2015717
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専門家コメント

小細胞がんの原因遺伝子、全ゲノム解析で見つかる

専門家コメント・これは、2015年7月13日にジャーナリスト向けに発行したサイエンス・アラートです。

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<SMC発サイエンス・アラート>

小細胞がんの原因遺伝子、全ゲノム解析で見つかる

ドイツ、アメリカ、日本などの国際的な研究チームは、「TP73遺伝子とRB遺伝子の2つのがん抑制遺伝子が、ともに働いていない場合に小細胞がんが発症する」との研究成果を発表しました。小細胞がんは肺がんの一種で、腫瘍の発育や転移がきわめて早く、予後が悪いがんとして知られています。論文は7月14日付けのNatureに掲載されました。この件についての専門家コメントをお送りします。

【論文概要リンク】

Jullie George, et al., 'Comprehensive genomic profiles of small cell lung cancer’, published in Nature.
http://nature.com/articles/doi:10.1038/nature14664

大木 理恵子 主任研究員(グループリーダー)

国立がん研究センター研究所 希少がん研究分野

小細胞がんは、肺がんの中でも特に予後の悪いがんとして知られています。喫煙が主な原因と言われており、肺がんの中で15%程を占めています。治療開始からしばらくは化学療法が有効なのですが、多くのケースで再発し、再発後は数ヶ月で亡くなる患者さんが多い疾病です。近年、非小細胞肺がんでは効果的な分子標的薬が開発されましたが、小細胞がんでは大きな治療の進歩はありませんでした。
 
本研究では、110例の小細胞がんを対象に全ゲノムの解析を行っています。化学療法が中心であり、外科手術検体を得るのが難しいことを考えると、今回のサンプル数は十分な数と言えるでしょう。著者らが指摘した、小細胞がんではTP53遺伝子とRB遺伝子が高い確率で不活化しているという点は、2012年に2つのグループが全エクソーム解析(タンパク質を作る遺伝子、すなわちエキソン部位のすべてを対象とする解析)を行った結果とも一致します。その他にもTP73遺伝子が13%、NOTCH遺伝子では25%の確率で変異していたことが報告されました。小細胞がんにおけるTP73遺伝子の変異は新規の報告です。NOTCH遺伝子が関係していることは以前から指摘されていましたが、これまで考えられていたよりも高い確率で変異が起きていました。さらに著者らは、すでに分子標的薬が実用化されているKIT遺伝子やBRAF遺伝子の変異についても指摘しました。ただし、これらの遺伝子変異は頻度が低いので、KIT遺伝子やBRAF遺伝子の分子標的薬は小細胞がん全体に有効とは言えません。
 
がんでもっとも高頻度に変異が認められると言われるTP53遺伝子は、小細胞がんでは、ほぼ全例で変異が認められ、TP53遺伝子の小細胞肺がんにおける重要性が再確認されました。今後、小細胞肺がんを含めた多くのがん治療を大きく前進させるためにもTP53遺伝子を標的とした治療薬の開発がとくに重要だといえます。一方、RB遺伝子を標的とした薬剤の開発は、小細胞がんのようにRB遺伝子変異の頻度がきわめて高いがんは珍しいため、あまり進められていません。今後のRB遺伝子を標的とした研究開発が期待されます。その他にも、NOTCH遺伝子に対する分子標的薬ははまだ承認されていないものの臨床試験が進められているほか、TP73遺伝子に対する分子標的薬も研究が進められています

 

関戸 好孝 副所長

愛知県がんセンター研究所
兼任 愛知県がんセンター研究所 分子腫瘍学部 部長

小細胞がんは、肺がん全体の約15%を占めています。小細胞がん以外を非小細胞がんと呼び、そのうちの腺がんに分類されるタイプでは、上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子やALK遺伝子などの「鍵となるがん遺伝子の変異」が次々に明らかにされています。これらの遺伝子変異をもつ肺がんには、ピンポイントで働く分子標的阻害薬がよく効き、治療戦略も大きく変わってきています。一方、小細胞がんは極めて悪性度が高く、一時的には抗がん剤や放射線療法などが効くものの、すぐ耐性を獲得するために予後は極めて不良です。早い段階で転移することから、手術可能な症例も少ない状況です。
 
小細胞がんは、発がんに関与する遺伝子の探索や解析も遅れており、ゲノムレベルの異常についても腺がんのようにはわかっていませんでした。本論文は110例の小細胞がんを対象に全ゲノムを網羅的に解読し、全体を通しての異常を初めて明らかにしました。従来から小細胞がんでは、がん抑制遺伝子の代表であるTP53遺伝子とRB遺伝子が高い確率で変異していることが知られていましたが、今回、著者らはほぼ全例で「両遺伝子の変異による不活化」がみられることを明らかにしました。また、変異によるTP73遺伝子の異常な活性化、NOTCH遺伝子の不活性化についても報告しています。いずれも、非常に興味深い知見だと思います。さらに、頻度は低いもののBRAF遺伝子やKIT遺伝子などの変異も見つかったとしていますが、これらは分子標的治療薬が利用可能ながん遺伝子変異ですので、今後、小細胞がんにも使われるようになると思われます。

まとめると、本論文は、肺がんの中で最も難治性でありながら解析の遅れていた小細胞がんに関して、ゲノム異常の本体を明らかにした点で極めて高く評価できると思います。今後、ゲノム異常に基づく新たな治療戦略が開発されることが期待されます。 

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