2014313
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SMCで扱うトピックには、科学的な論争が継続中の問題も含まれます。
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専門家コメント

3.11から3年~科学と社会に関する議論~

Ver.1.0 (140313-15:00)

・これは、2014年3月10日にジャーナリスト向けに発行したサイエンス・アラートです。

・記事の引用は自由ですが、末尾の注意書きもご覧下さい。

<SMC発サイエンス・アラート> 

3・11から3年:専門家コメント

2011年3月11日。東日本大震災でおきた地震や津波は、多くの人命をうばったばかりではなく、福島第一原発事故をも引き起こしました。その震災からもうまもなく3年がたとうとしています。日本全体で復興に取り組んできたこの3年間、どのような技術や知見を日本は得たのでしょうか。そしてこれからの日本は復興にあたり、どのような課題に取り組んでいくべきなのでしょうか。サイエンス・メディア・センターでは除染、放射線測定、健康、ロボットそれぞれのテーマにおいて専門家よりコメントをいただきました。

最終回の今回は震災後の科学と社会の関わりについて、社会学や政策の点から専門家のコメントをお送りします。

有本 建男 政策研究大学院大学 教授、(独)科学技術振興機構研究開発戦略センター 副センター長

政策研究大学院大学 教授、(独)科学技術振興機構研究開発戦略センター 副センター長

1974年京都大学大学院理学研究科修士課程修了、科学技術庁入庁。科学技術庁科学技術情報課長、原子力廃棄物政策課長、内閣府大臣官房審議官(科学技術政策担当)、文部科学省科学技術・学術政策局長、科学技術振興機構・社会技術研究開発センター センター長等を経て、2012年4月より政策研究大学院大学 教授。

 

東日本大震災後、科学者に対する信頼が大きく損なわれたということは間違いないでしょう。このことを踏まえた上で、現在最も大きな問題は、震災の前後で行政の中の専門家や専門家集団、政府の外の専門家集団である日本学術会議、各分野の学会がどのように変わったのかそしてどう行動しているのか、ほとんど発信されていないということです。どのような反省や検証を経て、どのようにルールを変えたのか、ということが外部の人間には全くわからないと思います。失われた信頼を取り戻すために、まずはこの点が重要でしょう。

震災によって科学技術と社会の間で多くの問題が顕在化しました。そして、震災の直後には総合科学技術会議(注1)や日本学術会議(注2)も問題点を発信しています。しかし、これらの発信が具体的な政策に反映されているとはいえません。ジョン・ダワーは「事故や災害を機にすべてを新しい方法で、創造的な方法で考え直すことができるスペースが生まれる。しかし、もたもたしているうちにスペースは閉じてしまう」(注3)と発言していましたが、まさにその通りで、非日常の下で従来の枠組みを変える思考をしようとする意識と空間は閉じてしまったようです。エネルギー基本計画案の作成の過程はその好例と言えるでしょう。政権交替前に行った原子力発電に関する3つのシナリオの作成や討論型世論調査といった社会実験的な試みはあまり取り入れられてはいないようです。

また、常日頃から政治家や行政と科学者との間でコミュニケーションをとることも重要です。安倍政権になって昨年6月に策定された科学技術イノベーション戦略では科学技術に関わる様々な立場の人間が政策対話を行うことが盛り込まれています(注4)が、まだ行われていません。政治主導のトップダウンで科学技術政策を進めるだけでなく、研究者や大学、ファンディング機関、省庁が対話し、共鳴していかなくては成果を得ることは難しいと思います。学術界の側でも、NatureやScience、Economistで繰り返し指摘されている通り、研究資金の使い方や大学のガバナンスを改革し、社会的責任と自浄能力があるということを発信していく必要があります。このことが、科学者の信頼を取り戻すこと、大学や研究活動への市民からの持続的な支持にもつながっているのです。

加えて、2011年の東日本大震災の後政府によって策定された、第4期科学技術基本計画の第5章(注5)では、科学と社会の対話、ELSI(倫理、法律、社会問題)、テクノロジー・アセスメントの強化が盛り込まれていましたが、昨年の科学技術イノベーション戦略では抜け落ちてしまっています。研究力を付ければイノベーションが起きるというシンプルな発想が根元にあるのでしょう。イノベーションは自然科学と社会科学のコンビネーション、社会の受容がなければ起こらない、という国際的な流れとは異なる方向に進んでしまっています。科学だけでは解決することができない問題群が顕在化した、いわゆる「トランス・サイエンス時代」の今、科学技術をガバナンスする方法も同時に研究し社会実践するべきです。

最後に、最近政府が作成したエネルギー基本計画案に関しては注目している点もあります。この計画案の第5章(注6)では、第3者機関を作り情報の整理発信を行い、さらに双方向的なコミュニケーションを充実させると明記している点です。これまで行政が取り組んできた、一方通行で原子力に関しての理解を求めるというやり方とは違ったものになるのではないかと期待しています。この動きが、科学技術政策全般にも広がることを期待しています。

 

注1  科学技術政策担当大臣、総合科学技術会議有識者議員「当面の科学技術政策の運営について」http://www8.cao.go.jp/cstp/output/20110502release.pdf(2014年3月6日アクセス)。

 注2  日本学術会議幹事会「東日本大震災からの復興と日本学術会議の責務」http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-21-kanji-3.pdf(2014年3月6日アクセス)。

注3 ジョン・ダワー、「歴史的危機を超えて」『朝日新聞』、2011年4月29日、15面。

注4 「科学技術イノベーション総合戦略−新次元日本創造への挑戦」p.54。 http://www8.cao.go.jp/cstp/sogosenryaku/honbun.pdf

 注5 「第4期科学技術基本計画」pp.40-49。http://www.mext.go.jp/component/a_menu/science/detail/__icsFiles/afieldfile/2011/08/19/1293746_02.pdf

 注6 「エネルギー基本計画(案)」、pp.71-73。http://www.enecho.meti.go.jp/topics/kihonkeikaku/140225_1.pdf

 

 

 

 

 

佐倉 統 教授

東京大学大学院情報学環 教授

1960年東京生れ。京都大学大学院理学研究科博士課程修了。理学博士。三菱化成生命科学研究所,横浜国立大学経営学部,フライブルク大学情報社会研究所を経て、現職。専攻は進化生物学だが,最近は科学技術と社会の関係についての研究考察がおもな領域。長い人類進化の観点から人間の科学技術を定位するのが根本の興味である。

 

震災後の国の政策のうち、原子力災害に関するものでプラスに評価できるものは、ほとんどない。原発災害には震災前の縦割り行政を越えて総合的に対応する必要があるのだが、その仕組みがうまく機能していないからだ。復興庁は内閣の傘下にあり、省庁の壁を越える体制にはっているが、放射線汚染を担当する環境省や、経産省の外局である原子力規制委員会との間での有効な連携体制が十分には構築できず、結果、除染作業が大きく遅れている。

唯一評価できるのは、原子力規制委員会が音頭を取った「帰還に向けた安全・安心に関する基本的考え方」の策定(2013年11月)で、これは本来復興庁が担当するべき内容を原子力委が積極的に動き、さらに各委員の住民側に立った発言が当初予定されていた帰還ありきの枠組みを変えることに成功して、避難住民の実態に即した提言に結実したものである。

資源エネルギー庁は、ようやく2014年2月にエネルギー基本計画を確定したが、原子力発電を重要なエネルギー源として位置づけ、原発新設の可能性を残したものとなった。その方針自体の当否はさておき、2012年の夏におこなった討論型世論調査で「2030年までに原発依存率をゼロにする」という選択肢がいちばん多く47%の国民の支持を得たのは、何だったのか。国民世論とは異なる方針を採用するならするで、きちんと議論し、検討を重ねなければならない。それをしないでズルズルといつの間にか変わっているというのは、3.11前、いや、太平洋戦争開戦のときとまったく同じである。この国には今も、変わらぬ無責任体制が継続している。

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