2015714
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専門家コメント

細長いインディカ米で、品質向上に関わる遺伝子を発見

専門家コメント・これは、2015年7月10日にジャーナリスト向けに発行したサイエンス・アラートです。

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<SMC発サイエンス・アラート>

細長いインディカ米で、品質向上に関わる遺伝子を発見

中国の研究チームは、長粒のコメ(インディカ米)の品質を向上させる鍵となる遺伝子を発見したという2つの研究成果を発表しました。コメの粒の長さやデンプンの密度に関する遺伝子で、インド型の品種の改良に役立つ成果としています。論文は7月7日付けのNature Geneticsに掲載されました。この件についての専門家コメントをお送りします。

【論文概要リンク】

Shaokui Wang, et al., 'The OsSPL16-GW7 regulatory module determines grain shape and simultaneously improves rice yield and grain quality’, published in Nature Genetics.
http://nature.com/articles/doi:10.1038/ng.3352
 
Yuexing Wang, et al., 'Copy number variation at the GL7 locus contributes to grain size diversity in rice’, published in Nature Genetics.
http://nature.com/articles/doi:10.1038/ng.3346 
 

 
 

矢野 昌裕 所長

国立研究開発法人 農業・食品産業技術研究機構 作物研究所

作物の収穫量を増やすために、いろいろな研究が進められています。コメは世界人口の約半分のカロリー源となっており、粒の大きさや数を増やす遺伝子を解析して、品種改良に役立てる研究が進められています。
 
今回発表された二つの研究によって、粒の縦方向の長さを増大させ、収穫量の低下を引き起こさずに、コメの品質を向上できる遺伝子(qGW7/GL7)があきらかになりました。
 
Qianらの研究では、qGW7と命名された遺伝子が種子の縦方向の細胞分裂を促進することによって、粒を長くすることを明らかにしています。長粒を作り出すqGW7はデンプン粒を密につまらせることによって、心白(粒の中心が白く濁っている状態)のような品質の低下を改善することも示されています。
インド型品種の長粒の原因遺伝子gs3と組み合わせることによって、収量を維持あるいは増加させるとともに、品質を向上させることを示唆した研究です。
 
一方、Fuらの研究では種子の大きさを決定する遺伝子GL7を同定し、粒の縦の細胞の長さを増加させる機能を司ることを明らかにしました。GL7の場合は遺伝子のコピー数の多型(CNV)、今回の場合はコピーが増えたことによって遺伝子の機能が向上し、長粒化につながっています。CNVが形質に影響を与える具体的な事例として興味深い知見です。
 
今回の研究では、群落レベルでの収量の調査までは行っておらず、実際に、収量増大にどの程度貢献するかは今後の研究が必要ですが、qGW7/GL7は粒の大きさを調節する新規遺伝子としてインド型(長粒タイプ)のF1品種(異なる系統や品種を交配して作る、1代目の優良な品種のこと)の育成に利用できると考えられます。品質については、デンプンが密に詰め込まれ、粒の品質も向上していると結論しています。しかし、コメの品質は粒の大きさに依存して変わることがわかっていますので、GL7qGW7が直接、種子の品質を改善しているかどうかについては、さらなる検証が必要です。また日本のイネ品種は短粒タイプなので、今回明らかになった遺伝子を日本のイネ品種改良にそのまま利用することは難しいと考えられます。

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