2015211
各専門家のコメントは、その時点の情報に基づいています。
SMCで扱うトピックには、科学的な論争が継続中の問題も含まれます。
新規データの発表や議論の推移によって、専門家の意見が変化することもありえます。
記事の引用は自由ですが、末尾の注意書きもご覧下さい。

専門家コメント

薬剤性難聴に関係する遺伝子多型に関する研究ついて:専門家コメント

・これは、2015年2月9日にジャーナリスト向けに発行したサイエンス・アラートです。

・記事の引用は自由ですが、末尾の注意書きもご覧下さい。

<SMC発サイエンス・アラート>

薬剤性難聴に関係する遺伝子多型に関する研究ついて:専門家コメント

アメリカの研究者らが、シスプラチンという抗がん剤の投与によって小児に起こる薬剤性の難聴(1.4%程度)が、ACYP2遺伝子のタイプ(多型)と関連しているという内容の研究を発表します。シスプラチンは幅広く用いられており、特に小児の聴覚に副作用が出やすいとされています。論文は2月10日、Nature Geneticsに掲載されました。この論文に対する専門家のコメントをお送りします。

 

【論文リンク】

Heng Xu. et al. 'Common variants in ACYP2 influence susceptibility to cisplatin-induced hearing loss', Nature Genetics 47, 263–266, 2015
http://nature.com/articles/doi:10.1038/ng.3217

 

岡田 随象 テニュアトラック講師

東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科

本研究では、238名の小児脳腫瘍患者を対象に、全ゲノムを網羅する数百万カ所の一塩基多型(SNPs)を調べる「ゲノムワイド関連解析(GWAS)」を実施しました。その上で、ACYP2遺伝子上でシスプラチンによる薬剤性難聴の発生と有意に関連するSNPを同定し、そのSNPをホモでもつ(2セットもつ)場合には、もたない場合の約3~4.5倍ほど難聴を生じやすいことを明らかにしました。この成果は、放射線治療の線量や発症年齢、治療計画の種類といった、既知のリスク要因に匹敵するインパクトをもつ可能性があると思います。ゲノムワイド関連解析は、疾患に関わる遺伝子多型の同定に大きな貢献を果たしてきました。しかし、薬剤副作用の原因遺伝子解明については未だ成果に乏しい状況にあり、その意味で今回の研究の意義は大きいと考えられます。

今回の成果を発展させることにより、将来的には、シスプラチンの投与前にあらかじめ遺伝子多型検査を実施したり、その検査結果や代替治療薬の効果を考慮することでシスプラチンの投与を回避するなどの判断が実施されるようになる可能性があります。あらかじめ遺伝子型を明らかにし、リスク要因の有無を調べておくことは、副作用の早期発見・治療につながる可能性があります。しかし、本研究では、サンプルが数百人という比較的少数であるため、異なる人種集団も対象とした、より多いサンプルでの追認研究が必要です。

シスプラチンはさまざまながんに使用されています。今回、同定されたACYP2遺伝子上のSNPが、その他のがんにおいても薬剤性難聴のリスク要因となっているかどうかの見極めには、さらなる検討が必要です。実際に、本研究では、これまでシスプラチンによる薬剤性難聴原因遺伝子として報告のあった遺伝子(TPMT遺伝子とCOMT遺伝子)とシスプラチンとの関連は見いだされておらず、複数の遺伝子が薬剤性難聴の原因となっていると思われます。今後の研究により、薬剤性難聴を含む副作用だけでなく、治療薬の効果の個人差を説明する遺伝子多型の全容も明らかにしていくことで、個人の特性に応じた「個別化医療」の実現が進められていくものと期待されます。

 

齋藤 武久 准教授

 

福井大学 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学

この論文は、ACYP2遺伝子の多型が、シスプラチン投与によって起こされる小児の薬剤性難聴に関係することを示す新たな知見であると考えられます。他にも薬剤性難聴に関わる遺伝子があります。例えばミトコンドリアのある遺伝子(1555A)の変異(G変異)は、特定の抗生物質(アミノ配糖体抗菌薬)に対する感受性が高いとされ、この遺伝子変異を有する患者は、アミノ配糖体抗菌薬を投与されると難聴が引き起こされることが知られています。

私は過去に、動物実験によってシスプラチンによる内耳毒性機序を観察してきました。ヒトの遺伝子解析に関しての専門家ではありませんが、シスプラチン投与前に今回の遺伝子多型をもつかどうかを調べることにより、難聴の発症を予防できると考えられます。また、シスプラチンが使えないとわかった場合は、他の薬剤による治療に変更することで難聴を回避できるでしょう。

記事のご利用にあたって

マスメディア、ウェブを問わず、科学の問題を社会で議論するために継続して
メディアを利用して活動されているジャーナリストの方、本情報をぜひご利用下さい。
「サイエンス・アラート」「ホット・トピック」のコンセプトに関してはコチラをご覧下さい。

記事の更新や各種SMCからのお知らせをメール配信しています。

サイエンス・メディア・センターでは、このような情報をメールで直接お送りいたします。ご希望の方は、下記リンクからご登録ください。(登録は手動のため、反映に時間がかかります。また、上記下線条件に鑑み、広義の「ジャーナリスト」と考えられない方は、登録をお断りすることもありますが御了承下さい。ただし、今回の緊急時に際しては、このようにサイトでも全ての情報を公開していきます)【メディア関係者データベースへの登録】 http://smc-japan.org/?page_id=588

記事について

○ 私的/商業利用を問わず、記事の引用(二次利用)は自由です。ただし「ジャーナリストが社会に論を問うための情報ソース」であることを尊重してください(アフィリエイト目的の、記事丸ごとの転載などはお控え下さい)。

○ 二次利用の際にクレジットを入れて頂ける場合(任意)は、下記のいずれかの形式でお願いします:
・一般社団法人サイエンス・メディア・センター ・(社)サイエンス・メディア・センター
・(社)SMC  ・SMC-Japan.org

○ この情報は適宜訂正・更新を行います。ウェブで情報を掲載・利用する場合は、読者が最新情報を確認できるようにリンクをお願いします。

お問い合わせ先

○この記事についての問い合わせは「御意見・お問い合わせ」のフォーム、あるいは下記連絡先からお寄せ下さい:
一般社団法人 サイエンス・メディア・センター(日本) Tel/Fax: 03-3202-2514

専門家によるこの記事へのコメント

この記事に関するコメントの募集は現在行っておりません。