専門家コメント
今秋の台風の傾向とその理由について
Ver.1.1 (131030-17:00)
・これは、2013年10月27日にジャーナリスト向けに発行したサイエンス・アラートです。
・記事の引用は自由ですが、末尾の注意書きもご覧下さい。
<SMC発サイエンス・アラート>
今秋の台風の傾向とその理由について: 専門家コメント
気象庁によると、今年の秋の台風の発生数は平年と比べて多く、伊豆大島での土石流被害をはじめ広範囲に影響が出ています。
なぜ今秋の台風の発生数が多いのか、また、日本列島への接近が多いのか、という理由について専門家2人のコメントをお伝えします。
筆保 弘徳(ふでやす ひろのり)准教授
横浜国立大学 教育人間科学部 学校教育課程 理科教育講座
今年の台風に関しては、9~10月を通して多いのだと考えています。平均的に9月は4~5個、10月は3~4個位の台風が発生します。今年は9月に8個、10月もすでに平年より多く発生しています。しかし、年間の発生数で言えば、今年はまだ平年並みと言えるでしょう。
今秋の台風の日本接近数や発生数が多い要因
台風の軌道は発生位置と関連がありますが、秋の台風は北上しやすく、日本に接近しやすい傾向があります。これは秋になると偏西風が南下してくることが影響するためです。過去の発生位置の分布から、9~10月は比較的緯度の低い海域で台風が発生することが分かっています。しかし、今年の9月の台風は、平年に比べて高緯度で発生しているものが多く、それらが日本に接近しています。
9~10月の台風発生が多いのは、北西太平洋海域の海面水温が、平年よりも高いことが影響していると考えられます。台風を発生させる環境として、海面水温が高いのは好都合だからです。しかし、それだけでは台風は発生しません。さらに、台風発生を誘因させるトリガーが必要になります。
モンスーンの西風、偏東風波動 (注1)、MJO(注2) と呼ばれる大規模な現象などは、台風を引き起こすトリガーになることがわかっています。9月の台風発生数の多さは、MJOが関係しているのではないかと考えています。9月の雲の動きを解析すると、インド洋から太平洋の中央まで活発な雲の広がりが西から東へ動いています。これは、MJOが発生していたと考えられます。結果として、北西太平洋に雲が多いという状況が生まれ、台風の発生が多くなったのではないかと推測しています。
一方、10月の台風は、MJOではなく活発な偏東風波動が関係しているのではないかと考えています。台風は、東太平洋からやってくる大気の波によっても発生します。偏東風波動が台風の発生に影響している場合、複数の台風が東西に並んで発生する傾向があるのですが、その様子が10月に見られています。
地球温暖化との関係
温暖化で台風の発生が増えているのではないか、としばしば質問されます。しかし、温暖化した将来の気候では台風の発生数は減少する、または増減しない、との研究報告が多いようです。いっぽうで、勢力が強い台風でみると、その割合は増えそうだと考える研究者が多いです。
今後の展望
数ヶ月ほどすれば分析結果が出てくるので、より確かな事がわかるのではないかと考えています。
(注1)偏東風波動: 低緯度で吹く偏東風に含まれる大気の波。
(注2)MJO: マッデン・ジュリアン振動の略。インド洋で発生し、ゆっくりと東向きに進む雲の集団。インド洋で発生し、西太平洋の暖かい海水面上だけで見られる。熱帯域の天候だけでなく、エルニーニョ現象や熱帯低気圧の発生などとの関係が指摘されている。
大内 和良(おおうち かずよし)研究員
海洋研究開発機構 地球環境変動領域 全球雲解像モデリング研究チーム
今秋の台風が多い要因
10月に発生件数が多い要因は、大まかに次の4つに分けることができるでしょう。
1点目は、太平洋西側の赤道域の海水表面の温度が高いということです。海水表面の温度が高いことで大気中に含まれる水蒸気の量が増え、台風の発達が促されます。赤道付近では例年になく高い海の温度が観測されていますので、これが影響していると考えられます。
2点目はフィリピン東側の海水温が高かったということです。
3点目は、太平洋の中央にある太平洋高気圧が長く居座ったことです。台風は、この高気圧の西側を沿って日本に向かって来ます。今年は2点目で挙げたフィリピン沖の海水温の高温の持続が上昇気流を作り出し、上昇した空気がこの高気圧付近で下降する過程が持続的でした。
4点目は、台風の渦を作るきっかけとなる大気中の波や渦などの気象現象です。今年は太平洋を東から西へ進む偏東風波動という波が活発な場合が多かったと思われます。他にもモンスーン低気圧という、いわば低気圧の集合体がフィリピン沖の東側で持続していたことも関係していると思います。
海水面温度上昇の原因
太平洋西側の海水面の温度が高かった理由としては、ある気象現象が関係していそうです。太平洋の東部と西部の海水温度は、一方が高くなると他方が低くなるという関係にあります。ニワトリとタマゴの話になってしまうのですが、今回、太平洋西部の海水温が高かったのは東部で温度が低めだったからです。ラニーニャ現象 (注3)までには至らなかったのですが、東部が低めで西部が高めという状況がありました。
世界全体でみた台風の傾向
今年の台風の観測件数ですが、特に日本に近づくものが多い状況があります。日本に近づくものが多い分、太平洋東岸のアメリカを襲うような台風は例年と比べて少なくなっています。先ほど挙げた東西の海水温の構造が、この傾向に関係している一因と考えています。
今後の展望
将来の台風発生件数の予測を、我々はもっています。シミュレーションモデルによってまちまちなのですが、今後、西太平洋のより広い領域で海面水温が高くなる傾向がある場合、この海域の海面水温が高くなることによって今年の10月の様に強い台風が発生するわけですから、強い台風の発生件数が増える確率は高いでしょう。ただし、シミュレーションモデルはまだまだ不完全ですので、予測を精緻なものにする為にもシミュレーションモデルの研究を継続しなくてはなりません。
(注3) ラニーニャ現象: 太平洋赤道域の日付変更線から南米ペルー沿岸にかけて、海面水温が平年より低い状態が続くこと。この現象が発生すると世界中で異常な天候が起こると考えられている。
参考URL: http://www.data.jma.go.jp/gmd/cpd/data/elnino/learning/faq/whatiselnino.html
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