2015912
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専門家コメント

がん化につながる染色体の不安定性、普遍的なしくみの解明へ

・これは、2015年9月5日にジャーナリスト向けに発行したサイエンス・アラートです。

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<SMC発サイエンス・アラート>

がん化につながる染色体の不安定性、普遍的なしくみの解明へ:専門家コメント

東京大学分子細胞生物学研究所の丹野悠司助教らの研究チームによって、がん組織由来の培養細胞には、染色体制御が不安定化しているものが多いとの成果が発表されます。同チームは、細胞分裂の際に染色体分配を担う中央部分(セントロメア)に着目し、化学修飾をはじめとするタンパク質の異常について検討し、がん化の鍵といえる「ゲノムの不安定性」を引き起こす普遍的な分子機構の一端を明らかにしたとしています。成果は、新たながん治療薬開発にもつながると期待されます。論文は11日、Scienceに掲載されました。

本件についての海外専門家コメントをお送りします。

 

【論文】

Yuji Tanno, et al.," The inner centromere-shugoshin network prevents chromosomal instability" , published in Science

http://www.sciencemag.org/content/349/6253/1237.short

 

深川 竜郎 教授

大阪大学大学院生命機能研究科染色体生物学研究室

今回の論文にある「シュゴシン(SGO1)」というタンパク質は、2010年に研究チームの渡邊先生が、分裂酵母の「染色体が複製された際に互いを接着する因子」として同定したものです。同チームは、「染色体の分配」という生命現象の基盤となる研究を続けており、このタンパク質が染色体分配に関係することを証明してきました。

今回、発がんの初期にある細胞において、SGO1を含むネットワーク機構が乱されていることを明らかにしたのは、素晴らしい成果であり評価できます。研究チームは詳細な解析を行い、SGO1が「DNAの密な凝集(ヘテロクロマチン)」や、「ヘテロクロマチンの指標となるヒストンタンパク質H3の9番目のアミノ酸(H3K9)のトリメチル化」と関連することを示しました。

また、SGO1が不安定化しても、H3K9のトリメチル化を誘導する遺伝子操作でがん化が抑制されうることを示したのも画期的なことです。しかし、「H3K9トリメチル化の抑制」や「コヒーシン(複製した染色体を切り離すタンパク質)の減少」がどのようにしてがん化のきっかけを作るのか、初期段階でなぜこれらの現象が生じるのかについては明らかにされていません。

さらに研究チームは、染色体分配の最初の異常を起こす要因に、H3K9を脱メチル化する酵素の過剰発現があるとしていますが、この現象が、どんながんでも起きるのかどうかは不明です。これらの点を明らかにし、がん化との関連についてさらに研究を進める必要があるでしょう。今回の研究には製薬会社が大変注目すると思われ、実際に新たな抗がん剤の開発に結びつく可能性もあると思いますが、「今の段階ですぐに」というわけにはいかないでしょう。

 

河野 隆志 分野長

国立がん研究センター研究所 ゲノム生物学研究分野
兼任 国立がん研究センター先端医療開発センター分野長

がん細胞では染色体の増加や欠落が起きていることが1世紀以上も前から知られてきました。1997年に米国ジョンズホプキンス大学のVogelstein博士らは、こうしたがん細胞の根源的な性質を「染色体不安定性」 (CIN :Chromosomal instability)と名付け、染色体分配の異常がその原因であると提唱しました。その後、多くの研究がなされましたが、不安定性の原因について十分に説明できる報告はありませんでした。

今回、著者らは、17例のがん・非がん細胞株を用いて染色体分配の特徴を詳細に解析し、がん細胞における染色体不安定性の分子メカニズムを以下のように突き止めました。

 

[1] 染色体を構成する主要なタンパク質(ヒストン)のメチル化修飾(メチル基の付加反応)が低下する。

[2] もしくは、複製した染色体を切り離すタンパク質(コヒーシン)の機能が低下する。

[3] [1][2]により、染色体分配を制御する「中心体-シュゴシンタンパク質」のネットワークが破たんする。

 

さらに、様々ながんでみられるRB1遺伝子の欠損や遺伝性の乳がん・卵巣がんでみられるBRCA1遺伝子の欠損が、ヒストン修飾やコヒーシン機能の低下をもたらすことを示しました。

本論文は、多くのがんにみられる染色体不安定性の原因を突き止めた点で、高く評価されます。細胞のがん化の解明に大きな進展をもたらすだけでなく、正常細胞を傷つけずにがん細胞だけを破壊するような特異性の高い治療法の開発につながることも期待されます。ただし、染色体分配制御の異常を引き起こす遺伝子異常はほかにもあると考えられるため、今後のさらなる研究が必要と考えます。

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