2015428
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専門家コメント

極端な高温や豪雨に温暖化が与える影響について

・これは、2015年4月27日にジャーナリスト向けに発行したサイエンス・アラートです。

・記事の引用は自由ですが、末尾の注意書きもご覧下さい。

<SMC発サイエンス・アラート>

極端な高温や豪雨に温暖化が与える影響について:専門家コメント

スイス連邦工科大学チューリッヒ校の研究者らが、極端な高温や大雨に対して温暖化がどの程度影響を与えているのか検討した成果を発表しました。研究では、極端な高温のうち78%、大雨では18%を温暖化によるものとしています。論文は4月28日 のNature Climate Change に掲載されました。この論文に対する専門家コメントをお送りします。

 

【論文リンク】
Anthropogenic contribution to global occurrence of heavy-precipitation and high-temperature extremes, Fischer E. M. et al., Nature Climate Change, 2015, doi: 10.1038/nclimate2617.
http://nature.com/articles/doi:10.1038/nclimate2617

竹見哲也 准教授

 京都大学 防災研究所

本論文では、北ヨーロッパ(北緯48~75度、西経10度~東経40度)と北アメリカ(北緯12~66度、西経170~60度)のそれぞれの陸上地点で降水量と気温の極値(強い雨、高温)がどのように変化するかについて、多数の気候モデル予測実験のデータにより検討されています。気候モデルの予測には一定程度の不確実性が含まれており、完璧なものとは言えません。予測結果はモデルにより大きくばらつきます。本研究では、そのようなモデルの不確実性による予測の不確定性を排除するための工夫をした解析手法を採用しており、この点は評価できます。得られた結果は、従来から知られていた知見と矛盾せず、このことからも本研究の解析手法は妥当であると言えます。

近年の研究では、熱波や洪水など顕著な災害事象の温暖化影響を評価するために、多数のシミュレーション結果を利用して事象の発現確率を求める、イベント・アトリビューションという手法が用いられています。一方、本研究では別のアプローチを提案しており、今後の研究でも利用できるような選択肢の提案として評価できます。加えて、得られた数値上の結果を客観的な姿勢で記述している点も評価できます。

ただし、対象とした北ヨーロッパと北アメリカが広大な領域という点には注意すべきでしょう。論文中の図でも示されているとおり、気温や降水量は地域毎に大きく変化しており、解析対象とした地域内でも空間分布のばらつきがあります。このような大きな地域を全体として見たうえで、統計的な処理によってようやく数値を導くことができたといえます。論文でも説明されていますが、気温や降水量を調べる時間単位を日単位でなく、5日単位・半月単位・一ヶ月単位といったように長くすればするほど、極値の統計的な性質は信頼度が増します。このように、極端な気象現象の発現特性の評価は、対象地域の広がりや評価時間の違いにも影響を受けるのです。評価する空間的な広がりを小さくし、かつ評価時間を短くしても、「より短時間に生起する局地的な極端気象現象が温暖化によってどのように影響を受けるのか」を評価するには、まだまだ研究が必要でしょう。

藤部 文昭 特任教授

 首都大学東京 都市環境学部 地理環境コース

この論文は、世界の研究機関が行った25の気候モデル計算による再現・予測結果を使って、地球上の極端な高温と大雨(極端事象)に対する温暖化の影響の大きさを評価したものです。その結果によると、0.85℃の温暖化が起きている現状に関しては、99.9パーセンタイル(1000日に1回)の高温と大雨のうち、それぞれ75%と18%が温暖化によるものとされています。一般に、温暖化が進めば極端な高温や大雨が増えると考えられていますが、今回の研究は「その影響がどの程度のものなのか」という問いに1つの答えを与えるものです。

ただし注意を要するのは、75%や18%と言うのはあくまでも統計上の数値であり、1つ1つの大雨事例を、これは温暖化によるもの、これはそうでないものという風に色分けできるわけではないという点です。それは著者も論文の3ページの最後で述べています。一方、個々の極端事象について温暖化の影響度合いを評価する方法としては、イベント・アトリビューション*というアプローチがあります。これについても著者が4ページで触れていますが、今回の研究とイベント・アトリビューションとはどちらが良いかということではなく、それぞれの特質を生かして極端事象と温暖化との関係の理解を進めていくべきものだと思います。

なお著者はモデル計算結果について、近年を対象にした部分が観測事実とほぼ合うことを根拠にしてその信頼性を強調していますが、モデル結果には程度の差はあれ不確実性があります。そうした不確実性を考慮したとき,75%や18%などの数値にどの程度の幅を持たせて考えればいいかという問題が、残された論点の1つであろうと思います。

 

*イベント・アトリビューション: 特定の異常気象や極端事象について、人間活動の影響の大きさをモデルで評価する手法。人為的な要因で異常気象などの発生確率がどの程度変化したかを評価するのに用いられる。

 

塩竈 秀夫 主任研究員 

 国立環境研究所 地球環境研究センター 気候変動リスク評価研究室

人間活動による地球温暖化に伴い、極端に暑い日や強い降水の頻度が既に増加していることが知られており、このまま温室効果ガスの排出削減が進まなければ、将来はより頻度が増すことが予測されています。この論文では、全世界平均気温が0.85℃(産業革命前から現在までの上昇量)、2℃、3℃、4℃と上昇していった場合に、極端に暑い日や強い降水の発生頻度が非線形に何倍、何十倍にも増加することが改めて示されました。また疫学の統計手法を応用して、極端現象の発生に対する温暖化の寄与率が上昇していくことも示しています。

論文の結果自体は、それほど目新しいわけではありませんが、温室効果ガスの排出を削減できずに全世界平均気温が上がれば極端現象の発生確率がどれほど変わるか、逆に排出削減に成功すればどれほど極端現象の変化を抑制できるかを、一般の方や政策決定者にもわかりやすく示したことに価値があると思います。このような気候変動予測の情報をふまえながら、実際にどのように温室効果ガスの排出を削減していくかが重要な課題になっています。

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