がいつも事故の原因の一端でなかったでしょうか。
たとえば、原子力でない事故の例を考えてみましょう。メキシコ湾石油流出事故を思い出して下さい。津波に襲われる可能性のある地域に人々が町をつくる許可を与えられる状況を考えてみて下さい。最近の金融危機を考えてみて下さい。何がしかの権限を持っている人は誰であれ、そのことの結果への責任もまた持っているのです。恩恵を受けれ、またその災害にも責任を負うのです。
いったん原子力プラントの建設が承認されると、日本の規制委員会の委員たちと、福島原発の所有者である東電との間で、多くの駆け引きがなされました。どこの政府機関の部署が規制委員会であったとしても、いかにその規制委員が独立を保ちたかったとしても、妥協が必要でした。
ここにいくつかの質問があります。これらの質問が、原発の建設を承認する検討会で質問されたはずである、と思いたいです:
・もともとの設計想定を超えた事故に備えるために、どんな非常用装置が備えられるべきであるか。
・津波からの保護対策のサイズはどのくらいであるべきか。
・福島原発の1号機から4号機は、2011年まで運転されるべきか。
これらの質問内容のすべてが、その答えがどのようなものであったにせよ、巨額の費用と関係します。これらのそれぞれの討議の中で、規制委員はより費用のかかるものを要求するものですし、東電はできる限り費用のかからない妥協点をさぐろうとするでしょう。
その最後の質問の、1号機から4号機は2011年まで運転し続けるべきであったのかどうか、については、答えは最も簡単です。ノーです。それは間違った場所に建てられた、古い設計で据え付けられた原子力プラントでした。福島第一の1号機は、1960年代の設計を用いたもので、1971年に運転を始めました。2号機から4号機もまた、少しだけ大きいものとはいえ、同じ設計が使われています。1970年代後半までには、アメリカのゼネラル エレクトリック社(GE)のこのタイプのプラントの設計者は、福島第一のマーク1原子炉のデザインを、彼らの言うもっと安全な設計のものに改良していました。1990年代までには、さらにもっと安全なプラントが提供されていました。
過去を振り返ってみると、1990年代の日本では、原子力ユニットがそのライセンスを延長されるべきかどうかの決定は、適度に簡単であったように思えます。新しいタイプとの置き換えが計画されたでしょうし、新しい、より安全なプラントの建設も可能であったはずです。そして原子力エネルギーは、そのままずっと日本のために期待に応えてくれるはずでした。しかしその代わりに、ある別の決定がなされました。彼らは、より新しいずっと安全なモデルを購入するのではなく、彼らの1971年型ボロ車に新しいタイヤをはかせる、ということをしたのです。我々はいずれ、1990年代に福島第一プラントに関する規制検討委員会の討論中に何が起こったのか、を突き止めることができると考えています。」
【コメント原文】
After the Three Mile Island Accident of 1978, people like me who advocated nuclear power said two things about that incident: the safety systems at the station had contained the radiation and that ‘lessons had been learnt’. What Fukushima demonstrates is that no lessons are ever really learnt. These lessons are many and deep. As an example, there was a very practical lesson from Three Mile Island. Once the fuel cladding overheats, the zirconium metal in the cladding reacts with water to produce hydrogen gas.
The appearance of hydrogen gas during the accident at Three Mile Island caused major alarm, though in the end no damage. So why was no lesson learnt? At Fukushima the buildings of reactors 1 and 3 actually exploded violently while the world watched on television. Unit 2 also probably had a hydrogen explosion inside its containment and this may have caused leaks. Why, given the events of 1978, were the plants at Fukushima, and indeed nuclear plants worldwide, not fitted with the fairly simple means of dispersing hydrogen gas to prevent explosion?
I regard the damage caused by the hydrogen explosions to be the main reasons why recovery from the Accident at Fukushima will take a much, much longer time than some suggest. In a statement that went viral around the world in the week of the Fukushima accident, I said that clean-up will take 50 to 100 years. I still think this is the likely timeframe.
There have been other, more fundamental lessons which were not learnt. Can there ever be proper regulation of Nuclear Power, or indeed any other major risk? Are not the regulators always part of the cause of the accident? For non-nuclear examples, think of the Gulf of Mexico oil spill. Think of situations where people are permitted to build cities in areas subject to Tsunami. Think of recent financial crises. Whoever authorises something also has responsibility for its consequences. They own the benefits and they own the disasters.
Once the plant was agreed to be built, there were many bargains struck between the Japanese regulatory authorities and Tepco, the owner of the Fukushima plant. No matter which government department had been the regulator, no matter how independent the regulator might have wanted to be, compromises had to be made.
Here are some questions which we might hope should have been asked during regular licensing discussions:
· What emergency equipment should be provided for accidents beyond the design basis of the original design?
· What was to be the size of the Tsunami protection?
· Should Fukushima Units 1-4 have been operating in 2011?
All of these questions have associated major costs, whatever the answers. In each of these discussions, the regulator would want more and more expensive things, and Tepco would seek a financially possible compromise.
The last question, as to whether Daiichi 1-4 should have been operating in 2011, seems to have the easiest answer. No. It was an old superseded plant, in the wrong place. Fukushima Daiichi Unit 1 started operation in 1971 using 1960s designs. Units 2 to 4 also used the same design, though they are slightly larger. By the late 1970s, the designer of this type of plant, GE of USA, had already replaced Daiichi’s Mark 1 design of reactor with a design that they said was safer. By the 1990s even safer plants were being offered.
In retrospect, the decision as to whether the units should have had their licenses extended seems reasonably easy for Japan in the 1990s. Replacement could have been planned, new and safer plants could have been built. And nuclear energy would still be fulfilling its promise for Japan. Instead, a different decision was made. They fitted new tyres to their 1971 banger rather than buying the newer and much safer model. I assume that we will eventually find out what happened during regulatory discussions about the Daiichi plants in the 1990s. Whatever did happen in these discussions, the wrong decision was made for Japan, and for the world.
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