2012418
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専門家コメント

環境中の微粒子の健康への影響について

Ver.1.0 (120418-17:00)

・これは、2012年4月11日にジャーナリスト向けに発行したサイエンス・アラートです。

・記事の引用は自由ですが、末尾の注意書きもご覧下さい。

<SMC発サイエンス・アラート>

環境中の微粒子の健康への影響について:専門家コメント

 春になると、関東地方では風が強く、ホコリが気になります。アレルギーを引き起こす花粉や、黄砂の飛来、また昨年に続き放射性物質の舞い上がりなど、空気中を浮遊する微粒子が気になる方も多いようです。

 近年、環境中の微粒子が人間の体内に入った場合の影響について研究が進んでいます。ナノ粒子(直径が1〜100ナノメートル程度の微粒子)は身近な製品にも使われるようになりましたが、どのような影響があるのか、また、今春、ホコリによる内部被ばくの心配はないのか、専門家にコメントをいただきました。

武田 健 教授(たけだ・けん)

東京理科大学薬学部

 直径が0.1マイクロメートル以下の超微粒子(ナノ粒子)が生体に与える影響について2000年からCRESTや学術フロンティアという資金を得て研究しました。ディーゼル車が大量のナノ粒子を排出しています。室内で1㎤あたり3000~5000個のナノ粒子が漂っていますが、交通量のある道路沿いではこれが2万個以上になることがあります。

 私たちの研究では、妊娠したマウスに東京で汚染がひどい地域と同じ程度にうすめたディーゼルエンジンの排ガスを吸わせ、産まれてくる子どもへの影響を調べました。その結果、子マウスの脳にナノサイズの黒い粒子状物質が認められ、様々な影響が出ることがわかりました。さらに、化粧品等に広く用いられている酸化チタンという物質のナノ粒子を母マウスの皮下に投与した所、子マウスの脳や精巣に移行し、影響を及ぼすことがわかりました。酸化チタンだけでなく、カーボンブラックなど炭素系のナノ物質でも影響がでることがわかりました。

 ヒトにおいては、海外で、大気中の粒子状物質の濃度と死亡者数の疫学的研究が発表されていますが、アメリカやヨーロッパの都市で粒子の濃度が高いほど死亡リスクが高いことがわかっています。

 ディーゼル車に関しては排ガスの微粒子を、より細かいものまで除去する技術を高めること。近年、工業的に開発・使用されるようになったナノ物質に関しては、引き続き、安全性を研究することが必要です。現在増加しているアレルギー性疾患などと微粒子との関係についての研究も今後の重要な課題と考えます。

市瀬 孝道 教授(いちのせ・たかみち)

大分県立看護科学大学 人間科学講座 生体反応学研究室

 一般に土壌ダストには直径が2.5~10μm(mmの千分の一)の微粒子が含まれますが、これらの粒子サイズの殆どが鼻腔や気管支で止まり、肺の奥までは約3%しか入っていきません。大気中の微粒子では、ディーゼルエンジンの排気ガスに含まれるすすが、0.5μm程度の大きさからナノ粒子サイズ(0.1μm以下)の大きさのもので肺の奥まで到達します。

 ディーゼルのすすも、黄砂(中国由来の土壌ダスト)もアレルギーを悪化させる原因として研究がなされています。これらは物理的に気道を刺激するほか、付着しているカビや大気汚染物質由来のような化学物質が気道を刺激することもあります。

 土壌ダストやディーゼル排気粒子が体内に入ると、マクロファージと呼ばれる自然免疫系やリンパ球が中心となる獲得免疫系が働き過ぎ、炎症反応を増悪したり、アレルギー炎症が悪化したりします。細菌による炎症やアレルゲンによるアレルギー炎症は、これらの粒子を吸い込むことによって重症化するので、なるべくダストを吸い込まないようにすることが大事です。

 例えば、コピー機のトナーも肺の奥まで到達するような炭粉ですので、トナー交換の時はマスクをした方がよいでしょう。

 普通のマスクで大丈夫ですが、インフルエンザ専用マスクなら、より細かいものも防ぐことができます。また、気管支喘息や花粉症をもった人は黄砂が飛来する時にはマスクをした方がよいでしょう。

桝本 和義 教授(ますもと・かずよし)

高エネルギー加速器研究機構

 現在、福島第一原発からの放射性物質の放出はつくばではほとんど検出できません。空気のサンプリングは、つくば市の国立環境研究所の建物のベランダ、地表7、8mのところでしています。ハイボリューム・エアー・サンプラーという装置で、空気を毎分何百リットルも吸って1週間分のホコリ(エアロゾルなど)をフィルターに集めて、高エネルギー加速器研究機構の検出器で測定しています。2011年の夏以降、つくば市のサンプリングでは、検出限界以下が続いています。花粉やホコリを吸い込んで内部被ばくをするという心配はありません。

 関東地方で大気中の放射性物質による内部被ばくの心配があったのは、2011年3月15日、21日です。ガス状の放射性ヨウ素も検出されました。

放射性セシウムは21日頃の雨で地表などに落ちました。しかし、放射性セシウムは土壌などの物質にくっつきやすく移動性が少なく、一気に吹き飛んでいったりしないので、雨風があってもそんなに放射線の線量率(マイクロシーベルト/時)は変わりませんでした。事故で放出されたセシウムは直径マイクロメートルのオーダーのエアロゾルとして漂いました。3月15日、21日でも、二日ぐらいすると空気中の放射性物質の量は100分の1ほどになりました。

 その後もときどき空気中の放射性物質の量は検出されることがありましたが、2011年6月以降は5桁から6桁下がり、観測できなくなりました。現在、放射性セシウムは湖の底に沈んだり、ヘドロとして沈殿しているものが問題になっています。水に落ちたものも、溶けずに沈んでしまうからです。

 地面からの線量が高いのは、空気は放射線を遮蔽しないからです。サーベーメータは80m離れたところからのガンマ線も測っており、何トンという地表面の土からの放射線を測っています。雪が降ると地面から数センチの雪であっても遠くからの放射線は遮蔽されてしまいますので、雪の日には線量が下がります。

 これに対して、ホコリからの放射線は微量すぎて検出不能です。呼気による内部被ばくについて気にされている方もいらっしゃるかもしれませんが、気にすべきは外部被ばくの方で、このコントロールは大事です。空気中のほこりについては、健康に影響を与える量が舞い上がることは考えなくてよいです。もし、心配であればマスクで防げます。

 黄砂については、4月下旬に強かったときにも放射性物質は検出されませんでした。時々、放射線量が増加する時がありますが、これは自然由来のもので、大陸起源のラドンが雨のときに一緒に落ちてくるので放射線量が高くなります。台風の場合は海から来るので放射線量は上がりません。

 お話しましたように、福島第一原発由来の放射性物質は、少しずつ減りながら、ときどき上昇することがありました。昨年、3月末、4月半ば、5月の連休と約2週間おきに上がることがありました。これらの記録は、環境放射能の測定結果として、KEKのサイトに掲載しています。

(URL: http://www.kek.jp/ja/Research/ARL/RSC/Radmonitor/

 

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