2015824
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専門家コメント

劇症型溶血性連鎖球菌感染症の患者数増加

・これは、2015年8月20日にジャーナリスト向けに発行したサイエンス・アラートです。

・記事の引用は自由ですが、末尾の注意書きもご覧下さい。

<SMC発サイエンス・アラート>

劇症型溶血性連鎖球菌感染症の患者数増加:専門家コメント

8月18日に国立感染研究所が発表した、第32週の「感染症発生動向調査」の週報によると、今年の「劇症型溶血性連鎖球菌感染症」の患者数が8月9日までに全国で279人に達しました。これは統計を取り始めた1999年以降、最も多いとのことです。都道府県別では、一番多いのが東京都で44人、次いで大阪府が28人、神奈川県が20人、千葉県と兵庫県が15人などとなっており、すでにさまざまなメディアに取り上げられています。

この件についての専門家コメントをお送りします。

 

寺尾 豊 教授

新潟大学 大学院医歯学総合研究科 微生物感染症学分野
歯学部 副学部長

感染症は、微生物とヒトの相互作用の中で生じる病気です。そのため、「劇症型溶血性連鎖球菌感染症」を論じるときも、溶血性連鎖球菌(溶連菌)とヒトの双方に着目する必要があります。古くから、溶連菌はヒトに咽頭炎を起こす細菌として知られていましたが、1980年代頃から劇症型を示す事例が世界的に報告されています。

2000年以降、溶連菌の遺伝子解析が進み、次の3点の特徴が明らかになってきました。

(1) 劇症型の溶連菌では、旧来型の遺伝子に捻れが生じ、遺伝子がブロック単位で入れ替わっている場合が多い。

(2) 劇症型では、病原性を発揮する遺伝子(病原遺伝子)が変異したり、他細菌由来の病原遺伝子が入り込むなどして、毒素類の生産量が増えていることが多い。

(3) 溶連菌を分類する「M型別法(血清型により100種以上に分類)」で調べると、劇症型からは特定の「M型溶連菌」が多く分離される。

しかし、劇症型患者さんと同じ溶連菌に感染していた家族が、咽頭炎や軽いカゼ様症状であったケースも認められています。

劇症型を発症した患者さん側に着目した研究からは、特定のHLA型(ヒトの免疫に関する遺伝子型)が多い傾向にあることも示されています。したがって、劇症型を必ず起こすイメージを抱かせる「劇症型溶連菌」という表現は適切ではありません。先に述べたような、「劇症型に移行しやすい溶連菌の特徴」を医療関係者が共有し、そのような菌に感染している場合は、重点的な経過観察を行い、抗生剤を早期に、大量に投与できる準備を整えておく必要があると考えます。

今回の報道のようにメディアで広く啓蒙してもらうことで、患者さんの意識や知識が高まり、早期受診に繋がればと思います。1990年代後半から、厚生労働省の研究事業で「劇症型溶連菌」が課題設定されました。その成果公表もあり、近年は医療従事者の本感染症に対する理解・診断力が広まったと考えられます。今回の劇症型溶血性連鎖球菌感染症の患者数増加は、これまで鑑別できなかった症例でも、劇症型溶連菌と診断できるようになり、感染症発生動向調査においても数値データが高くなっているのではないかとも推察しています。感染症は正確な知識と診断があれば、予防と重症化の抑制が可能な病気です。今後もメディアと行政が積極的に感染症について取り上げてくれれば、広く国民のメリットに繋がると考えます。

 

 

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